世界標準化から地域標準化へ
いずれにしても世界標準化マーケティングは産業財やコカ・コーラ、iPhone等の一部消費財を除きほとんど成功しなかったので、コスト削減と現地適合化の両方を満たす方策として地域標準化マーケティングが志向されるようになった。地域標準化マーケティングは「地域内で標準化する」という意味では標準化マーケティングであるが、「(世界全体ではなく)地域に適合化する」という意味では適合化マーケティングである。現代では、途上国で生じたイノベーションが先進国に逆流するリバース・イノベーションが注目されている。マーケティングにおいても同様のことが起こっており、ここではそれをリバース・マーケティングと記載している。インドで開発されたGEヘルスケアの低価格心電計「MAC400」が先進国でも利用されていることは有名であるが、中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)が開発した動画共有アプリ「TikTok」も日米を含む世界中で人気を博している。
グローバル・マーケティングは、国内市場も世界市場の一部とみなし、「国内vs.海外(国際)」という区分けをしない。もともと「世界市場」という市場はなく、あるのは日本市場や米国市場、中国市場などの個別市場である。ただ、時間の経過とともに展開する市場の数が増え、多様なマーケティングが国境を超えて同時に遂行されるようになると、管理・統合・調整の困難さが大きくなる。味の素(株)の場合、2000年前後に海外拠点での開発が活発化し、生産・販売のみならず開発のグローバル・ネットワークが構築されていった。
このように、多くの国・地域でのマーケティングを同時に意思決定して、開発・生産・販売・物流・販売促進などを管理・統合・調整しなければならない点が国内マーケティング「だけ」の時と決定的に異なるところである。グローバル・マーケティングは世界の政治・経済・文化などを背景に、世界の競合ならびに現地の競合と熾烈(しれつ)な競争を展開しながら実施されねばならない極めて高度なマーケティングとなっている。
専門はグローバル・マーケティング。日本流通学会(理事,前会長)など多くの学会で要職を務める。企業などで海外市場開拓を担う実務家らを講師として招く「グローバル・マーケティング研究会」を主宰。同研究会は第一線のマーケッター、研究者ら約3000人の会員が登録する、実務と学術をつなくグローバル・マーケティング研究の拠点になっている。近著に「グローバル・マーケティング零」(白桃書房)、「実践的グローバル・マーケティング」(ミネルヴァ書房)など