起死回生 ~崖っぷちからの反転攻勢

創業期に大手の買収提案を拒み、働き手の半数以上が去る オウケイウェイヴの兼元謙任 取締役・会長に聞く

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 会社の経営は山あり谷あり、波乱の連続である。谷底が見えるほどの崖っぷちに立ったとき、経営者はどう考え・行動したのか。今回は、オウケイウェイヴの兼元謙任 取締役・会長に聞いた。

◇  ◇  ◇

 「潰されるか、下請けになるか、一緒になるか。君たちにはそれしか選択肢はないんじゃないの?」――。兼元謙任氏は、会社のオフィスに来訪した、大手ネット企業 経営企画担当者のセリフに耳を疑った。

 同氏が2000年に立ち上げた日本初のQ&Aサイト「OKWAVE(当時の名称は「OKWebコミュニティ」)」が注目を集めたころのことだ。

 「OKWAVE」は利用者こそ増えていたが、会社は赤字が続いていた。そんなとき、大手ネット企業の担当者が、Q&Aサイトを構築するため、兼元氏と社員・アルバイトが十数人いるだけの手狭なオフィスを訪問するという。兼元氏は、出資の話だと思い、財務諸表を用意して担当者を心待ちにした。

 しかし、オフィスの現れた大手ネット企業の担当者の言動は、兼元氏が想像しなかったものだった。担当者は、椅子から足を投げ出し、ホワイトボードに、前述した三つの選択肢を示し、いきなり判断を迫ったのである。

 兼元氏の頭に瞬く間に血がのぼった。「えー、この人は、何を勘違いしているの?」。そして言い放った。「もういいですから帰ってください!」。兼元氏は自覚しなかったが、その様子を近くで見ていた人から、同氏のこめかみから血が出たように感じたほどの剣幕だったと、あとで知らされたという。

 会社はこの兼元氏の決断に大きく揺れた。大手がいずれ同じサービスを立ち上げて競合するというプレッシャーを兼元氏は感じたが、それは現場で働く人々も同様だった。翌日から、会社を離れる者が続々と現れ、業務は滞った。最後は半数以上が会社を去ったという。

 「もちろん引き留めましたが、大手が参入すればこの会社はつぶれるから、もういられないと言われました。もう一つ、あの場で即答しないで相談してほしかったとも言われました。これは今でも反省しています」(兼元氏)

デザインの仕事で挫折、ホームレスから一念発起して起業

 兼元氏にとって、Q&Aサイト「OKWAVE」の事業は「想い」が詰まったものだった。

 小学生のときには、在日韓国人三世であることで、いじめられた(現在は帰化)。高校生のときは国籍がもとで、付き合っていた女性から引き離された。

 小学校の高学年から中学校にかけては入退院を繰り返して病と闘った。発熱が続いて回復せず、命の危険に見舞われたこともあるが、幸いにも新薬が効いた。その後も、筋肉が弛緩する病気に悩み、ギランバレー症候群と診断された。一時は死にたいと思ったという。

 大学では芸術科に進み、卒業後は就職してデザインの仕事に奔走した。会社を変えながら、建築や工業製品などのデザインの仕事を幅広く手がけ、自らがデザインした製品で賞を受けるほどになった。学生のときに知り合った女性と結婚して子もなした。

 だが、30歳でホームレスになった。デザインの仕事で渡米する話が出て、会社を辞めたところ、急に破談になった。落胆して名古屋の家へ戻ると、誰もいない部屋に妻の判子を押した離婚届けがあった。妻の実家で事態を収拾する一方、再起のため、東京に新たな仕事を求めたがかなわず、東京・渋谷区や港区の公園を転々としながら寝起きするようになった。

 最初は仕事をしなかったが、あるときホームレス仲間の紹介で、風俗関係で働き夜間大学に通う中国人女性に会った。自分の鬱積した境遇について話したところ、女性は「私に言わせればあんたの苦しみなんて苦しみのうちに入らない」と叱責し、殴ったという。

 それをきっかけに兼元氏は、ホームレスのまま、仕事を始める。最初は、名刺のデザインを行い、やがてホームページのデザインを引き受けるようになった。買い取り価格が安く、売らずに持っていたノートパソコンが仕事の道具だった。

 ホームページの仕事を初めてしたとき、ネットにつながるパソコンを借りて掲示板サイトにホームページの作り方について質問をすると、回答が来るどころか、尋ね方がなっていないと非難された。その疎外感が、国籍がもとでいじめに苦しんだ自分の子どものときの体験と重なった。

 誰でも気軽に質問できて、良い回答が得られる。さらにその回答を蓄積して、あとで誰もが自由に読み出せるQ&Aサイトを作ろう。実現すれば自分の中にある長年のモヤモヤが消えるかもしれないと、次々に構想が膨らみ、「その世界を見たくてしょうがなくなった」(兼元氏)。

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