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GSOMIA失効回避から考える国際ビジネス交渉術 浅羽祐樹・同志社大教授に聞く

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 ――韓国側からは日韓企業が資金を出し合い韓国政府も出資する「1+1+α」や、日韓の企業と個人からの寄付金を元徴用工らに支給する案などさまざまなプランが出ています。

 「国家間関係の信義則が核心です。たとえ韓国企業が大半を肩代わりしても、日本企業が慰謝料相当分を拠出するならば原則に反します。他国との関係にも影響しかねません」

 「第2のポイントはそれぞれのポジションの人々に伝わるメッセージを送ることです。韓国政治では大統領府、内閣、国会、大法院、憲法裁判所、政党、市民団体、有権者、進歩派、保守派とさまざまなプレーヤーが影響力を持っています。日本に対する姿勢も反日、克日、用日、知日とさまざまです。同一視するのは賢明ではありません。重要な隣国であるとは認識している、しかし譲れない一線があるというメッセージをを明確にすべきです」

 ――しかし文政権を支えている進歩派は一枚岩ではないのですか?

 「同じ進歩派でも大統領官邸で文政権を実際に動かしている『86世代』(80年代に大学生で民主化を経験した60年代生まれの人々)と20代では価値観が違います。86世代にとって重要なのは対米自立・対北宥和です。厳しい競争社会に身を置く若い世代にとっては公正であることこそが大切です。子女の不正入学という疑惑を持たれた曺国氏から真っ先に離反したのは20代でした」

 「ソウル市の大型書店では、日本コーナーに日本の現政権への批判本であふれています。バランスの取れた情報発信をするような戦略も進める必要があります」

■経営戦略にも有効な「パブリックディプロマシー」

 ――GSOMIAでは最終局面で米国防長官らがソウルに赴いて、破棄を思いとどまるよう説得しました。米韓問題にまで進んでしまった印象があります。

 「グローバル化が進む現代世界では、当事者の2国間だけで問題を解決できることは、かえって少ないでしょう。国際社会の支持や好意を受けられるよう日ごろから目配りしておくことは大事ですね」

 ――ただ国家でも企業でも、単に利害関係だけでは、関係者全員を納得させにくいのも事実です。

  「交渉の落としどころを探るときに、心と精神を勝ち取る『パブリックディプロマシー』が重要になります。2016年に広島を訪問したオバマ米大統領(当時)は、原爆被爆者を抱きしめて日本中に大きな感動を呼び起こしました。しかしオバマ氏は原爆投下については謝罪していないし、日本も求めませんでした。こうしたノウハウは企業のグローバル展開でも有力だと思います」

 「『歴史問題』というのは、当事者の2国間で共有できる将来ビジョンを描けなくなったときに浮上します。この問題の解決策のひとつは、共通のテーマに取り組むことかもしれません。日韓には少子高齢化や安全保障、世代間のギャップ、ジェンダーに対する感受性など同じ悩みは少なくありません。対立している領域とは別に、なんとか共通分母を広げていきたいところです」

(聞き手は松本治人)

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