デジタル時代の競争政策

デジタル・プラットフォーム企業による市場支配と競争政策(下) 公正取引委員会委員長 杉本和行

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 同等性条件とは、契約者が出品者のプラットフォームに商品を出品する際の価格等を他のプラットフォームに商品を出品する価格等に比し最も有利な条件とすることを求めるものであり、他のプラットフォームと同等の条件を求めることから、APPA(プラットフォーム間同等条件)又はMFN(最恵国待遇)とも呼ばれる。同等性条件を付されれば、出品者の出店価格は拘束されるため、反競争的行為と考えられている。

 また、ホテルのブッキングサイトについても、同等性条件を付しているのではないかとの疑いから、調査が開始されている。

 みんなのペットオンライン株式会社がペット動物のブリーダーに対し、同社以外の仲介サイトにペット動物に関する情報を掲載することを制限している疑いがあったことから調査に入ったが、同社から、改善措置を自発的に講じた旨の報告があり、問題は解消されることになった(2018年5月)。

 公正取引委員会は、Apple Japan 合同会社が、NTTドコモ、ソフトバンクなどの携帯電話会社との契約に基づき、携帯電話会社がiPhone購入者に提供する端末購入補助等について、携帯電話会社の事業活動を制限している疑いがあったことから審査を行ったところ、親会社であるアップル・インコーポレイテッドから、契約の一部を改定するとの申出がなされ、その内容が当該疑いを解消するものと認められたため、審査を終了した(2018年7月)。

 エアビーアンドビー・アイルランド・ユー・シーとその取引先事業者との間の契約において、他の民泊サービス仲介サイトへの情報の掲載等を制限する規定を定めることにより、取引先事業者の事業活動を制限している疑いがあったことから、審査を行い、この制限に係る規定を適用する権利を放棄する措置を速やかに講じるとの申出がなされたことから、問題が解消されるに至った(2018年10月)。

 デジタル・プラットフォーマーに対しては、他国の競争当局も調査・措置を行ってきている。欧州委員会のグーグルに対する措置はこれまで述べた通り、比較ショッピングサービス(グーグルショッピング)において他社のショッピングサイトよりも検索結果が上位になるようにアルゴリズムを操作しているとして、24.2億ユーロの制裁金を科し(2017年6月公表)、また、アンドロイドOSに関し、グーグルプレイというアプリの抱き合わせを強いているとして43.4億ユーロの制裁金を科したほか(2018年7月公表)、検索連動型広告サービス(アドセンス)を優遇するようにしているとして14.9億ユーロの制裁金を科すと発表している(2019年3月公表)。更にアマゾンが、同社のプラットフォームを利用している事業者の取引データを取得し、それを自社の販売事業に利用している行為についても競争法違反の疑いで予備的調査を開始している。

 また、米国においては、アップルが大手出版社と行った電子書籍の価格に関する共謀・合意がシャーマン法違反とされた(2012年4月訴訟提起)。

 このように、デジタル・プラットフォーマーに対して、世界の競争当局が調査を行い、措置を発表するなどの取り組みを進めているところである。公正取引委員会においても、ITに関する情報窓口を設け、デジタル・プラットフォーマーに対する独占禁止法の厳正かつ適正な執行について継続的に取り組んできているところである。

個人情報と独占禁止法

 従来、独占禁止法のうち、優越的地位の濫用規制については、企業同士の取引(BtoB)に対して適用されてきており、企業と消費者との取引(BtoC)に適用するということはなかった。デジタル・プラットフォーマーと消費者の関係において、何が取引されているかといえば情報である。この情報は今やそれ自体で価値を有するものと考えられる。例えば検索サービスやSNSは、無料で消費者に提供されるが、その一方で、消費者は「投入財」として価値のある個人にまつわる情報をこれらの企業に提供している。その上で、こうした個人にまつわる情報を材料として、ターゲット広告ビジネスが成り立っていることになる。とすれば、検索サービスやSNSは、消費者とプラットフォーム企業の間の取引関係と位置付けることができることから、独占禁止法の適用対象となると考えられる。通常の取引は、金銭的価値である価格に注目されることが多いが、情報に係る取引では財の品質に注目することが必要となる。

 そう考えれば、消費者の個人情報がどう保護されているかということは情報という財の品質に関わる問題として位置付けられる。デジタル・プラットフォーマーが個人情報を不当に収集する場合には、プラットフォーマーが不当なやり方によって利用者を囲い込んで市場支配力を維持・強化することにつながり、競争政策上の懸念が生じることになる。そこで、消費者に対して優越的地位にあるプラットフォーマーが消費者の利益に反して不当に個人情報を収集する場合には独占禁止法の優越的地位の濫用規制の適用が考えられることとなる。公正取引委員会による実態調査によれば、消費者の多くは、プラットフォーマーによる個人情報や利用データの収集、利用、管理等について懸念があるという調査結果も出ている。

 プラットフォーマーが個人情報を不当に入手することのないように、また、不当に利用することのないように、デジタル・プラットフォーマーの行動をモニターしていくことは、消費者の利益につながることであると考える。

 この点に関連して、ドイツの連邦カルテル庁はドイツにおいてフェイスブックが、ユーザーが第三者のサービスを利用した際に生じるデータを無制限に収集・利用できるようにしている行為について、消費者が明確に認識しないまま行われるとして支配的地位の濫用に該当する違法行為と考えられるとの判断を示している(2019年2月)。なお、フェイスブックは、連邦カルテル庁の決定を不服として、デュッセルドルフ高等裁判所に控訴している。

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