TRAVEL TECHで実現する地方創生

挨拶/基調講演/TRAVEL TECHで実現する地方創生 最先端技術を導入 新たな商機つかめ

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 日本への旅行者が着実に増える中、地方へのインバウンド(訪日外国人)誘致が課題となっている。日本経済新聞社は9月6日、東京・大手町の日経ホールで日経地方創生フォーラム「TRAVEL TECHで実現する地方創生」を開催。観光とデジタル技術の融合による新しい観光・インバウンドサービスは、その切り札となるのか。政府や自治体、識者らが講演、議論した。

■挨拶

デジタル化で輝く世紀に

IT・科学技術担当大臣(当時) 平井 卓也 氏

 我々は今夏、クールジャパン戦略を見直し、日本のソフトパワーを持続的に強化する方法を検討した。海外12カ国の人々との議論で指摘されたのは、クールジャパンは多様だということだ。訪日客が100人いれば100通りの良さがあり、日本ならではの間口の広さと奥深さがある。それを考えると、今後のクールジャパンは地方が主役になるに違いない。

 しかし、海外の人々を迎える上では不十分な面も多い。外国人向けの標識や案内、コミュニケーションなど、リピーターが増える仕組みを国や地方自治体が共に考えていく必要がある。移動手段のMaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)化も検討課題だ。

 日本のサービスは、新たなビジネスモデルで価値を生む「デジタライゼーション」において後れを取った。それを一気に挽回すべく、戦略を全て立て直し、再起動をかけているところだ。令和という時代を今後短期間で、グローバル化とデジタル化で次の世代が輝く世紀にしたい。本フォーラムを、地方に住む皆さんの行動のきっかけにしていただきたい。

■挨拶

地域観光の魅力を発信

観光庁次長 高橋 一郎 氏

 昨年は約1800万人の外国人旅行者が地方部を訪問。地方部における外国人旅行者の観光消費額シェアは約3割に拡大した。今後はモノ消費はもとよりコト消費を伸ばし、観光地の魅力をより高めていくことが期待される。また、長期滞在や消費拡大に向け、波及効果の高いコンテンツを核に地域資源を結集した滞在型メニューの充実が求められる。訪日旅行の魅力を発信している日本政府観光局(JNTO)では、各国の人々の属性や行動性向などを分析して、デジタルマーケティングとプロモーションの高度化を図っていく。

 政府としても多言語解説の充実などを通じ、我が国が誇る文化財を観光資源として花開かせると共に、Wi‐Fi環境の充実、キャッシュレス決済化など受け入れ環境の整備を支援。さらに世界水準のDMO(観光地域づくり法人)の育成を行う。これらの施策の実現に向け、先般発表した来年度予算の概算要求は今年度比11%増の約737億円となった。地方誘客を強力に進めるべく、プロモーション支援体制を抜本的に強化していきたい。

■基調講演 「伝統」×「テクノロジー」が未来を創る! ~三重の観光スマートサイクル~

三重のブランド力高める

三重県知事 鈴木 英敬 氏

※鈴木知事は大雨に伴う災害対応のため三重県庁と中継して講演

 三重県の政策の特徴は「オール三重」だ。G7伊勢志摩サミットなど、様々な分野の取り組みにオール三重で臨んだ結果、この6年間の実質経済成長率は全国2位。観光入込客数と観光消費額も年々増加し、観光に対する総合満足度は全国4位だ。

 今後、三重県は大きなチャンスを迎える。2023年は「空飛ぶクルマ」実用化のターゲット年であり、その後は大阪・関西万博、リニア開通、神宮式年遷宮と続くため、テクノロジーを活用して未来を見越した取り組みが必要だ。特に空飛ぶクルマは今年8月、開発拠点がある福島県と協定を締結したところ。今後、三重県で試験飛行や実証実験を行い、離島や過疎地域、観光での活用を通じ、地域課題を解決するビジネスを創出する。

 国土交通省の新モビリティサービス推進事業の一つに志摩市の観光地型MaaSが採択された。志摩には観光地が広く点在しているため、複数の交通手段を一括検索・予約・決済できるシステムを開発し、ストレスフリーな旅行を楽しめる仕組みを構築。人工知能(AI)チャットボットやデジタルサイネージなどのツールも活用して、スマートフォン(スマホ)1つで楽しめる伊勢志摩を実現。徹底的なデジタルマーケティングで客が客を呼ぶサイクルを確立し、ブランド力を高めていく。

 三重県は製造業が集中する地域と過疎化が進む地域を内包しており、日本の縮図そのものだ。地方創生に全力で取り組む三重を、様々な課題解決の実証フィールドとしても活用してほしい。

■■セッション  TRAVEL TECHで実現する地方創生
■基調講演 地方創生・観光地域づくりに向けた地域観光関連事業者の支援について

観光回遊と消費促進が鍵

経済産業省 大臣官房参事官(商務・サービスグループ担当) 佐々木 啓介 氏

 経済産業省では「ローカルクールジャパン推進事業」の一環で、トラベルテックの導入に関する調査事業を進めている。目的は、地域への観光回遊と消費を促進するデジタル基盤を作ることだ。インバウンドを主なターゲットに、観光関係者や事業者がデジタルで連携し、訪日客に満足してもらえるような新たなビジネスモデルを構築していく。

 具体的にはまず、国内のモデル地域を東西で1拠点ずつ選定して、トラベルテック導入の拠点にする。そしてマーケティングフレームワークを活用してモデル地域に最適なペルソナを設定。そのペルソナがモデル地域を訪れる際のトラベルテックの理想の仕様を検討し、実効性の高い計画を作成していく。

 ポイントは、タビマエ・タビナカ・タビアトの連携だ。まずタビマエで旅行者に認知されやすい効果的な情報発信を行う。タビナカではキャッシュレス化で買い物しやすい環境を整え、MaaSでシームレスな移動を提供。タビアトでは旅行者のSNSでの発信・拡散や越境電子商取引(EC)を促していく。城崎温泉の事例では、マーケティングや地域のリサーチを通じてコンテンツや広告配信の仕組みを作り、タビアトからさらに次の観光へとつなげる取り組みを実施している。

 おもてなしをするのはあくまでも我々人間であり、真心がどれだけ旅行客に伝わるのかも重要だ。人材とツールの両輪を組み立てていくことを大切に、様々なモデル地域でプランを作り、類似の都市に横展開して全国に装備していきたい。

■パネルディスカッション TRAVEL TECHで実現する地方創生

◆ パネリスト

観光庁 観光地域振興部 観光地域振興課 観光地域政策企画室長 富田 建蔵 氏

沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO) 専務理事 永井 義人 氏

アソビュー 代表取締役社長 山野 智久 氏

DMO推進機構 代表理事/京都大学経営管理大学院 非常勤講師 大社  充 氏

西村屋 常務取締役 池上 桂一郎 氏

セールスフォース・ドットコム 公共公益事業開発推進室室長 兼ビジネスデザイナー 井口 統律子 氏

◆ コーディネーター

サービスデザイン推進協議会 理事 平川 健司 氏

データやデジタルに詳しい人材の確保を

 平川 DMO(観光地域づくり法人)や、地域のデジタル活用における課題は何か。

 富田 DMOは地域の多様な関係者を巻き込みつつ、科学的アプローチを取り入れた観光地域づくりを行うかじ取り役の法人だ。各所と合意形成を図るため、観光振興の取り組みの核となるキーパーソンの存在が必要になる。マーケティングや統計データの継続的な収集と活用も今後の課題だ。

 大社 いまや地域は世界を相手に自ら顧客を集めなければいけない時代になった。それができるノウハウや人材を地域に配備しようというのがDMOの背景だ。ただし、データやデジタルを手段としてちゃんと活用できる人材がいないとうまく機能しない。企業にはそうした人材の育成に期待したい。

 山野 当社は「アソビュー」など、レジャー領域にテクノロジーを活用することで課題解決を図る事業を複数展開している。アクティビティー事業者のみならず地域全体にいえるが、「よく知らないから」という理由でITリテラシーが高まっていないのが課題だ。

 池上 我々の宿泊業界では利益率や生産性の課題を解決するために、ITを用いた業務効率化と海外へのプロモーションが重要になる。地元事業者の多くが高齢でITへの理解は難しい面があるが、だからこそDMOの存在は各地域に必要だと現場で感じている。

 永井 我々ISCOはテクノロジーで産業振興するというコンセプトだ。当センターがある沖縄では、営業利益率の低さや手数料の高さなどからキャッシュレス率が低い。しかしデジタル化は必須の流れなので、訪日客を取りたい、経営効率を上げたい店舗に絞ってアプローチすべきだ。

 井口 世界の観光事業者は非常に高度なマーケティングをしている。インバウンドで日本に年間6000万人を引きこむには、彼らのレベルを理解しなければ難しい。当社もCRM(顧客関係管理)関連サービスを提供する中で、各事業者の目標に応じた具体的な支援が必要だと感じている。

地域ニーズをつかみ デジタル化に尽力

 平川 トラベルテックが地域や人に対してもたらす体験価値とは。

 山野 ITは体験価値の向上にも活用できる。例えばスキューバダイビング体験で、水中で発見した魚に専用アプリをかざすと種類や特徴を説明してくれる。ユニークさで顧客満足度が高められる。

 富田 地域のデジタル技術への期待は高い。今年度は、まち歩きに参加する訪日外国人客の満足度を高めるためにWi‐Fi整備やキャッシュレス決済対応に取り組む。コト消費の一つとして拡張現実(AR)や仮想現実(VR)を活用した観光コンテンツも有力だ。

 大社 地域にデジタル活用のニーズは多数ある。都市部の企業は自社の考えでサービスを開発しがちだが、地域が抱える課題に向き合って、自社の技術でどう解決できるかを考え、DMOとは共存共栄がはかれるパートナーシップの在り方を工夫して考えてほしい。

 井口 人材育成はとても重要だ。当社はオンライントレーニングの提供もしているが、DMOがどんな人材と支援を必要としているかを考え、さらに強化していく。データ連携もパートナー企業やスタートアップと取り組んでいきたい。

 池上 我々地元の事業者の声は、お客様の声であるケースが非常に多い。そこまで見通してソリューションやサービスを提供していただけると、持続性のある関係や、さらなるマーケットの拡大が見込めるのではないか。

 永井 我々はいま、観光に特化したデータ流通基盤の整備を検討している。レンタカーの運行データやスマホの言語設定など、沖縄県の各種データを集約することで産業の成長に貢献すると考えている。皆が自由に加工、分析して共有できる世界を作りたい。

 平川 観光、特にインバウンドはデジタル化なしにはありえない。減り続ける国内需要を捉えるために世界とつながるデジタル化が観光産業に必須だと訴えていきたい。

主催:日本経済新聞社

特別協賛:東京センチュリー、セールスフォース・ドットコム、スーパードゥーパー

協賛:三井住友ファイナンス&リース、スマートウエルネスコミュニティ協議会、清水建設、マイナビ、九州フィナンシャルグループ

後援:内閣府、観光庁

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