BizGateリポート/経営

イノベーションはどこまで「管理」できるか 清水洋・早稲田大商学学術院教授に聞く(下)

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東洋紡が脱繊維で進めた「日本型の自己変革モデル」

 ――イノベーションの「コスト」も課題になっています。イノベーションが社会的格差を助長していないか、急進的なイノベーションで新技術に代替された弱者への対応――などです。

 「東洋紡の自己変革は、ひとつのヒントになるかもしれません。脱繊維の構造改革を進めると同時に、主力工場の生産能力縮小・閉鎖も同時に行いました。かつて3万人以上の従業員は連結ベースで1万人にまで削減しました」

 「東洋紡は単に従業員の数を減らしたのではなく、従業員の雇用確保や地域住民の理解を醸成しながら行ったのです。そのため主力工場のひとつを閉鎖した現地の長野県大町市では、商店街に『ありがとう東洋紡』とステッカーが並んだといいます」

 「東洋紡は収益性の高い企業へと生まれ変わりました。企業変革の日本型モデルのようなケースですが、一通りの事業転換を終えるまでに20年以上費やしました。その間に、海外のライバル企業は素早く不採算部門を切り離して、より高い収益性が見込まれる事業へ経営資源を移していったことも見逃せません」

 ――日本の経営トップがイノベーションに臨むべき姿勢をどう考えますか。

 「日本の場合、米国に比べてイノベーションの中核となるべき人材の流動性が著しく低い現実があります。半導体レーザーの分野で、トップ研究者の流動性を比較すると、所属を変えていない人の割合が米国の約36%、日本は約93%です」

 ――快く優秀な人材を送り出す組織は考えにくいですね。かつて大手メーカーから米ベンチャーに移籍した研究者が、人事部長から「もう日本の会社に戻れると思うなよ」などと言われたようなエピソードはよく聞きます。

 「米半導体レーザーのトップの研究者であったピーター・ゾーリは、IBM、GEなどで研究を進めていたのですが、GEのウェルチ会長らトップマネジメントが次々と半導体レーザー開発を断念してしまいました。しかし彼は、その度に新しい職場とポストを得て、結果的に本人の研究成果は蓄積されていきました」

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