間違いだらけの新事業プロジェクト

イノベーションの定義は社外に求めてもムダ、自分たちで定義しよう アイディアポイント 代表取締役社長 岩田徹

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2.会社として新しい取り組みをする(できれば、画期的なもの)

 会社として「新規事業の立ち上げ」をゴールに設定するのであれば、「会社として新しい取り組みをすること」をイノベーションの定義にすることが妥当でしょう。必ずしも社会を変えたり、既存の業界を壊したりする必要はありません。会社として「(これまでチャレンジしてこなかった)新しい分野にチャレンジしよう」という定義です。「イノベーションは社会課題を解決するもの」と定義する人たちからは、「志が小さい」「小粒だ」と批判されることにはなりますが、期間、予算、人員とも現実的なところで収まります。

 この考え方を採用した会社は、とにかく自社の現業を知ることがスタートです。そして、その周辺で起きていることを丁寧に調べて、そこから、ビジネスとして成功する可能性のある事業を開発していきましょう。富士フイルムや3Mはコア技術を軸に別の事業分野へチャレンジしたことで知られます。三井不動産や三菱地所といった不動産事業者、NTTグループやKDDIグループといった通信業者は、異業種企業とコラボレーションして新規事業に取り組んでいます。

 ここでの最優先事項は「自社として収益が出る事業を創る」ことになります。既存事業に近い規模の事業を創ることを最終目標に、3~5年で事業単体の黒字化、5~7年で累損解消等を目指すことになるでしょう。さらに、既存事業とのシナジー効果があるか、自社として取り組む意義があるかなどについて、具体的な説明と成果が求められてきます。

3.社内の雰囲気を変える / 若手が自ら手を挙げて提案する風土づくりをする

 「イノベーション推進」の中の「推進」に重点を置いた考え方です。この定義では、あなたの仕事は「自分がイノベーションを起こす」ことではなく、「社内の人がイノベーションを起こすように音頭を取る、環境を整える」ことです。

 働きかける先が社内の事業部門(あるいはグループ企業)なので、仕事の進め方、コミュニケーションの方法が相手先に応じて大きく異なります。基本的には自分で直接アクションをとることができず、何をするにも依頼とその返事を待つことになり、時間がかかり、自分が行動するのとは異なる難しさがあります。施策としては、新規事業提案制度の設計・実施、研修・セミナーでの啓蒙活動、社内広報といった一般的なものがあるので、それらの効果を見ながら、予算とリソースの配分と目標を決めていくことになります。担当者には上手に社内の事業部門(あるいはグループ企業)を巻き込んで実行していくスキルが求められます。

 リクルートやソニー、パナソニックなどが、社内やグループ企業から新事業を生み出そうと様々な取り組みをしていることが報道されています。これらの会社の記事を参考にしながら、自社の社員が「チャレンジしたくなる」施策を考えて、着実に取り組んでいくことになります。

「これまでにない画期的な新しいこと」にこだわらないことがおすすめ

 結局、Aさんは、役員や上司と何度も「私たちがなすべきこと」について話し合い、次の1年間は「会社としてこれまでチャレンジしてこなかった分野にチャレンジする」ことをゴールに設定して活動を続けることにしました。中には、「社会課題を解決しないでどうする」「もっと意欲的に会社の次の柱になるぐらいの売上高を目指すべき」という声もありましたが、実際に必要な投資や期間について議論していくと自分たちの場合には荷が重いように感じました。「やる前から限定してしまってどうするんだ」「志が低い」「いけるところまでやってみたら」という声もありましたが、こちらも同様で「やれるところまでがどこなのか」「具体的に何をやるのか」「ゴールが見えない状態で活動していることがどれだけ非効率で疲弊するか」を根気よく話したところ、やはり、まずは、ゴールを決める必要がありそうだということで合意できました。

 実は、Aさんは、以前からやってみたらよいのではないかと考えていたことがあったのです。それは自分たちが作ってきた機械製品を他の市場で使えるように改良することです。きめ細かい動きができることが特徴だった機械製品を、医療・ヘルスケアの現場で使えるようにして、多くの人の負担を減らしたいという思いです。まったく違う業界なので、求められるものは大きく違うでしょうが、なんとか、自社の技術を活かせるのではないか――と考えています。

 イノベーションという言葉は定義が曖昧なため、「なんとなくそのまま」にして進みがちです。しかし、その後のことを考えると、冷静に「自分たちが目指すイノベーション」を決めなくてはいけません。その際にどの程度のインパクトを創るのかは最初のハードルです。ここをきちんと決めてからスタートしないと、ゴールにはたどり着けません。

 「これまで、世の中にない」「誰も見たことがない」ということは、かっこいいかもしれませんが、必ずしも必須ではないと思います。「イノベーション推進」が仕事になったとき、「世の中を変えなくては!!」と意気込むことは大切ですが、自分が何を求められて、何を実現しようとしているのかを整理するところからスタートしてみるとよいでしょう。

 新しいことを考えてそれを実現することは、本来、とても楽しいこと(のはず)です。しっかり、迷わず、集中して仕事が進められるように最初に「考える」時間をとって、みなさんが目指すべき目標とゴールを設定・確認してスタートし、楽しみながら一歩ずつでも進んでいきましょう!!

岩田 徹(いわた とおる)
アイディアポイント 代表取締役社長
東京大学工学部精密機械工学科卒、同大学院工学系研究科修了。工学修士。A.T.カーニー、ローランド・ベルガーにてコンサルティング業務に従事。SAPジャパンにて、マーケティングを担当。その後、株式会社ファーストキャリア設立に参画。経営戦略 / 事業戦略 / 営業戦略立案~実行支援、商品・サービス開発を担当。ヒトの知性および創造性、組織における創造性の開発をテーマに、2011年9月8日(いいクリエイ卜の日) 、株式会社アイディアポイン卜を設立、現職。現在は大手企業を中心に様々な新規事業開発プロジェクトのコンサルティングを行っている。また、新規事業開発・イノベーションをテーマに、提案制度の設計、講演、研修・ワークショップを実施している。
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キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営、技術、プレーヤー、新規事業、事業開発、イノベーション

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