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今の「AI」は特定問題の解決策 機械学習で長足の進歩 中央大学国際情報学部教授 岡嶋 裕史

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 人工知能(AI)という言葉には注意が必要です。現在では、深層学習や強化学習などの手法を使った特定問題の解決プログラムのことを指す、という合意がほぼ形成されているように思われます。

 しかし、もともとは、人間を代替するような機械知性のことをAIと呼んでいました。現在でもその意味で用い、いま世間にあふれているAIは本当のAIではないという立場の人もいます。用語としてのAIに接するときは、どんな文脈で使われているか留意が必要です。昔ながらの用法を「強いAI」、いま使われているような用法を「弱いAI」と呼んで区別することもあります。

 現在のAIは、複数の分野間にまたがって問題解決をしたり、人が行うような広汎な認知を行うことはできません。その意味では、たとえば1970~1980年代に流行したエキスパートシステムの延長線上にある概念、システムだと考えることもできます。

 エキスパートシステムは、人工知能を作る手法の1つで、ある分野の専門家がその分野についての知識(ルール)を提供し、「この場面ではこう、あの場面ではこう行動する」といった「ルールベース」を構築していきます。これを「推論エンジン」と呼ばれるシステムに評価させ、いま取るべき行動などを決めるのです。

ルール設定から機械学習へ

 しばしばAIの成果として言及される囲碁や将棋のことを考えてみましょう。

 20世紀中に存在した将棋ソフトと、昨今の将棋AIを比較した場合、「将棋しかできない」という意味では両者の立ち位置は同じです。将棋AIはエキスパートシステムの延長線上にあると考えてよいでしょう。当時のエキスパートシステムにも、いまだったらAIと呼称するであろうものがたくさんありました。

 エキスパートシステムの欠点の1つに、ルールベースを作ることの大変さがありました。王将の価値は大きい、味方の王将と飛車が接近すると両取りのリスクが増える、王将の守備は金将銀将3枚が基本といった、将棋で良い手を探すときの経験則を抽出し、それをどのように表現するか、開発者は頭を悩ませたのです。

 歩=1点、飛=9点、王=∞としている将棋ソフトもありましたし、歩=100点、飛=700点などと設定しているものもありました。そして、時には経験則を破ることこそが、勝ちにつながるケースや、抽出したルール同士が競合してしまうケースなどもあり、それらを破綻なく処理できるようにしたり、バランスを取ったりすることは、繊細微妙な、マッチ棒でスカイツリーを作るような作業でした。

 この作り方の場合、ルールベース作成の作業は膨大になりますし、何よりもシステムを作るエンジニアがある程度ルールを理解していないと効率が悪い点が目立ちました。20世紀に名を馳せた将棋ソフトは、そのソフトの開発者自身が強い将棋指しであることも多かったのです。

 しかし、2005年にボナンザが登場すると風景が一変しました。ボナンザはルールベースの構築を機械が自動的に行う「機械学習」を大幅に取り入れた将棋ソフトでした。開発者である保木邦仁氏があまり将棋に強くなかったことも設計に関係しているかもしれません。先ほどの例でいうと、歩兵が何点で、飛車が何点なのかは、開発者が考えるのではなく、機械が決めてくれるわけです。

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