長島聡の「和ノベーションで行こう!」

スタートアップが世界へ羽ばたけるよう「ものづくり」で応援する 第30回 浜野製作所 浜野慶一・代表取締役CEO、金岡裕之・専務取締役

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国連本部で開催された中小企業の記念イベントで講演

長島 そんな多忙な日々を過ごしながら、この6月、ニューヨークの国連本部で開催された中小企業のイベント「Micro-, Small and Medium-sized Enterprises Day」に参加・登壇されました。

浜野 私が、入社4年目の若手の従業員と一緒に行かせていただきました。

長島 どんな経緯で御社が呼ばれたのでしょうか?

浜野 2014年に経済産業省主催の「平成25年度おもてなし経営企業」に選定されたのが、きっかけです。選定会社が集まる表彰式を兼ねた事例報告会が東京で催されたのですが、国連の中小企業のプロジェクトにかかわる方々がそこに来られており、弊社のプレゼンを聞いて、興味を持たれました。「東京に工場があるなら、明日、訪問したい」という急な要望でしたが快諾しました。

 それで工場訪問の日は、5分ぐらいのプレゼンをしたあと、「弊社がどういう会社なのか、なぜ今、こういうことをやっているのか」といったことを改めてお話ししたのですが、それが決め手になったようです。

 国連は2017年に、6月27日を「零細・中小企業デー」と定め、主にSDGs(持続可能な開発目標)をテーマに、世界で先進的な取り組みをしている中小企業を集めて、年に1回、その日に会合を開いていますが「浜野製作所の事例をそこでぜひ話してほしい」という依頼をいただいたのです。一生に1回あるかどうか分からないので、「行かせていただきます」と返事をしました。

 当日は最初に、僕があいさつをして、あとは同行した若手にスピーチを任せました。「これから未来をつくってくれる若い世代にここのところはぜひスピーチをしてもらいたい」と言って引き継いでいます。そうして2人で話をしたのは弊社だけでした。

長島 世界各国から来られた方々は、どのようなお話をされましたか?

浜野 今回は約30カ国の方々が話されましたが、中小企業の経営者に加えて、中小企業の研究を行う大学の先生方、中小企業を支援する政府系・行政関係の方々が話されました。みなさん、活動内容は違いますが「中小企業は、資金が不足している。国の支援がないと我々はこれ以上進めない」というスピーチもいくつか耳にしました。

 しかし、弊社は「国の支援をもらう前に、中小企業自らができることをやらなければならない。お金がなくてもできることがある。僕らが培ってきた技術で、風力発電のチャレナジーやオリィ研究所のようなスタートアップの若い経営者に世界へ羽ばたくための支援をするのがこれからの町工場の役割だ」という話をしました。

 それが異質だったせいかもしれませんが、終わった後で国連のリポートに掲載させてもらうと言われました。ニューヨークの本部にいる方が何人も来られたので話もしました。僕らが今やっていることは、特別なことではないと思っていたのですが、世界全体では中小企業は、誰かによって支援してもらうのが普通であるようです。しかし、それは本意ではありません。

長島 仰るように、その状況は変えていくべきでしょう。

浜野 弊社は、日本からスタートアップを世界へ送り出していく。来年、オリンピックがあるので、ぜひ東京に来てほしい。おもてなしの心を持って、弊社はいろいろな世界の企業のものづくりをサポートしたいといった話で最後を結んでいます。

ローランド・ベルガーと遠隔操縦可能な小型EVを開発

長島 最後に、弊社の社内ベンチャー・カンパニー「みんなでうごこう!」が、同じ志を持つ「和ノベーションチーム」10社と共同で開発した、遠隔操縦可能な小型EV(電気自動車)「バトラーカー」についてお話しができればと思います。

 第46回 東京モーターショー2019」に出展した、この遠隔操作ができるEVを開発しようとしたのは半年ぐらい前で、まったくのむちゃぶりでした。最初にこの企画を御社でお話ししたのは5月の連休明けでした。当然、「何を言っているんだ?長島さんは?」みたいな反応でしたよね。

 そこまで急ぐ理由はありました。私は、自動運転関連の官民協議会の委員を約2年務め、いろいろな研究を行っていきました。自動運転はもちろん、遠隔操作型についても、低速タイプ、高速タイプの両方について、さまざまな実証実験に触れていきました。しかしその実証実験の多くが、技術の実証で、社会実装に結実するのは、費用面の課題もあって、かなり先になりそうでした。

 一方、日本では地方の過疎化がどんどん進んでいます。そういう現状の中、これから熟成される最先端の技術を使っていたら、社会実装やその結果としての社会課題の解決には間に合わないという想いがありました。

 であれば、既存の技術を活用することで短期間の開発ができないかと考え、調べたところ、時速10キロの車の遠隔操作であれば、既存の技術を組み合わることで開発できる――場合によっては半年で完成できる可能性がある――とわかり、先述の「みんなでうごこう!」で開発プロジェクトを始めたのです。

長島 そもそも「みんなでうごこう!」という社内ベンチャー・カンパニーの目標は、ヒトやモノの移動の総量を増やすことで、経済を盛り上げようというものです。今、20ぐらいの自治体とお話をしており、実際に2~3の自治体で地域ごとのプロジェクトがスタートしていますが、もう一つ、移動を活性化するきっかけとなるものが欲しい――例えば移動のための新しい道具があれば――と思っていました。

 今回発表した遠隔操作型EVに込めた「想い」はいくつかあります。

 まず、低速で走行する車なので免許を返納しなければいけないような高齢の方々も運転ができます。国交省に低速車専用免許をつくろうという提案もしています。

 また、遠隔操作型にすることによって、新しい出会いをつくる場にしたいと考えました。車外から遠隔操作で運転してもらうことで、乗員全員が車内の会話に参加することができます。遠隔操作の運転で車を届ける際、相手に届いたときに会話をすることで人と人の新しい接点をつくることもできます。

 いずれにしても、できるだけ早く社会実装を行え、移動に困っている人を支援したり、観光地で活用したりができるものをつくりたいと思いました。

 遠隔操作であれば、投資対効果も上げられる可能性があります。人が乗っていないときは宅配をしてもいい。低速ですが、運送業者に地域の公民館や集会所までまとめて荷物を運んでもらい、個々の家まで運ぶところで活用することが可能でしょう。遠隔操作する人は運転回数に応じて、現地での食事や宿泊を無料提供するようにすれば、さらに移動による交流が生まれます。

 そのように、この車が活躍しているイメージをわかせるために、実物をつくったのが今です。開発のとき、そんな話をしていたら、デザインにもこだわる必要が出てきて、金岡専務には次々と無理難題が振ってきたと思います。

浜野 でも、今回の開発では、長島さんをはじめとするローランド・ベルガーのみなさんが主体になりました。EVは以前もつくりましたが、難しさの種類が違います。

金岡 手を動かすこと以外のことは、御社でとりまとめていただけたため、弊社はつくりに専念できました。設計や仕様策定も含めて弊社となると、半年では無理でしょう。

浜野 このEV開発プロジェクトは、弊社抜きでも、たぶん成り立つでしょう。わざわざ御社が弊社に声を掛けていただいたことがありがたいと感じます。長島さんの想いを聞いて、プロジェクトの一員としてかかわりたいと思いました。

 まず実物をつくることが重要だというのは、長島さんの仰る通りで、以前に産学連携で開発をしたときも同じでした。いろいろなテーマがあって、開発のときに長い時間議論をしましたが、なかなか進まない。最後に、既存の技術を組み合わせて一つつくって、また話をしようとなりましたが、それがよかった。議論だけでは進まなかった開発が急に進みました。だから、すごく大切だとわかります。

 最初は「ローランド・ベルガーがEVをつくる?でも、たぶんローランド・ベルガーがやるんだから、何かあるんだろうな」と思いながら、開発を引き受けました。その「何か」が打ち合わせで話をするたびにすごく現実化していきました。

長島 弊社も驚いたことがあります。ベース車のステアリング軸の角度をデザインに合わせて変更する作業が1日、いや数時間で終了したじゃないですか。「あれ、考えていたものが、もうできた」みたいな感じです。

金岡 簡単ではないですけど、ある程度、形を思い描けたので、それを目指しました。あの形のさらに奥にある、ビジョンのような部分は、僕がつくりに専念しがちなせいか、当初は見えていませんでしたが、一緒に作業をさせていただくことで見えるようになりました。

浜野 なるほど、ここに目線を置くんだとか、すごく勉強になりました。どちらかというと、僕らは現物合わせのような仕事が多かったように思います。

長島 弊社もその現物合わせに神業を感じました。

浜野 金岡は、僕が学校を卒業して最初に入った会社で出会いました。工場で一緒に働いていました。しかし、その後、建築の仕事をしたり、電気の仕事をしたりしているので、実を言うと結構オールマイティーでして、製品の構造を決めることや、現物合わせのような仕事は金岡が得意です。また、個々の部品を業者がつくる場合も、電気の配線は金岡が行うなど、経験を生かして、多様な働き方をしてくれます。

長島 そうですよね。我々も、いろいろな方々と共同で行うプロジェクトが増えていますが、何にでも興味を持ち、幅広く知ろうとする、もしくは取りあえず突っ込んでいくみたいなことが本当に大事だと実感しています。そういうことを思っているときに、浜野さんや金岡さんにお会いさせていただいてその想いを一層強くしました。本日はどうもありがとうございます。

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キーワード:AI、IoT、ICT、経営、イノベーション、ものづくり、技術、製造、経営層

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