TRAVEL TECHで実現する地方創生

観光を軸に官民連携で加速する地方創生 稼げるモデル構築が不可欠

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■■セッション  観光を軸に官民連携で加速する地方創生
■企業講演 東京センチュリーが目指す地方創生に向けた観光立国のイメージ

別府へ高級ホテルを誘致

東京センチュリー 代表取締役社長 浅田 俊一 氏

 8月、当社が4年前に誘致を決めたANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパが大分県別府市に開業した。観光立国と地方創生は政府の成長戦略の大きなテーマであること、別府や「おんせん県おおいた」の魅力を分かっていたこと等も誘致の動機となった。IHG(インターコンチネンタルホテルズグループ)の誘致で別府がグローバルな観光拠点になるという期待が高まり地価は26年ぶりに上昇した。

 IHGは世界最大級のホテルグループで100カ国以上に約5700のホテルを展開。ブランドを大事にする文化があり進出先地域との共生も重視する。別府は山と海の景観も見事で食材も豊富。富裕層インバウンドの目線に合わせたまちづくりを継続すれば持続可能な形で観光業は発展するだろう。IHG進出が内定した後の16年4月に熊本・大分で地震が起こったがIHGの決意は揺らがなかった。人材確保という面で海外留学生の多い立命館アジア太平洋大学が近いのも利点だ。

 別府はラグジュアリーリゾートが地方経済を大きく発展させるモデルケースになり得る。別府が成功すればIHGと同クラスのホテルが日本各地にできる可能性がある。

 当社は事業を通じて環境に配慮した循環型経済社会の実現に貢献することを経営理念に掲げている。環境問題に関心がある欧米の富裕層に対して日本の意識の高さをアピールすることも大切。従来イメージの観光業から一段アップした観光産業に発想を変え、地方が豊かに生きる方法と工夫を編み出していきたい。

■パネルディスカッション 観光を軸に官民連携で加速する地方創生

◆パネリスト

浅田 俊一 氏

別府市長 長野 恭紘 氏

ツーリズムおおいた 専務理事 土谷 晴美 氏

エリア・イノベーション・アライアンス 代表理事 木下 斉 氏

◆コーディネーター

BSテレ東「日経プラス10」キャスター 榎戸 教子 氏

住民の意思が成功の源 浅田 氏
官民連携の良いモデルに 長野 氏
CMで大分の知名度向上 土谷 氏
利益ベースで考える 木下 氏
変わる別府・大分に期待 榎戸 氏

ユニークな温泉体験 集客に成功した別府

 長野 別府で毎年4月に行う温泉まつりの中で「湯・ぶっかけまつり」をスタートさせた。ホスピタリティーを上回る感動体験作りにこだわっているが、目的は地域振興で観光は地域を豊かにするための手段だ。老舗の遊園地と温泉による「湯~園地」計画には仕掛けがある。まず既にあるものを掛け合わせ新しい価値を作った。2つ目が公約連動型。集客のために100万回動画を見てくれたら実現すると公約しクラウドファンディングで9100万円以上集めて実現。3日間限定で公費は使わなかった。

 別府には3000人以上の留学生がいる。仕事を作り夢を実現させる体制構築のために「ONE BEPPU DREAM」という場を作った。昨年は92件のビジネス案件が持ち込まれ30件が進行中だ。ツーリズムバレー構想協議会を発足し、将来有望な人材を見抜く目利き力を高めていく。コトに対しての投資をどうするかは課題だ。一生別府と関わってもらうための仕掛け作りも必要になる。

 IHGが別府に進出したことは大きな出来事だった。欧米豪の富裕層からの信頼につながるし、地方創生の官民連携の良い手本になる。別府では火山の噴火で風評被害に遭った草津のために「G O!草津キャンペーン」という広告を出し観光地間の連携にも努めている。

 土谷 「ツーリズムおおいた」は13年に公益社団法人になり18年に日本版DMO地域連携型に登録され民間組織として、行政と両輪で大分県の観光振興を進めている。13年に「おんせん県おおいた」というキャッチフレーズが決まった。当時は別府県と言われるぐらい大分は知名度が低かった。「おんせん県」の商標登録問題と温泉の中でシンクロナイズドスイミングをするCMが全国的に大きくマスコミに取り上げられた結果、知名度のアップにつながった。

 18年には世界温泉地サミット、国民文化祭、障害者芸術文化祭を開催。今年はラグビーの世界大会という大きなイベントが続く中でおもてなしの質の向上に取り組んできた。コールセンターは17カ国語に対応。飲食店のメニューの多言語化、キャッシュレス化も引き続き進めている。その結果、大分県の昨年の延べ宿泊者数は過去最高、インバウンドは140万人を突破した。また大手旅行予約サイトの調査で来訪者の総合的な満足度が92.9%となり初めて全国1位になった。一方で観光消費の数値では課題もある。今後はマーケティングリサーチ機能の強化、プラットフォーム機能充実も図っていく。

高レベルサービス提供できる観光地に

 木下 当社は10年前に設立。各地域とパートナーシップを組みプロジェクトを行っている。地方創生では、まちを一つの会社と見立てて経営すること、民間と行政が一緒になって取り組み、流出を防ぎ、流入を増やして循環させることが大事である。1人当たりの観光の消費額だけでなく費用を引いた利益の検証も必要で、利益ベースでもうけが出て事業承継したくなる事業をどれだけつくれるかが重要だ。外から一流の施設を誘致した際には自分たちも高レベルのサービスを実現する努力をしないと地方振興にはならない。別府は今がチャンスだ。すべての産業をギアチェンジできる可能性がある。

 さらに官民連携では民間の一部門だけが黒字では意味がない。広域で観光産業をつなげるには利益を出す、地元資本が踏ん張る、次の成長に向けての投資をしっかりやることが大事。交付税や補助金頼みではなく自分たちで観光客を迎え入れ、産業を伸ばし税のモデルをつくることも必要だ。官民は運命共同体だ。ITを使うのも手段の一つである。

 榎戸 地方創生における官民連携をどう考えるか。

 長野 役割分担は明確にある。ノウハウを持つ民間の協力で稼げるモデルをしっかり作る必要がある。ブランド力のあるホテルが誘致できたことが終わりではない。別府では新たな国内の一流ホテルの進出も決まってきている。そうなれば雇用や税収が増え、新しい利益を生み、住民福祉が向上するという好循環が出来上がる。

  浅田 別府ではホテル誘致に対して一つのコンセンサスが得られ、許認可の問題もスムーズにいった。別府には観光産業を自分たちで作り出す素地があった。ドイツやスイスの街が補助金を出して街並みを生花で飾れるのは、行政の独断ではなく住民の意思が働いているからだ。住民の理解があれば地域らしい観光産業を作れる。中長期にわたり観光産業を育てるなら景観の問題も考えなければリピーター客を呼び込めない。住民から行政への働きかけも必要になる。

 榎戸 IHGが地元にもたらす影響は何だと思うか。

 土谷 IHGは長期滞在型ホテル。別府を拠点に大分県内を回ることもできる。ホテル内には大分の産品展示もある。大分の旅の懐が深くなる。

必要に応じてITを有効活用

 榎戸 リゾートホテルと地方が連携する際の注意点は。

 木下 地方でできることを外の人にやってもらおうという人任せの姿勢ではダメだが、地方だけではギアチェンジが難しいときに外の資本などを巻き込む方法がいいだろう。別府でのIHGの事業の成功は全国に影響を及ぼす。同じような投資が増えることが、地方の官民連携では大きな意味を持つと思う。

 長野 別府の場合は観光客約900万人のうち約60万人がインバウンドだ。インバウンドを呼ぶには、より丁寧で親切な対応が必要だが、日本人観光客が不自由な思いをしたり、地域住民が「来すぎて嫌だ」と思うようになってはダメだ。これからは1人当たりの宿泊日数や単価を上げられるような高付加価値のサービスの提供が大事。既存のファンやリピーターをないがしろにしてはいけない。

 土谷 受け入れる側は一定の水準まで上がったらそれが普通になるのではないか。旅館側も高齢化し無理ができない場合もある。産業を残すには、今のうちにできるだけ日常生活で観光のレベルを上げておくことも必要だろう。

 榎戸 IT活用のポイントは。

 木下 ITは道具の一つに過ぎないが代替できるものは取り入れるべき。例えばデータベースで処理をしたほうが接客でミスが起こらないこともある。今は中小の店や旅館が利用できる安価なツールも増えている。ITはグローバルに発信する道具としても有用だ。地方が独自に、自分たちで何が必要かを考えて、そこに適切なITサービスを組み込んでいく。考える力が地方側にも求められている。

 榎戸 変わっていく別府と大分に期待したい。

主催:日本経済新聞社

特別協賛:東京センチュリー、セールスフォース・ドットコム、スーパードゥーパー

協賛:三井住友ファイナンス&リース、スマートウエルネスコミュニティ協議会、清水建設、マイナビ、九州フィナンシャルグループ

後援:内閣府、観光庁

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