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シニアの言葉の重みは想像以上 次世代に想いをつなげよう トレノケート シニア人材教育コンサルタント 田中淳子

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シニアの言葉には経験を反映した重みがある

 こんな経験もあった。

 これは、20代後半のころのことだ。当時、自分で立ち上げた仕事を一人で行っていた。同じ分野の仕事をしたいという後輩がいたので、彼女に引き継ぐことを目指し、仕事を一緒に進めるようになった。上司からは、「早いうちに彼女に任せられるように育ててね。属人性を排除し、手離れよい状態を作るように」とも言われていた。

 後輩はまだ25歳くらいでとても若く(今思えば、当時の私だって十分若いのだが)、「彼女にできるだろうか?」と心配になり、二人でできるところまでは進めたが、完全に彼女一人で任せることには躊躇(ちゅうちょ)してしまった。彼女も「まだ私一人では無理です」と言うので「そうだよね」と同意していた。

 そんなとき、シニアな先輩に、そういう心情を吐露したところ、こんな反応が返ってきた。

 「そうだよね、淳子さんがやったほうが上手にできるだろうし、クライアントにも満足してもらえるだろう」

 そう賛同されたので、私は気を良くして「そうですよね、そう思いますよね」と返事したところ、続いてこう言われたのだ。

 「淳子さんはその仕事をそうやってずっと一人で抱え続けていって、その後、どうするの?」

 「え?」

 「その仕事がますます上手になる。それはそうでしょう。で、その仕事をずっとやっていて、その後、あなたはどうするの?」

 これは頭をガツンと殴られたような衝撃だった。

 「そうか、私が一人でこの仕事を大事に守ったところで、その先に何があるというのだ。立ち上げた仕事をどんどん後輩たちに引き継ぎ、いろいろな人ができるようにして、組織の力を上げることが先輩としての自分の役割じゃないか。私がやったほうが早いとか上手だなんて、取るに足らないのだ」

 そう思い、それ以降は、少しずつ意識や行動が変わっていった。

 後輩に任せることに迷いがなくなった。その後輩が失敗したとしても、サポートはするが、必要以上の手を差し伸べないようになった。後輩たちも自分で乗り越えなければならないモノ・コトはたくさんあるし、「私がやったほうが早い」といった考えは、後輩にとっては邪魔になるだけだ。そんなことより、私は私でまた前を向き、新しいことに挑戦していくほうが、よほど後輩たちのためになる。

 あのとき、シニアの先輩から「それはいいけど、あなたはその後どうするの?」と柔らかく言われなければ、気づけなかったかもしれない。

 このように、多くの先輩たちが、私に含蓄のある言葉を投げかけてくださったが、面白いのは、「昔、そういうことを言われて目が覚めた」「30代のころ、こういう言葉を投げかけられ、それ以降、心に残っている」といった話をご本人(現在70~80代だったりする方も多い)にすると、ほぼ100%、「え?私、そんなこと、言ったの?」「それ、言ったの、私?」「オレ、そんな偉そうなこと、言ったんだー、恥ずかしい」などと返してくることだ。

 本当は覚えていても照れ隠しでごまかしているのかしれないが、口にした方は、さほど重みのあることを発言したつもりもなく、案外、全く記憶にないのかもしれない。

 年長者は、次世代を担う人たちのやる気を引き出したり、励ましたりしながら、彼らを育てていく義務がある。シニアの発達課題に「世代継承」があるという話は以前に書いたが重要だ。シニアが人生経験について若手に語る場面は、そうそうないだろうが、日常の会話の何気ない一言が年下の人たちの心に想像以上に響き、記憶に刻まれ、長くその人を支えるものとなる可能性はある。

 “オヤジギャグ”や“昭和なダジャレ”を口にして、苦笑されるのもシニアらしいが、ときに、意識して自分の考えや想いを言葉にして語り、年下の人たちに自分の経験知を伝えることも大事だ。

 その言葉は、もしかすると、自分もかつて若いころ、誰かシニアに言われたものかもしれないが、それでかまわない。上の世代から受け継いだものは、技術でも仕事を進めるためのお作法でも、考え方でも哲学でも信念でも、次の世代にバトンタッチしていけばよい。

 語り出すと止まらないのはシニアの悪いくせだと自覚しつつも、若手から尋ねられたら、照れることなく、堂々と考えや想いを語ればよい。そのために、ときどき、自分がかつて多くの人から受け取った言葉を思い出しておくとよいだろう。

シニアを部下に持つ管理職へのメッセージ

 人には生きてきた長さ分の経験がある。どんなに寡黙(かもく)な人でも、頭の中では考えをいろいろ巡らせているものだ。あなたの部下にも扱いにくいシニアがいるかもしれないが、どういうシニアであっても、考えていることや想っていることなどを聴いてみるのもよいと思う。

 大勢の中で聴くより、1対1のほうがいろいろ出てくるかも知れない。このご時世、アフター5に飲みに行くのは流行らないだろうから、ランチタイム、あるいは、1on1ミーティングの中で、マネジャーとして気になっている課題――たとえば、組織をどう運営するか、ベテランの技術伝承をどう行うか、など――について、シニアに「どう思うか」を相談してみるのもよいと思う。

 シニアはいろいろ考えているが話す機会がないだけの場合も多い。相談したら、それなりに重み・含蓄のあることを話すだろうから、その言葉に素直に耳を傾けていただければ幸いである。
田中淳子(たなか・じゅんこ)
1963年生まれ。トレノケート株式会社 シニア人材教育コンサルタント、産業カウンセラー、国家資格キャリアコンサルタント。1986年日本DECに入社、技術教育に従事。1996年より現職。新入社員からシニア層まで幅広く人材開発の支援に携わっている。著書『ITマネジャーのための現場で実践!部下を育てる47のテクニック』(日経BP社)、『はじめての後輩指導』(経団連出版)など多数。ブログは「田中淳子の“大人の学び”支援隊!」。フェイスブックページ“TanakaJunko”。
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キーワード:人事、管理職、プレーヤー、人事、人材、研修、働き方改革

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