経営層のためのグローバル・マーケティング

企業経営脅かす利己主義と非寛容 明治大学経営学部教授 大石芳裕

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 日本企業にとってグローバル・マーケティングの重要性は増すばかりだ。しかし、意思決定のスピードが遅いなど依然課題は多い。理由の1つは海外で最前線に立つ駐在員に比べ、国内経営層の海外市場に関する理解が進んでいないことだ。この連載では、海外市場開拓を指揮する経営層らが意思決定のために知っておきたいグローバル・マーケティングを紹介したい。

 世界の政治経済が不穏である。筆者はグローバル・マーケティング戦略やグローバル・ブランド管理など企業(ミクロ)の経営を専門に研究しているが、そのような企業経営を語る前に現在の世界政治経済(マクロ)に触れざるを得ない。マクロの政治経済の枠組みの中でミクロの企業経営が実施されているのであるから、理論上も実務上も両者の関係を強く意識して考える必要がある。

 第2次世界大戦後の世界政治経済は、1930年代のブロック経済の反省の上に築かれてきた。俗に「IMF/GATT体制」と呼ばれる戦後体制は、米国主導ではあったものの、多国間協調と自由貿易、海外直接投資の活発化を通じて、70年以上、世界的戦争なき繁栄をもたらした。それが近年、危機にひんしている。現在の世界政治経済の状況を一言で表すならば、「自国第一主義」である。

 自国第一主義が世界的にまん延している。そもそも国民の共同体的利益を追求する国家が自国を第一に考え行動することは自然である。ただ、ブロック経済に代表されるように、自国第一という個別最適が決して世界の全体最適につながらず、自国第一主義の追求が翻って自国と世界を破滅させるという結果をもたらした。この反省の上に、自国を第一と考えながらも世界的協調をも同時に考慮するというパラダイムが形成されてきたのである。それは、軍事のみならず、経済や地球環境などにおいても同様であった。地域的軍事衝突は絶え間なく生じているが、それが世界大戦に拡大することはなんとか防いできた。経済的摩擦も各地で起こっているが、一方で地域経済統合なども進展してきた。地球環境保全が全世界の共通の課題であるということも、これまではかろうじて共通認識を得てきた。それらが現在、追い詰められている。

 経済に限定してみても、第2次世界大戦後、世界の貿易と海外直接投資は急増した。貿易は労働の節約と経済資源の再配分を促進し、海外直接投資は資本や技術、ノウハウの移転を通じて「諸国民の富(アダム・スミス)」を増大させる。貿易も海外直接投資も、世界の政治経済の安定を基盤にしてグローバリゼーションを進めてきたのである。かつて、グローバリゼーションは貧富の格差を拡大し、強国と弱国の力関係を固定化するものとして、一部の強い批判を浴びてきた。その主張には一理あるものの、世界全体としてはそれらの課題を減少させながら、グローバリゼーションを押し進めてきたのである。

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