経営層のためのグローバル・マーケティング

企業経営脅かす利己主義と非寛容 明治大学経営学部教授 大石芳裕

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 図は、2005年以降の日本の海外直接投資残高推移を表している。2005年に50兆円に満たなかった海外直接投資残高は、2017年には168兆円に増大した。右肩上がりの海外直接投資残高の増大は、まさに世界政治経済の安定を基盤として成り立っている。日本企業は海外直接投資によって海外市場を開拓し、多くの投資収益を得ている(2018年で10兆円)。国内市場が縮小する中で、輸出や海外直接投資がなかったら、企業の存続そのものが危うかったかもしれない。このことは、日本企業についてのみ当てはまるわけではなく、多くの国がグローバリゼーションの恩恵に浴しているのである。そのグローバリゼーションが、「自国第一主義」の波に押し切られそうになっている。

日本の海外直接投資残高の推移(2017年末時点)

 「自国第一主義」は、言葉を代えれば「利己主義」であり「非寛容」である。自国第一を願いながら国際協調も同時に追求してきた各国が、「利他主義」や「寛容」に耐えられなくなってきているのが原因である。英国のEU離脱(ブレグジット)は、英国民の多くが拠出金の割に得るべきものが少なく、一方でEUに国家主権を脅かされていると認識したが故に生じた。そのEUも、トルコや北アフリカ諸国からの難民受け入れに強く抵抗する勢力が増大している。米国のトランプ大統領は自国第一主義を標榜して、「忘れさられたホワイト・ブルーカラー層」の支持を得た。貿易赤字は許し難いし、雇用輸出につながる米国企業の海外直接投資も国益を損なう。非白人のマイノリティーに対しても冷たく、彼らを「口撃」しても白人の支持を得られればよい、と考えている。ロシアはウクライナの領土とみなされていたクリミア・セヴァストポリを編入し、中国も南シナ海領有権問題で強硬な姿勢を崩さない。中国は一帯一路政策で、遠く欧州・アフリカまでその権益を延ばしている。カンボジア南西部の港町・シアヌークビルは今や中国の町と化している。ブラジルのボルソナロ政権は、経済開発優先でアマゾン開発に伴う大規模火災を容認するような姿勢を見せ、欧州諸国と鋭く対立している。日本も韓国との間でかつてない緊張関係にある。

 利己主義や非寛容は企業経営にもまん延している。企業利益を最優先するが故の不祥事も後を絶たず、株主利益を最優先し従業員等の他ステークホルダーをないがしろにする傾向も根強い。企業利益や株主利益のため失業した人々が、「忘れさられたホワイト・ブルーカラー層」のように、さらなる非寛容に走る可能性は高い。個別最適を求め全体最適を損なう危険性が、マクロにおいてもミクロにおいても増大している。

大石芳裕(おおいし・よしひろ) 明治大学経営学部教授
専門はグローバル・マーケティング。日本流通学会(理事,前会長)など多くの学会で要職を務める。企業などで海外市場開拓を担う実務家らを講師として招く「グローバル・マーケティング研究会」を主宰。同研究会は第一線のマーケッター、研究者ら約3000人の会員が登録する、実務と学術をつなくグローバル・マーケティング研究の拠点になっている。近著に「グローバル・マーケティング零」(白桃書房)、「実践的グローバル・マーケティング」(ミネルヴァ書房)など

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