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リクナビ問題から考えるビッグデータビジネスの望ましい対応 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原 信郎

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 リクルートホールディングス(HD)の子会社、リクルートキャリアが運営する、大学新卒者向けの就職ポータルサイトである「リクナビ」の閲覧・行動履歴を利用し、内定辞退率をスコア化し、企業に提供する「リクナビDMPフォロー」というサービスの運用について、大学生・大学当局等から強い反発が生まれ、社会的批判が高まっている。

 「リクナビ」は就職学生の9割以上が利用するといわれる、リクルートHDの看板サービスの一つであり、また、情報サービスの根幹ともいえる。信頼関係の喪失を理由に、大学の就職支援部門の「リクルート離れ」が広がっており、リクルートHDの株価も大幅に下落している。

 この問題は、法令違反の問題と、倫理上・社会的要請上の問題とに分けられる。問題点を整理したうえで、今後、同様のビックデータビジネスを行うにあたり、望ましい対応について考えてみたい。

「リクナビDMPフォロー」とは

 「リクナビDMPフォロー」とは、対象となる学生の選考離脱や内定辞退の「可能性」を示すサービスである。あくまで、辞退可能性の高い学生に対して、企業がフォローに活用することを目的として開発したとのことだ。

 仕組みとしては、契約企業における前年度の選考離脱・内定辞退者の「リクナビ」上での閲覧・行動履歴から、当該契約企業に対する応募行動についての予測モデルを作成。そこに当該契約企業から提供を受けた今年度の応募学生の情報を使い、当該契約企業の予測モデルに、応募学生の「リクナビ」上での行動ログを照合することで、「学生からの辞退」という形で選考離脱や内定辞退が起こる可能性をスコア値にし、契約企業に対して提示していた。

 リクルートキャリアは、合否の判定には当該データを活用しないことを企業に確約させていると説明している。しかし、採用前にデータを提供しており、リクルートキャリアの担当者が口頭で確認する程度で、紳士協定のようなもの。実際は選考の順番を決めるときに、スコアを参考値として使っている企業があった可能性も否定できない。

個人情報保護法に関する問題

 まず、個人情報保護法との関係が問題になる。個人情報を第三者に提供する場合は、本人のコントロールが及ばなくなる恐れがあることから、本人の適切な同意取得(オプトイン)を原則としている。しかし「リクナビ」では、一部学生(7983名)に表示したプライバシーポリシーで、特定可能な個人情報を外部提供するような文言にはなっておらず、適切な同意を取得していないのに「リクナビDMPフォロー」の対象となっていた。リクルートはこの点を理由として8月4日にサービスを廃止し、8月26日には個人情報保護委員会(個人情報保護の監視監督を行う行政機関)から違法を認定され、勧告も受けている。

 また、形式的には同意がある学生についても、同意の有効性が問題となった。個人情報保護法には同意の方法について細かい規定はないが、ガイドラインには「本人が同意に係る判断を行うために必要と考えられる合理的かつ適切な方法によらなければならない」との規定がある。「リクナビ」のプライバシーポリシーで該当する文言は「採用活動補助のための利用企業等への情報提供」となっていたが、この文言から、個々の辞退率を予測し、それが企業に提供されることを理解するのは困難である。個人情報保護委員会は、この点について違法の認定はしなかったものの、説明が不明確であるとして、是正を指導した。

職業安定法に関する問題

 次に問題になるのが、職業安定法である。同法およびその運用指針は、適法かつ公正な手段による個人情報収集を求め、他人へのみだりな個人情報提供を禁止している。

 詳細は不明だが、各紙報道を総合すると、厚労省は「主な就活サイトはリクナビなど2~3種類に限られ、辞退率の利用に同意しなければ就活が実質的にできなかった」という点を重くみて、「同意を余儀なくされた状態」であるので、就活生から同意を得ていたかどうかに関係なく、「適法かつ公正な手段」ではない個人情報収集が行なわれていた可能性、また、「みだりに」個人情報を外部提供していた可能性を認定し、職業安定法に触れるおそれがあることを指摘し、是正を求めて行政指導したようだ。

独占禁止法に関する問題

 近時、公取委は、優越的地位濫用規制を、企業と個人の間の取引にも適用を拡大することに積極的であり、8月29日に公表した、「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」では、優越的地位の認定で、「消費者がデジタル・プラットフォーマーから不利益な取扱いを受けても,消費者がサービスを利用するためにはこれを受け入れざるを得ないような場合は,当該デジタル・プラットフォーマーは消費者に対して優越した地位にあると認定」するとしている。グーグルなど、GAFAといわれる巨大プラットフォーマーによる、サービスの対価として“情報”を支払っていると捉え得るビジネスモデルにおける、公正かつ自由な競争への悪影響を排除することを主眼とするものであるが、文言上は、無料や広告で囲い込むビジネスモデル一般に適用できるものとなっている。

 「リクナビ」のように、新卒採用のための市場では寡占状態にあり、消費者がそのサイトを利用しないという選択肢を選ぶことが事実上困難な場合には、プラットフォーマー同様の優越的地位にあると判断される可能性があり、今回のように利用目的を知らせないで個人情報を取得する行為などが、優越的地位濫用と認定される可能性がある。

 公取委の山田事務総長も、9月4日の会見で、「リクナビ」の今回のケースが独占禁止法の観点からも問題がないのか注視していく考えを示している。

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