デジタル時代の競争政策

デジタル・プラットフォーム企業による市場支配と競争政策(下) 公正取引委員会委員長 杉本和行

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プラットフォーム型ビジネスに関する取引環境の整備

 公正取引委員会はプラットフォーマーの取引実態に関する調査の中間報告を2019年4月に発表した。この中間報告は、(1)オンラインモール運営事業者の取引実態に関するアンケート調査、(2)アプリストアの運営事業者の取引実態に関するアンケート調査、(3)デジタル・プラットフォームのサービス利用者(消費者)に対するアンケート調査の結果を取りまとめたものである。オンラインショッピングモールやアプリストアを中心に多数の中小企業者がデジタル・プラットフォームを利用して商品・役務を提供することができ、市場へのアクセスについての多大なメリットを享受していると考えられるが、公正取引委員会による実態調査によれば、契約ルールの一方的押し付け、取引条件の一方的な不利益変更、過剰コスト負担、不承認やアカウント停止等に関する不合理性、データへのアクセス制限等取引慣行に関する懸念が表明されている。

 こうしたことからすれば、プラットフォーム型ビジネスをめぐる競争環境の整備、取引環境の透明性、公正性確保に向けてルール整備を検討していくことが必要である。言い換えれば、いかにしてプラットフォーム事業者間、プラットフォームと他の関係事業者のレベル・プレイング・フィールドを確保していくかが課題となる。具体的には、デジタル・プラットフォーマーに関する透明性・公正性確保へ向けたルール整備やデータの移転開放の在り方についての検討が必要である。

取引環境の透明性・公正性確保に向けたルール整備

 プラットフォーム事業について、ユーザーの自主的、合理的な選択を促す効果が期待できるような透明性の確保を図ることは、競争条件の公正性の確保に資するものである。

 透明性の確保は、事業者への不当な利益のおそれ等を解消し、公正な取引慣行を実現することにつながるものであり、事業者の活力ある競争を促し、安全性・信頼性のあるデータの自由で円滑な流通を可能とするものである。

 こうした観点から消費者との関係や事業者との関係も含め、利用者層それぞれとの間で公正な取引慣行を構築するため、プラットフォームをめぐる取引環境の透明性・公正性確保に向けたルール整備についての検討を進めていくことが必要と考えられる。

 ただし、こうした取引条件の透明化を図るためのルールの設定に当たっては、過剰な規制によって新たなイノベーションに対する阻害とならないように留意することも必要である。全体として公正な取引慣行の実現とイノベーションの維持・促進とのバランスの取れたルール整備を進めていくことが重要であると考えられる。

 なお、EUにおいては、プラットフォーム事業の透明性・公平性確保のためのEU規則(regulation)が、制定されている。この規則においては、プラットフォーマーに対し

・プラットフォーム利用条件の明確性の確保

・利用条件変更の場合の事前通知

・プラットフォーム・サービスを終了する場合の猶予期間の付与及び理由通知

・検索ランキングを決定する主要なパラメーターの開示

・プラットフォーマー自身の商品・サービスと他の商品・サービスの取り扱いの差異の利用条件への明記

・苦情受付のための社内システムの用意

等の規制を課することとしている。

 EU規則は、日本における法律に相当するものである。

データの移転・開放等の在り方

 またデジタル化時代における企業の経済活動を展開・発展させていくためには、データの持つ価値を最大限生かすことが必要であると考えられる。こうしたことからすれば、安全性・信頼性を確保しつつ、自由・円滑にデータが利用できるように、データの移転・開放のための取り組みを検討していくことが競争促進の観点からも重要であると考えられる。

 競争政策の観点からは、ロックイン効果が発生する可能性がある情報関連サービスに関しては、市場支配力が維持されやすくなるため、データの移転・開放を可能とする措置が検討されることが望ましいと考えられる。デジタル・プラットフォームに集積された利用に関するデータについて、競争の促進を図るために必要な場合は、利用者がデータを取り戻したり、他のデジタル・プラットフォーマーやオンラインサービス提供業者にデータを移転したりすることができるようにするデータ・ポータビリティについて検討が行われることが必要であると考えられる。ただし、こうした措置はイノベーションを阻害するおそれもあり、また、多大なコストを惹起するおそれもあるので、そういった要素も考慮に入れて総合的な見地からのバランスの取れた措置の検討が必要になる。

 また、競争促進の観点からは、ある事業者によって収集された情報に、他の事業者がAPI(Application Programming Interface:プログラム機能をその他のプログラムでも利用できるようにするための規約)を通じてデータにアクセスすることを可能とする措置について検討することも必要であろう。ただし、こうした措置は例えば金融情報とか医療情報とか産業分野などの情報の特性に配慮しつつ、検討していくことがより有益ではないかとも考えられる。金融データの開放は、フィンテック事業の展開に資することになると考えられるし、医療情報の開放はAIを使った診療・医療事業の発展につながるとも考えられる。ただし、同時に情報の安全性・信頼性の確保にも対処していくことが必要であることは言うまでもない。

(終わり)

杉本和行 著 『デジタル時代の競争政策』(日本経済新聞出版社、2019年)、「第3章 デジタル時代の競争政策」から
杉本和行(すぎもと・かずゆき) 公正取引委員会委員長
1950年生まれ。74年東京大学法学部卒業後、大蔵省(当時)入省。主計局長を経て2008年財務事務次官。みずほ総合研究所理事長を経て、2013年公正取引委員会委員長に就任、18年再任。
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キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営、技術、プレーヤー、イノベーション、ICT

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