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シニアの言葉の重みは想像以上 次世代に想いをつなげよう トレノケート シニア人材教育コンサルタント 田中淳子

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 年長者の言葉というのは、若手に大きな影響を与えるものである。

 30代の頃、当時の社長(およそ60歳)が落ちこぼれの私を気にかけ、いろいろと指導してくださったことがある。社内で一人だけ新分野の仕事をしていたため、前を歩く人がいない状態だった私を特に心配してくださったものと思う。

 たまにオフィスで声をかけられ、「今、時間ある?本屋さんに一緒に行かない?良さそうな本を何冊か見つけたから」

 オフィスビルの1階にある本屋まで付いていくと、経営学のコーナーに進み、「これ、これ、これ」と棚からどんどん抜き出し、「淳子さんは、こういう分野の本を読まないでしょう。でもね、こういうのを読んだほうがいいと思う」と言われた。私は専門が教育学で、経営学の本に手を出したことはなかったが、素直に受け取った。

 それから私は、社長がポケットマネーで買ってくださった数冊の経営学の本を家に持ち帰り、1日2~3時間かけてすべて読んだ。ちんぷんかんぷんだったが、それでも、せっかく買っていただいたものだから、せめて感想でも述べなければと思い、必死で読了し、必ず報告に行った。

 そのとき薦められた、著名な経営学者が書いたある1冊はとてもヒットした。顧客と話す際も、その本に登場するキーワードがたびたび登場したが、「ああ、私、その言葉なら知っている」と思え、落ち着いて顧客との会話についていくことができた。

 あのとき社長が「こういうのを読んだほうがいい」という言葉とともに薦めてくださったことが、自分の関心の幅を広げるきっかけになったのは間違いない。

 人を育てる方法はいろいろあるが、これもその一つだと思う体験だった。

 今、当時の社長の年齢に近づいた私は、後輩たちに、「こういう本を買ったんだけど」「この本、すごくよかった」と彼らが手にしないかもしれない本を紹介している。

 そういえば、この社長で忘れられないのは、「どういう人が育つか」について、話したときの言葉である。

 そのとき、私は社内の新人育成に携わっていたが、後輩指導の途中経過を報告していると、突然、社長はこう尋ねられた。

 「淳子さん、どういう人が一番伸びると思う?」

 「努力家、でしょうか」

 「ま、それもあるけど、ボクが思う、一番伸びる人はね、“自分を客観視できる人”だ」

 「はい」

 「一人ひとりをよく見ていてごらん。自分を一番客観視できている人――自分は何ができていて、何が不足しているか、どこを学べばよいかなど、客観的に捉えられる人――は間違いなく伸びる。楽しみにするといいよ」

 新人の成長に寄せて述べられた言葉ではあるが、同時に、私への言葉であると受け止めた。

 50~60代の年長者は、試行錯誤、成功失敗、酸いも甘いも、いろいろ経験している。その中で繰り出す言葉には、それら経験に根ざした重みがあり、20年たっても30年たっても言われた側の頭に残り、行動の指針となる。

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