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関電金品受領問題がコンプライアンス上、最低・最悪である理由 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原 信郎

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公益的事業を担う電力会社のコンプライアンスの観点から

 コンプライアンスは「社会の要請に応えること」ととらえるべきであり、とりわけ、公益的事業においては、「法令遵守の範囲内で自由競争に委ねる」という単純な考え方ではなく、多数の重要な社会的要請の実現の同時実現という困難な問題に取り組み、社会からの信頼を確保することが不可欠だ。

 原子力事業に関してみれば、福島原発事故で、それまでの「原発安全神話」が崩壊し、日本社会が、原発の是非やその安全性、それを運営する電力会社の信頼性に対して、それまで以上に重大な関心を持つようになった。それまでは、「安全神話」の下で原発の建設や稼働のために不透明な形で「地元対策」「理解活動」が行われてきたが、それとは全く異なる、透明性・公正性を重視した対応を行わなければならなくなったのである。ところが、今回の問題で明らかになったのは、関電という電力会社の原発問題への対応が、福島原発事故以前と何一つ変わっていなかったということだ。

 森山氏からの金品供与を拒絶できなかった理由も、返還できなかった理由も、結局のところ、「地元の有力者に頼って原発事業への賛成を確保する」というやり方において、森山氏が重要な存在だったからだ。そういう関係に頼って原発事業を進めようとすること、そのために不透明な金の流れを生じさせること自体が、コンプライアンス上許されない「時代錯誤」の考え方と言わざるを得ない。

 岩根社長は、今回の問題について、「不適切だが違法ではない」ということを強調した。確かに、森山氏との関係も、法令や社内規則のどの規定にどのように違反するかと言えば、今のところ明確ではない。しかし、福島原発事故後、原発を運営する電力会社の「信頼性」が重要となる中で、電気料金で賄われる資金で原発立地地域に不透明な金をばらまくことなど、社会的に許容されるものではなくなった。ましてや、ばらまいた資金の一部が電力会社幹部に還流していたという今回の問題ほど、電力会社に対する信頼を崩壊させるものはない。「社会的要請に応える」というコンプライアンスの観点からは、最低・最悪の行為である。

不祥事対応に関するコンプライアンス上の問題

 今回の問題を組織として把握した後の対応に関するコンプライアンス上最大の問題は、調査委員会による調査で関電幹部の金品受領の事実が明らかになっていたのに、1年にもわたって公表せず、隠蔽したことだ。上記のとおり、電力会社にとって、最低・最悪のコンプライアンス違反行為であり、「不適切だが違法ではない」などという理由で、調査結果を公表しないことはあり得ない。

 それによって、森山氏が今年3月に死亡する前に、会社役員の収賄罪等の捜査に着手することができず、「犯罪性」を刑事手続きで明らかにすることが困難になった。「刑事事件に発展する可能性のある重大な事実を隠蔽した」というのは、コンプライアンス上極めて重大かつ深刻な問題である。

 この点に関しては、調査委員会に「外部者」の委員として加わり、調査及び調査報告書作成に関与した弁護士が、このような極めて重大な不祥事について、「不適切だが違法ではない」との理由で、公表せず隠蔽することにお墨付きを与えたとすれば、弁護士として極めて不適切な対応と言わざるを得ない。

第三者委員会調査で解明すべきポイント

 電力会社史上最悪の不祥事を起こし、調査委員会の調査でその事実を把握しながら1年にもわたって問題を隠蔽したという最悪の対応を行った関電幹部に対する信頼は完全に失墜した。それだけに、中立・独立の第三者委員会の設置は不可避だったと言えよう。

 第三者委員会の設置は、通常、不正や違法行為などが明らかになった不祥事について、詳細な事実解明を行って原因究明と再発防止策の策定を行うことを目的として行われる。しかし、今回の問題では、関電側は不正や違法行為を否定しており、その点についての事実解明と評価が最大の焦点となる。第三者委員会のメンバーは、委員長の但木氏をはじめ、裁判所、弁護士界という法曹の世界のキャリアという面でも、中立性・独立性という面でも「申し分のない人達」だが、76歳の但木氏をはじめ、いずれも高齢であることに加え、少なくとも、不祥事の事実調査という面で経験がある人はいない。問題は、誰が中心となって調査を実行し、事実を解明していくのか、どのような調査を行うのかである。

 第三者委員会が調査によって解明すべき最大のポイントは、森山氏から関電幹部に「還流」した多額の金品の原資と、関電の高浜原発に関連する発注との関係である。

 原発関連の発注によって、森山氏に関連する業者に過大な利益が提供されていたからこそ、その一部が、森山氏から関電幹部に金品が提供されていたものだと疑われるのが当然である。この点について関電側の「不正行為」があった場合には、会社取締役、監査役等が「その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受した場合」等に成立する会社法967条の会社役員の収賄罪の適用もあり得るということになり、コンプライアンス上の問題は、さらに重大かつ深刻なものとなる。

 関電の発注は、電力会社の調達として、本来、競争性・公正性の確保というルールに則って行われなければならない。原発事業の運営への協力・貢献に対して対価を支払うのであれば、発注とは別個の「支払い」として経理処理されなければならず、工事や業務発注で過大な利益を与えることは許されないはずである。もし、発注によって、森山氏の関連企業に過大な利益が上がるような措置をとっていたとすれば、発注に関して何らかの「不正」があったことになる。

 その方法として、まず問題となるのは、高浜原発関連の発注での競争制限行為に関電側が関わることよって特定の業者が過大な利潤を得ていた可能性である。発注者の関電が、「森山氏関連業者」への下請発注で利益を供与することを約束している入札参加業者に受注させる「談合」が行われるように示唆することで、関電からの受注業者を通じて「森山氏関連企業」に利益が提供されていた事実はなかったのか。

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