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「IoT」はデータ駆動社会の競争力 課題はセキュリティ 中央大学国際情報学部教授 岡嶋 裕史

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 生活空間の大半に置かれたセンサーから吸い上げた情報は、さまざまな用途に活用することができます。温度、湿度、重量、光量、加速度、人の動線、表情……それ自体が貴重なデータですが、これらを組み合わせることで、思いもしなかった発見や知見が得られるかもしれません。

 現在は、データ駆動社会と呼ばれます。データの収集能力や解析能力が上がったことで、良いデータを持っている組織は未来予測の精度が上がったり、社会を動かしたりすることが容易になっているのです。

 これまでは、データの収集や解析は非常にコストがかかる行為だったので、こういう仮説を検証しようと決め、そのためにはこのデータが必要だから、このセンサーで収集する、といった手法が一般的でした。池の生態系の変化を知るために水温を測りたいので、温度センサーを設置するという具合です。

 しかし、データが簡単に入手、保存できるようになると、手当たり次第にデータを収集して、取っておくことができるようになりました。解析も、人の手を煩わせなくても(現実には、良い解析のためにはまだまだ人手が必要ですが)、機械学習などの手段によって自動化することができます。

IoTはモノのセンサー化か

 トリリオンセンサーは、ビッグデータやデータサイエンスと親和性の高いバズワードです。データサイエンスは研究やビジネスの強力な武器になりますが、解析の対象とするビッグデータがなければ話になりません。ビッグデータを社会全体で取得していこうとする構想がトリリオンセンサーの核といえます。実現すれば、商品の流通管理や人間行動の理解、自然環境の把握に極めて大きな力を発揮することになるでしょう。

 ただし、考えようによっては、どこに行ってもどこにいても、自分の行動が連続的に把握、監視されてしまう社会が実現するわけですから、使い方を誤るとディストピアの到来を招くかもしれません。

 「これがトリリオンセンサー」と呼べるような具体的なサービスはまだありませんが、今後普及していく携帯電話の5G(ファイブジー)規格はトリリオンセンサー普及のきっかけになるかもしれません。

 いま巷間(こうかん)で膾炙(かいしゃ)する、いわゆるIoTを、あらゆるモノのセンサー化と考えることもできます。複合機やエアコンや風呂釜や信号機がインターネットに接続され、その使用状態をモニタリングすれば、誰がどんな行動をしているかある程度把握することが可能です。

 その人の行動を理解して、より快適な生活空間を提供することもできるでしょうし、人がいないところを狙って泥棒に入ることもできるでしょう。すべてのエアコンの制御を乗っ取って一気に稼働させれば、電力テロを起こすことも可能です。

 しかし、トリリオンと表現するには、これらのセンサー類は数が足りません。信号機は1兆個もありませんし、仮にあったとしても、そこからデータを収集する手段がありません。いまの携帯電話の電波でそれをやろうとしたら、回線がパンクしてしまいます。いくらセンサーがあっても、収集できなければ無用の長物です。

 5Gはその伝送速度もさることながら、大量の機器を同時接続できることに特徴がある技術です。5Gの浸透によって、トリリオンセンサーの構想が進むかもしれません。このように、技術は相互補完的に発展していくことがあります。1000メートル 級の高層ビルを建てる技術があっても、エレベータが発明されていなければその高層ビルはおそらく使い物にならないでしょう。

 トリリオンセンサーも、構想は秀逸でも、データを収集する実際的な手段が必要でした。5Gはその具体的な手段の1つになっていくでしょう。

 ふつう、温度センサーや圧力センサー、監視カメラなどは、何らかの目的があってその場に設置されます。裏路地に設置される監視カメラであれば、人の死角になりやすい場所を光学的にセンシングし、犯罪の発生を抑止したり、犯罪が発生したときにその解明に至る情報を残すことが目的です。それだけでも、十分に役目を果たしているといえます。裏路地の監視というローカルな任務に特化しているわけです。

 でも、取得した画像データを公開して、他のシステムでも活用できるようにしたら、最初に設置したときには思いもよらなかった用途に転用できるかもしれません。街中、国中に設置された監視カメラが連動したら、誰がどこを通ってどこに移動したか、把握できるようになるでしょう。行方不明者の捜索にも活用できるかもしれません。

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