物流がわかる

世界最大のEC企業「アマゾン」が物流でチャレンジ続けるワケ イー・ロジット 代表取締役社長 兼チーフコンサルタント 角井亮一

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 2017年前半から2018年前半にかけて、日本のECビジネスの根幹を揺るがせるような出来事が相次ぎました。2017年3月のサービス残業問題露呈による「ヤマトショック」であり、その後、ほかの宅配事業者の便乗値上げ、遅配問題が発生し、「宅配クライシス」へと広がっていきました。

 アマゾンジャパンは、この真っ只中、2017年4月、プライム会員(当時の年会費は3900円。現在は4900円)向けの生鮮食品、日用品の宅配サービス「アマゾンフレッシュ」を、都内6区を対象にスタートさせました。現在は東京18区2市(世田谷区・目黒区・千代田区・中央区・台東区・墨田区・江東区全域、ならびに渋谷区・品川区・大田区・港区・杉並区・新宿区・文京区・荒川区・足立区・葛飾区・江戸川区・調布市・狛江市の一部)と、神奈川県・千葉県の一部エリアにまで、拡大しています。

 月会費500円(税込)、1回の購入が6000円(税込)未満の場合に、500円(税込)のフレッシュ配送料がかかります。

※編集部注 2019年9月から、1回の購入が4000円(税込)以上の場合、フレッシュ配送料は無料になりました。

 対象商品は17万点以上(そのうち、野菜、果物、鮮魚、精肉、乳製品が約1万6000点以上)。ヤマト運輸など大手宅配会社に依存しない自前の配送システムを構築し、午前8時から深夜0時までの配達に対応、商品の在庫状況によっては最短4時間での配達が可能になるサービスです。

※編集部注 2019年9月から、対象商品点数は非開示になりました。

 物流拠点は、川崎市の「アマゾン川崎フルフィルメントセンター」で、6温度帯(常温、冷蔵、冷凍、チルドなど)で商品を管理し、品質・鮮度の維持を図っています。実際の配送に関しては、江東区、世田谷区、横浜市にあるプライムナウの配送デポを使用しています。

 このアマゾンフレッシュがアメリカでスタートしたのは2007年。それから10年の時を経て、日本に上陸しました。いつ上陸するかについては、かなり以前からその兆候がありましたが、アメリカでは後発サービスだったプライムナウのほうがいち早く日本でサービスを開始しました。

 厳しい鮮度管理が求められる生鮮品の配送管理は、「最短1時間以内」という配送スピードを前面に打ち出すプライムナウ以上に、ラストワンマイルのきめ細かなコントロールが必要になります。それまでは配送品質の高い日本の宅配サービスを利用してきたアマゾンですが、アマゾンフレッシュの展開に関しては、それでは顧客を満足させるのに十分な配送体制がとれないと考えていたのでしょう。

 そこでまず、大手宅配会社に頼らない配送体制づくりをプライムナウで試みました。その際にカギになるのがアマゾンが「デリバリープロバイダ」と呼んでいる「地域に配送網を持っている小口の配送事業者」です。機動的な配送が要求されるプライムナウを実現するには、ラストワンマイルを極力、短くする必要があります。そのために大消費地の中心となる川崎にFCを設置し、複数の事業者と業務委託契約を結び、配送網を構築、徐々に配送品質を高めていくことにより、アマゾンフレッシュのラストワンマイルを十分担えるだけの体制を整えていったと、私は考えています。

 このプライムナウで培った配送体制は、実はアマゾンの宅配クライシスを乗り切る大きな力になりました。そのことを裏付ける興味深いデータが、再配達問題解決アプリ「ウケトル」から公表されています。ヤマトショック直後の2017年4月と、2018年4月、2019年5月のアマゾンの宅配会社の利用率の変化を示すデータです。

 その結果を見ると、アマゾンはヤマト運輸への委託比率を71.37%から49.25%、31.84%に減らし、デリバリープロバイダへの利用を5.03%から20.28%、41.16%に増やしたということがわかりました。この結果が公表されるまでは、日本郵便の利用を大きく増やしたのではないかと推測されていましたが、実際にはデリバリープロバイダへの利用を増やしていたのです。

 デリバリープロバイダの扱い量を増やしながら、ある意味、事業者を鍛え、配送品質を高めてきました。アマゾンフレッシュの対象エリアの拡大は、その結果でもあると思います。

 日本でアマゾンフレッシュがスタートしたのとほぼ同じころ、アメリカでは同サービスの新たな利用方法が導入されようとしていました。

 アマゾンフレッシュの受け取り拠点として利用できる店舗「Amazon Fresh Pickup(アマゾンフレッシュピックアップ)」です。アマゾンフレッシュ専用アプリから商品を購入した後、アマゾンフレッシュピックアップの駐車場スペースに行くと、注文から最短15分で商品を受け取ることができます。1品の購入からフレッシュ配送料は無料です。

 2017年3月から実証実験が開始されましたが、その直前にこの店舗を視察することができました。

 生活幹線道路沿いの、車の運転に慣れていない人でも出入りしやすい交差点に近い立地にあり、店舗=ピッキング倉庫の面積は300坪ほどでした。通常のコンビニやスーパーではありえない規模の40フィートコンテナ並みの大きさのトレーラーが接続できるドックがあり、アマゾンが物流を重視していることが一目でわかります。この店舗の中で、注文商品をピッキングし、梱包し、お客さんへの受け渡しを行うわけです。

 アマゾンフレッシュピックアップは、アマゾンフレッシュを補完するサービスです。しかし、アメリカではアマゾンフレッシュのようなグローサリーECは店舗受け取りを希望するお客様が多いということからもわかるように、単なる補完サービスではなく、本丸を本気で取りに行く(=グローサリー分野のシェアを奪う)ために欠かせないサービスと位置付けていると考えられます。

 そのことをより鮮明にしたのが、2017年8月に手続きを完了した、アメリカ、カナダ、イギリスに460店舗を超える実店舗を有する、天然および有機食品のスーパーWhole Foods Market(ホールフーズ・マーケット)の買収です。アマゾンが実店舗を持つホールフーズを傘下に入れたことにより、世界最大の小売企業、ウォルマートとの間のグローサリー分野での戦いの構図が、よりわかりやすくなりました。

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