物流がわかる

世界最大のEC企業「アマゾン」が物流でチャレンジ続けるワケ イー・ロジット 代表取締役社長 兼チーフコンサルタント 角井亮一

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 アメリカの投資会社Cowen & Companyによる予測では、2017年に全米9位の規模だったアマゾンのグローサリーの売上げは2021年にはウォルマート、クローガーに次ぐ第3位になるとされていましたが、こうしたアマゾンの動きを踏まえてのものでしょう。

 2016年12月、アマゾンは日本国内で13番目の物流拠点となった「アマゾン川崎FC(フルフィルメントセンター)」(神奈川県川崎市/延床面積約4万平方メートル)に、国内では初めて「Amazon Robotics(アマゾン・ロボティクス)」のシステムを導入、その内容を公開しました。

 倉庫内を動き回る自走式のロボットは、掃除ロボットを大きくしたような形状で、保管棚の下に入り込み、持ち上げて、出荷する商品を棚ごと運んでくることができます。そのロボットは商品を載せた棚を作業スタッフのもとまで移動させ、スタッフはその場を移動することなく、ピッキングや棚入れが可能になります。作業スタッフの労力が軽減されるほか、入荷した商品の棚入れ時間と顧客の注文商品の棚出し時間の短縮にもつながります。また、このロボットはAI(人工知能)により、移動頻度の高い棚を順次、作業スタッフの近くに配置するように動き、倉庫全体の稼働効率を高めていくことができます。

 アマゾンは、2012年、ボストンのロボットメーカー、「キバ・システムズ(Kiva Systems)」を、その当時のアマゾンで2番目に大きい投資金額で買収、その後、アマゾン・ロボティクス(Amazon Robotics)に社名を変更し、ロボット開発を進めています。

 アマゾンの世界中での175のFCのうち26カ所でロボットを導入し、10万台の自走式のロボットが稼働しています(2019年)。

 2019年4月、アマゾンでは「アマゾン・ロボティクス」を導入した国内2拠点目の物流拠点となる「アマゾン茨木FC」(大阪府茨木市/延床面積6万4000平方メートル)の本格稼働を発表しました。アマゾン茨木FCには、これまでのものより薄型のロボットでありながら、より重量のある棚を持ち上げることができる最新型の「アマゾン・ロボティクス」が導入されており、さらに豊富な品揃えの確保が可能になると言われています。

 ちなみに、川崎FCで導入されたアマゾン・ロボティクスは、重量約145キログラム、積載可能重量約340キログラムのロボットでしたが、茨木FCのものは重量約136キログラム、積載可能重量約567キログラムと小型化されながらも、移動速度(秒速約1.7メートル)は変わらずで、パワーアップされています。

 また、2019年秋には、「アマゾン・ロボティクス」を導入したFCが相次いで稼働する予定です。「アマゾン川口FC」(埼玉県川口市/延床面積4万2000平方メートル)が9月、「アマゾン京田辺FC」(京都府京田辺市/延床面積9万600平方メートル)が10月にそれぞれ稼働を開始します。

 この「アマゾン・ロボティクス」の急展開は、それだけ実効をあげているということでしょう。FCへの「アマゾン・ロボティクス」の導入により、効率的な管理可能な在庫量が40%以上も増えたと、同社サイト内に記されています。

 「アマゾン茨木FC」の本格稼働が発表されたのとほぼ時期を同じくして、アマゾンジャパンの2つのトピックが明らかになりました。

 ひとつは「アマゾンプライム」会費の値上げです。2017年に日本でアマゾンプライムを始めて以来、初めてのことで、年会費は3900円(税込)から4900円、月額プランの会費は100円引き上げて500円になりました。アマゾンジャパンでは「特典やサービスを提供するためのコストが当初より大幅に増えた」ことを値上げの理由として説明していますが、配送ドライバー等の不足による、配送費の増加も要因になっていると思います。

 2つめが「アマゾンフレックス」の開始です。アマゾンフレックスは2015年にアメリカで始まった「個人に宅配を委託する新しい物流の仕組み」ですが、日本では法規制の問題もあり導入されていませんでした。日本では「貨物軽自動車運送業の届け出がされた軽バン(黒ナンバー)を保有している20歳以上を対象」とすることで、その規制をクリアしました。

 同社では「地域限定の実証実験を経て始めた」と話していますが、今後も商品を確実に届けていくためには、業者だけでなく個人にも宅配を委託せざるをえない状況になってきていますから、対象地域を拡大していくだろうと、私は考えています。

 アメリカのアマゾンでも、事業の成長スピードに合わせた配送能力の強化は大きな課題です。2018年6月から開始した「Delivery Service Partner」プログラムはその解決を図るためのプログラムのひとつです。当初はアマゾンの荷物を配送する事業を立ち上げる起業家を支援する内容(低コストでの、研修やマニュアル等の提供など)でしたが、2019年5月、このプログラムを拡大し、自社の従業員が配送業者として独立する場合には上限1万ドル(約110万円)までの起業費用と3カ月分の給与相当を支給するという内容を追加しました。

 こうした直近の動きからも、アマゾンがいかに物流を大切にしているかがわかると思います。ロジスティクスカンパニーとしてのアマゾンには、まだまだ終わりはありません。

角井亮一 著 『物流がわかる<第2版>』(日本経済新聞出版社、2019年)、「第4章先進的な物流の取り組み」から
角井亮一(かくい・りょういち)
1968年10月25日大阪生まれ、奈良育ち。現在、東京秋葉原に在住。上智大学で、ダイレクトマーケティング学会初代会長の田中利見先生のゼミに所属。3年で単位取得終了し、渡米。ゴールデンゲート大学からマーケティング専攻でMBA 取得。帰国後、船井総合研究所に入社し、小売業へのコンサルティングを行い、1996年にはネット通販参入セミナーを開催。その後、家業の光輝物流に入社し、日本初のゲインシェアリング(コスト削減額の50%を利益とするコンサルティング型アウトソーシング)を東証一部企業で実現。2000年2月14日、株式会社イー・ロジット設立、代表取締役に就任。イー・ロジットは、現在310社以上から通販物流を受託する国内NO1の通販専門物流代行会社であり、200社の会員企業を中心とした物流人材教育研修や物流コンサルティングを行っている。また2015年、再配達問題という社会問題を解決するためのアプリ「ウケトル」を立ち上げ、タイではSHIPPOPという物流IT企業をタイ最大のネット通販会社Tarad.com創業者のPawoot (Pom) Pongvitayapanuと共同で立ち上げた。日本語だけでなく、英語、中国語(簡体、繁体)、韓国語、ベトナム語でも書籍を累計29冊以上出版。最新刊は『物流革命』(監修、日本経済新聞出版社)、『すごい物流戦略』(PHPビジネス新書)。マスメディアでも、わかりやすく物流を解説するコメンテーターとして、「とくダネ!」「めざましテレビ」「ひるおび!」「スッキリ!」など多くのテレビ番組やラジオ番組、「日本経済新聞」「日経ビジネス」「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」などの新聞雑誌に登場している。日本物流学会理事。NewsPicks プロピッカー。多摩大学大学院客員教授。FACEBOOK:https://www.facebook.com/riokakui TWITTER:@rkakui
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キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営、営業、製造、プレーヤー、イノベーション、AI、IoT、ICT

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