間違いだらけの新事業プロジェクト

イノベーションの定義は社外に求めてもムダ、自分たちで定義しよう アイディアポイント 代表取締役社長 岩田徹

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 ではどうすればよいでしょうか?重要なことは一つです。

 必ず、最初に、目的(Objective)ゴール(Goal)の2点を確認しましょう。

 目的とは、「会社として、何のために『イノベーション』に取り組むのか?」ということです。例えば、既存事業が将来的に縮小したとき、次の会社の柱になる事業として期待されるものを創出する、あるいは既存事業の縮小分を補うことで事業上のリスクを分散できるようにする――などを目的に設定することが多いでしょう。

 ゴールとしては、その成果をどのように測定するのか、何をもって成功や失敗を判断するのか?いつ判断するのか?――を決めます。新事業では「やってみないとわからない」ことがありますが、それでも、その時点で目指すものは明確にしておかないといけません。成果を出すのが1年後なのか、10年後かで狙うべき分野は異なりますし、新事業の規模として10億円を目指すのか、1000億円を目指すのかで、必要な投資金額や人員も大きく違ってきます。目的(Objective)とゴール(Goal)を決めることで、自分たちが何を目指しているのかを明確にしていきます。

 Aさんが配属された「イノベーション推進室」のような場合、ほとんどの会社では「目的やゴールも含めて決めてほしい」と指示されると思います。「ヘルスケア分野で3年後に何らかの形で既存事業とシナジーのある製品を出して、売上高を30億円プラスする」というように具体的に示されることはまれです。ゴールが決まっていないなら、腹をくくらなくてはいけません。「目的やゴールは誰も与えてくれない」とネガティブに考えるのではなく、「自分で好きに決めていい」とポジティブに考えて、「経営陣と交渉して、予算や人員を勝ち取る」という気分で決めてしまいましょう。

自分たちにとってのイノベーションを定義しよう

 このような状況で多くの会社が陥る失敗が、「イノベーション」の定義を社外に求めて、その定義に沿って取り組む事業を決めようという試みです。世の中に、すべての会社に当てはまる「イノベーション」の定義はありません。「自分たちなりのイノベーションを定義する」ことが重要です。

 イノベーションという言葉は、もともとは、「in-(内部へ)」「novus(新しい)」を語源とする言葉で、何かが新しく生まれるという意味です。経済学/経営学の分野で1911年に、オーストリア出身の経済学者であるヨーゼフ・シュンペーター氏が使用したことで知られるようになりました。経済活動の中で生産手段や資源、労働力などを、それまでとは異なる仕方で新結合することと定義しました。

 日本では、1958年の経済白書で「技術革新」と訳されたのがはじまりで、「技術を使った新しいこと」という意味で使われていました(これはやや不正確な定義で、イノベーションに必ずしも技術を使う必要はありません)。

 現在では、「大きな価値を生み出す新しいこと」という意味で使われます。実は、世の中で定義されているのはこの程度で、これ以上の定義はありません。このような背景から「イノベーション」という言葉については、非常に革新的・破壊的なイメージを持つ人から、比較的身近なちょっとした新しいことをイメージする人まで幅広く存在します。自分たちがどの程度のインパクトをイメージするのかを定義することになります。主なものを以下に示します。

1.世の中を大きく変える、既存のビジネスや枠組みを破壊する

 これは言葉が本来持つ意味から考えても、比較的オーソドックスな定義です。一方で、この定義の「イノベーション」は非常にインパクトが大きいため、リスクも高く、時間もお金もかけることが前提になります。これまでの枠組みを大きく変えるのですから、それなりの覚悟が必要です。トヨタ自動車がソフトバンクと組んで発表した「e-Palette Concept」では自動車を所有しない世界が描かれていました。また、ブロックチェーンを用いた仮想通貨の考え方ではこれまで存在していた貨幣がなくなります。このように、これまで当たり前だと考えられていたものが、ガラッと変わるほどのインパクトがあるため、本当にこの定義に基づくイノベーションを実現するのであれば、1社ではできないこともありますし、中長期計画で取り組むための期間と予算、人員が必要になってきます。

 社会課題の解決を成し遂げたいのであれば、この定義に基づくイノベーションに取り組むことが必要になります。例えば、国連は「SDGs」と呼ぶ持続可能な開発のための17の目標と169のターゲットを定めました。社会課題の解決を目指すイノベーションでは、それら目標の達成に取り組むことが王道になっており、直近でも、資生堂、味の素をはじめとする多くの大企業が、このSDGsの目標のいくつかをテーマに事業活動を行っています。

 既存の業界やその枠組みをデジタルの力を使って破壊するプレーヤーのことを「デジタルディスラプター」と呼び、Uber、Airbnb、Lyft、OpenTableなど様々なプレーヤーがチャレンジしています。

 イノベーションのフレームワークとしては、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS) の教授であるクリステンセン氏による「破壊的イノベーション」の理論も参考になります。これは、製品がある程度の機能を備えるようになると、技術革新によって既存製品よりも低機能、低価格、小型化、ユーザビリティー(使い勝手)の高さを実現する新製品がでてきて、これまでとは異なる競争になるという考え方です。家庭用ゲーム機である「Wii」がヒットしたのはこの一例で、ほかにも航空業界におけるLCC(格安航空会社)や理髪業界における格安理髪店(QBハウスなど)が挙げられます。

 実際には、このような例を参考にしながら、世の中に対するインパクトが大きくて自分たちが取り組めるものを探していきます。世の中を大きく変える、既存のビジネスや枠組みを破壊する「イノベーション」を推進する人は、ある種の過激な(あるいは、極端な)考え方と、リスクをとる覚悟を持ち、とにかく大きなことにチャレンジしていく必要があります。

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