長島聡の「和ノベーションで行こう!」

スタートアップが世界へ羽ばたけるよう「ものづくり」で応援する 第30回 浜野製作所 浜野慶一・代表取締役CEO、金岡裕之・専務取締役

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浜野 そうした“口相談”の仕事をすることが口コミで広がるなか、デザイナーや起業家の方からの仕事が増えましたが、依頼主についてはあまり関心がありませんでした。いわゆるスタートアップから仕事を受けたと意識したのは、ロボットづくりに取り組むオリィ研究所の吉藤健太朗くん(通称、吉藤オリィ氏)のときです。

長島 どこでスタートアップであることを意識されたのですか?

金岡 経営者の年が若く、すごく元気で、ハキハキしています。つくるものより先に人柄に魅力を感じました。彼らも工作機械を使って自前でつくっていたようで、持ってきた試作品を見ると出来がよく、それにこちらがほれたところもあります。しかし、金属のような硬い素材については彼らも手に負えず、その加工を引き受けたのがお付き合いの始まりでした。

浜野 吉藤オリィくんは、相談にきたとき、自分の「想い」について話してくれました。「OriHime(オリヒメ)」というコミュニケーションロボットを作ろうとしたのは「幼少のとき、体が弱くて入院していた。今は退院して普通に生活しているが、日本には親と離れ、友達と会話もできずに、病室で生活する子供たちが多数いる。このロボットでその孤独感を解消したい」といった内容です。

 それを聞いて「日本もまんざらじゃない。この国は、まだまだ力がある、すてきな国だ」と思いました。そんな、ものすごい想いがあっても、彼らの技術や経験ではできないものを、僕らが応援して、つくることができれば、彼らの想いを世界へ広げることができる――。それは、僕らもワクワクしましたし、僕らの存在意義はまさにそこにあると考えました。

 それまでの弊社の仕事は、競合も多く、下請け仕事ばかりでした。つくったものを納めてもお礼さえ言ってもらえません。でも、彼の話を聞いたとき、これはぜひとも応援したいと思いました。当時は、商売として成り立つかどうかはわかりませんでしたが、「もう、しゃあねえな。これはもう手伝うしかねえ」と感じて、始めたように思います。

長島 コストは間違いなく、ものづくりにとって大事なことですが、それだけでは仕事をする動機としては不十分なのでしょう。「ありがとう」の一言をもらったり、ものづくりにかける志を見たりすることで、「この仕事をやっていてよかった」と感じる体験になるのだと思います。

 もちろん「ありがとう」とお礼を言われるような仕事は本来、どの町工場も手がけたいものです。そんな経験をすれば、毎日が楽しくなるのは間違いありません。一方、経営の安定性を考えて、そこへ踏みきれない町工場も少なくありません。御社は、この10年間、そのバランスを取られてきたと思いますが、どんな工夫をされてきたのでしょうか?。

浜野 従業員が2~3人のときは、収益が肌感覚でわかります。固定費が掛かる部分やその額はあまり変わりません。変動費は固定費よりはつかみにくいのですが、だいたいわかっていました。例えば、材料は小規模な工場だったこともあり、受注の都度、必要な量だけ仕入れており、在庫はほとんどありません。だから簡単な計算で、採算が合う仕事、合わない仕事は判断できました。

 とはいえ仕事の幅が広がり、規模も拡大すると、そう簡単にはわからなくなります。やはりきちんとした手法を用いて、経営のデータを取りながら、見ていました。窮屈でデータのために仕事をするというのではなく、よくも悪くも数字は正直なものなので、悪かったら良くすればよいだけの話だと捉えています。

 また、平たくいうと、弊社の売り上げのまだ半分は、もともとの仕事である受託型の金属の部品加工で、残りの半分が新規事業である装置開発などです。そのため、もともとの仕事である金属の部品加工の収益性を高める努力をしてきました。弊社は2000年に火事になったとき経営危機に陥り、約20年たちますけれども、2期しか赤字はありません。大変とは言いながら、ほとんど黒字です。

長島 すごいですよね。

浜野 経営再建を始めたころの金型の仕事は3次・4次・5次の下請けで、いくら弊社が頑張っても、経営状況はあまり変わりませんでした。「従業員とその家族が本当に幸せになるにはどうしたらよいのか。それには、ものづくりの情報の上流、つまり、仕様決めや設計・デザインの段階から仕事をする必要がある」と考え、実際に今、そういう取引が多くなってきたところです。

 ものづくりの情報の上流の仕事では、お客様と直接話ができるため、コストを抑えるための設計を考える、不具合が発生しないように仕様決めする、不良の出やすい図面を直してもらって歩留まりを下げたり効率を上げたりする――といったことが可能になります。それはお客様にとっても、僕らにとっても良いことです。そういう提案をしながら、お客様の幅と仕事の質を変えてきました。

長島 そういうことですね。とはいえ、多くの町工場の方も直取引をしたいと思っていながらできないところがほとんどだと思います。それが御社はなぜ可能になるのでしょうか?

浜野 出会いのご縁をいただいたのでしょうか。例えば、「浜野さん、弊社へ来てお話をしてください」と依頼をいただいて話をすると「ぜひ、浜野さんの工場を見たい」と言ってこられる方が現れます。弊社の理念や想い・情熱や取り組みに共感をいただいた方と取引につながることが、何件もあるといった感じです。

 今、ある大手メーカーと共同開発をしていますが、きっかけは東京スカイツリーの開業に合わせて弊社を含む墨田区の中小企業が産学官連携で作った電気自動車「HOKUSAI」のニュースがテレビで流れ、それを見たメーカーの当時の社長が弊社に興味を持ったことでした。

長島 そうやって、お二人が会われる方々は年間で何人になるでしょうか。例えば、工場見学にはどのぐらいの方が来られますか。

浜野 工場見学者は年5000人ぐらいです。また、僕は講演と言うとおこがましいのですが、「事例報告」をしてくださいと頼まれることが多く、勉強させてもらったり、お仕事をお願いしたりするためにも、よろこんでお引き受けさせていただいています。1回当たりの相手は30人ぐらいで、多いときは200~300人になります。

長島 つまり、工場で年5000人と会い、さらに社外で年何千人にも会われる。しかも毎年それぐらいの方々とのつながりができているわけですね。それもほかの町工場にはないですよね。絶対にありません(笑)。

浜野 それ自体はありがたいことなのですが、案件やご相談をできるだけ多く引き受けられるように、みんなが助け合う体制とルールをつくり、ラグビーチームのようなフォーメーションを決めています。ボールがきたら、仲間を信じてパスを出す、パスをもらったらどうしたらよいか――など各人の行動を定めて、うまく回り始めたところです。

長島 チームワークというか、みんながエースとして、それぞれの得意技を持っているというか、すごいですよね。

浜野 まだ課題は多いとは思いますが、少しずつでも、改善していきます。

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