「働き方改革」 先行する中小、挑戦するベンチャー

中小だからできる「勤務時間は短く、生産性は高く」 日本政策金融公庫総合研究所主席研究員・井上考二

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 平日であれば午後に出社すればよく、午前中の空いた時間を習い事や資格取得の勉強、家事などに充てられる。子育て中の従業員は子どもを学校に送り出してから出社できるし、満員電車に乗らなくてすむので通勤が楽だと話す従業員もいるという。

 さらに同社は、副業を認めている。従業員の約7割は、短時間勤務で空いた時間に副業を当てている。非常勤の教師やスポーツジムのインストラクターなどさまざまで、教育に関する最新の情報を得たり、効果的なトレーニング方法を学んだりする機会となるなどもあるという。副業がスキルアップにもつながっているケースも少なくないわけだ。

 三浦社長は同社を設立する前に介護関係の仕事に就いていたという。「介護業界で離職率が高い最大の原因は従業員のモチベーションを高められなかったからだ」と三浦社長。このためイニシアスでは働きやすい職場を用意することを最も優先順位の高い経営目標のひとつに上げているという。

■集中力が続く5時間がコアタイム

 典型的な成熟産業でありながら、大胆な働き方に挑戦しているのが、1936年創業のクスカ(楠泰彦社長、京都府与謝野町、従業者数12人)だ。昔ながらの手織り機で、地元の伝統産業である絹織物の丹後ちりめんを使ったネクタイを製造している。淡い光沢感やふんわりとした質感といった丹後ちりめんの良さが引き立ち、百貨店やセレクトショップで販売されている。

 以前は和服の生地を作製していたが、和服市場の縮小で売り上げの減少に歯止めがかからなかったという。会社の将来を見切った若い従業員が相次ぎ退職して廃業寸前に陥っていた時期に、先代の父から楠社長が継承した。

 楠社長がネクタイに着目したのは、手織りでも効率的につくれることに加え、クールビズの浸透で着用機会こそ減っているものの、アクセサリー代わりに高価なものを身に着ける人が増えている業界動向をキャッチしていたためだ。徐々に注文が増えていったことから、対応するために人手を増やす必要が出てきた。

 そこで同社は1日8時間の勤務のうち、手織りの仕事は5時間までと決め、生産量に応じた給料を支払うことにした。楠社長自身の経験上、5時間以上は集中力が低下してミスが増え、生産性が落ちてしまうからと判断した。5時間で織れる生地の量は約4メートル(ネクタイでは2本分)。仮にそれだけの量を織れなくても、残業してカバーする必要はない。

生産量に応じて給料を支払い

 さらに子どもの送迎や親の介護などの事情があれば、途中で外出したりできる。5時間のコアタイムを取り入れつつ、勤務時間を柔軟に変えられるフレックスタイム制を取り入れた。

 勤務時間の自由度が高く残業がないという勤務業態は大きな魅力だ。同社の求人には毎回3倍程度の応募があり、必要な人手を確実に採用できているという。考えてみると、従業員が自分のペースに合わせ手作りの商品を仕上げるのは、京都の織物業における伝統的なやり方だ。「昔に戻ったともいえるが、最適な働き方を追求した結果だ」と楠社長。

 イニシアスでは、他社のような送迎サービスを実施しないことで短時間勤務を実現させ、クスカは製品を歩留まりの高い手織りのネクタイに変えるとともに、生産量に応じた給料にすることで残業の必要性をなくしている。

 仕事のやり方が従来と同じまま労働時間を減らそうとしても、それは従業員に負担を押しつけるだけであり、あまりうまくいかないだろう。仕事のやり方や内容そのものを見直して、労働生産性の向上を図ることが、当然だが何よりも重要なことを両社のケースは示している。

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