いまさら聞けないITの常識

仮想通貨の「ブロックチェーン」 鎖つなぐハッシュ値の不思議 中央大学国際情報学部教授 岡嶋 裕史

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 ブロックチェーンでは、こうしたハッシュ値の特性を利用して、暗号資産の取引記録を改竄不能にしています。まず、1000ほどの取引記録を集めて、データのブロックを作ります。このブロックのハッシュ値を計算し、次のブロックに含めるのです。すると、ブロック同士の関係は連鎖したものになります。しかも、ハッシュ値の計算自体がわざと難しいものになっています。

 悪意を持ってブロックチェーンを攻撃しようとする者の視点で見ると、あるブロックに含まれている取引記録を改竄して不正を働くとき、その取引記録を改竄するにとどまらず、そこから得られるハッシュ値も改竄しなければなりません。

 ところが、ハッシュ値は次のブロックに埋め込まれているので、次のブロックも改竄する必要が生じます。次のブロックを改竄すると、次の次のブロックも……と延々繰り返さなければなりません。ビットコインの場合は、現在、60万近いブロックが数珠つなぎになっており、そこにはビットコインが登場してからいままでの全取引記録が収められています。仮に最初のブロックを改竄しようと思えば、気の遠くなるような作業になります。

 ただでさえハッシュ値を得るのが難しくなっているのに、たくさんのハッシュ値を次々と計算していくのは事実上不可能ですし、もしもそんなことができる機械を用意するのであれば、まっとうな使い方をした方が、報酬をたくさん得られるように設計されているのです。

ブロックを増やしていく動機

 ブロックチェーンのしくみでは、取引記録をチェックして新たなブロックに格納し、ブロックの数珠つなぎを延ばしていく「誰か」の存在が不可欠です。

 チェーンにブロックを追加する作業は面倒です。単純にいまのブロックのハッシュ値を計算するだけならすぐにできるのですが、ナンスと呼ばれる条件が設定されていて、その条件を満たすようなハッシュ値を探さなければならないからです。先ほども書いたように、わざとハッシュ値を作る難度を上げて、「気軽に不正などできない」ようにしているわけです。

 でも、誰がそんな面倒なことをするのでしょう?

 ビットコインなどの暗号資産ではこの点が巧妙に考えられており、条件に合致するハッシュ値を最初に発見し、次のブロックの追加に成功した者には報酬(ビットコイン)が支払われるようになっています。

 だから皆、次のブロックの追加競争=条件に合致するハッシュ値の発見競争に没頭しているのです。これを採掘になぞらえて、マイニングといいます。

 マイニングには強力なコンピュータとそれを動かす電力が必要で、現在では初心者が気軽に参加できるようなものではなくなっていますし、先に述べた電力消費量の問題も生じています。他人のコンピュータを不正に借りて、マイニングを行うような事件も起きています。管理者を信頼できるしくみに慣れている利用者は、理屈の上では納得できても、不特定多数の人が運用するシステムに対する違和感はなかなか払拭できないでしょうし、スタートアップ企業がICO(Initial Coin Offering:新規暗号資産公開。独自の暗号資産を発行して資金調達をすることです)で巨額の資金を手にする様を見て、「なんだか怖い」と感じた方も多かったと思います。暗号資産やブロックチェーンは、まだその安全性を一般利用者に周知し続けなければならない段階にあります。

岡嶋 裕史 著 『いまさら聞けないITの常識』(日本経済新聞出版社、2019年)、「第4章 つながるIoT、疑心暗鬼のブロックチェーン」から
岡嶋 裕史(おかじま・ゆうし)
中央大学国際情報学部教授。1972 年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所、関東学院大学経済学部准教授、関東学院大学情報科学センター所長等を経て現職。専門は情報ネットワーク、情報セキュリティ。著書に『ブロックチェーン 相互不信が実現する新しいセキュリティ』(講談社)、『プログラミング教育はいらないGAFAで求められる力とは?』(光文社)、『ビッグデータの罠』(新潮社)などがある。
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キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営、技術、製造、プレーヤー、イノベーション、AI、IoT、ICT

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