5Gビジネス

「5G」がもたらす製造業の革新 ボッシュ、デンソー、コマツ... 野村総合研究所 亀井 卓也

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 具体的なスライスの例を6つ挙げています。

(1)Highly demanding QoS requirements:これは技術者の持つ端末から工場内の装置に対して指示を出す場合の、高いQoS(Quality of Service:通信サービス品質)を確保した通信です

(2)Many different use cases with very diverse requirements:これは工場内の多様な装置が求める要求要件に対して最適化された通信です

(3)Well-isolated integration of third parties in own infrastructure:これは自社内の工場に他社の装置や機器が存在する場合に、セキュリティ管理上分離しつつも、機能上はきちんと統合されている通信です

(4)Shift of intelligence to the network:これは用途に応じて、特に低遅延性を求めるものをエッジコンピューティングに流せるような通信です

(5)Remote access/ control with well-defined QoS & security:これはインターネットを通過する場合にもQoSとセキュリティを確保できるよう管理された通信です

(6)Application-specific network functions:これは通信する対象が移動するかどうか、またどれくらい速く移動するか、などのアプリケーションの特性に合わせた通信です

 このように、ネットワークスライシングとスライスごとの通信の最適化が、インダストリー4.0、つまり製造業のデジタルトランスフォーメーションを推し進めるということになります。

各国で続々と実証実験

 2019年2月には、デンソー九州の工場において5G活用の実証が行われています。

 国際電気通信基礎技術研究所(ATR)、デンソー、KDDI、九州工業大学が共同し、工場の生産ラインを構成する産業用ロボットと三次元計測センサーの制御を5Gで行うという実証です。

 生産ラインを変更する場合に産業用ロボットなどを配置換えする必要がありますが、固定通信で実装する場合には、配線設計や再稼働にあたっての調整に時間がかかり、工場の稼働率を低下させてしまうという問題があります。こうした問題を解決するものとして、5Gによる制御の技術的可能性と有効性を検証しています。

 固定通信の代替という意味を超えて、5Gならではの信頼性・低遅延性を有効活用する実証も行われています。

 ドイツで創業され、現在は中国の美的集団(Midea Group)の傘下にあるクーカは、インダストリー4.0の代表企業として早くからFAの高度化に取り組んできました。同社は2016年3月のCeBIT(欧州最大級のICTソリューション見本市)においてファーウェイとMoU(Memorandum of Understanding:合意覚書)を締結し、5Gの実証も積極的に行っています。

 2017年時点のMWCにおいて、FA用のロボットアームを2機使用して、アームの先にドラムスティックを持たせ、音楽に合わせてドラムを演奏するというデモを行っています。音楽は遅延による動きのズレや、通信のエラーによって想定通りに動かなかった場合にとても目立つため、超信頼・低遅延のデモとしてよく用いられます。

 この時期でのデモにおいて、すでに99.999%の信頼性、1ミリ秒の低遅延性を達成したと報告されています。音楽に合わせてドラムを演奏できるということは、同様の信頼性、低遅延性を要請される生産プロセスにおいて、協調作業が可能であるということになるのです。

 また、韓国通信大手のKTは、2019年1月の世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)において、5Gの製造業への応用について述べています。現代重工業とポスコとともに、5Gによるロボットの遠隔制御・自動化ソリューションを導入した工場を試験稼働した結果、生産性は40%上がり、欠陥率は40%低下したと報告しています。

地方で期待の大きい「ローカル5G」

 製造業、特に工場においても5Gの活用可能性が期待されていることを述べてきましたが、ここでひとつ問題があります。

 通信需要が大きいのはやはり都市部のスマートフォン利用によるものであり、5Gも都市部から整備されていくことになります。

 一方で、製造業の工場は必ずしも都市部にあるわけではなく、むしろ工場用地を取得しやすい地方部、あまり人口密集地ではないエリアに存在しています。そのため、工場があるようなエリアに5G環境が整備されるまでには時間がかかる可能性があります。

 「5Gはスマートフォンによる通信需要の密集する都市部から整備されていくが、人口密度の少ない場所にある施設こそ遠隔制御や自動制御へのニーズがあるのではないか」というジレンマは、総務省においても認識されており、「ローカル5G」という制度が検討されています。

 ローカル5Gとは、「自己の建物内」または「自己の土地の敷地内」でのみ利用を許可された5G周波数を割り当てるというものです。

 建物や土地の所有者からシステム構築を依頼された事業者なども免許取得が可能であり、簡単にいえば「特定の建物・場所で誰もが5Gサービスを提供できるようにする」という仕組みです。

 周波数帯はまずは28.2GHz~28.3GHzというミリ波帯の100MHzに限定されていますが、将来的には拡大していく見込みです。スマートフォンによる通信需要だけでなく、産業における通信需要が見込まれる5Gならではの制度であり、距離の出にくい高周波数の電波特性を活かした仕組みと言えるでしょう。

 ローカル5Gをめぐる問題意識は日本固有のものではありません。総務省のローカル5G検討作業班におけるクアルコムの報告では、米国は通信事業者に割り当てられた5G周波数を通信事業者以外に貸し出す(Spectrum Leasing)ことによって、通信事業者以外の事業者も独自にローカル5Gを展開することが可能であるとしています。また、ドイツでは特定の周波数がインダストリアルIoT用に割り当てられるなど、海外においてもローカル5Gの制度化に向けた検討が進められています。

 日本におけるローカル5Gの制度化のスケジュールですが、28.2GHz~28.3GHz帯については2019年内に官報発行がなされ、その後は各地域の総合通信基盤局で申請を受け免許付与することができるようになります。

 つまり、2020年の5G商用化を前に、ローカル5Gで商用サービスを提供することが制度上は可能になるということです。

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