「エッジコンピューティング」が可能に
次は「(2)超信頼・低遅延通信」です。
5Gの遅延は1ミリ秒と、4Gの10分の1とされています。これも多様な技術を組み合わせて実現されます。
データ送信間隔の短縮化のような、無線通信の区間での低遅延技術に本来は触れるべきですが、ここでは、直感的に理解しやすい技術革新として「エッジコンピューティング」を実装しやすくなった、という点を挙げます。
たとえばあるスマートフォンで、インターネット上のコンテンツにアクセスし、それをダウンロードするという通信を考えてみましょう。通常の通信は、スマートフォン→基地局→通信事業者のネットワーク(コアネットワーク)→インターネット上のサーバー、という流れでコンテンツにアクセスし、インターネット上のサーバー→通信事業者のネットワーク→基地局→スマートフォン、と逆の流れをたどってダウンロードされます。
それに対してエッジコンピューティングというのは、スマートフォン→基地局→基地局近傍に設置されたサーバー→基地局→スマートフォン、という短い通信経路で完結する方式をいいます。通信事業者にとってのネットワークの端(エッジ)である基地局で、必要な処理(コンピューティング)を行うという意味でエッジコンピューティングといわれています。
これもバスでの人の輸送にたとえてみましょう。ある人が何かの申請をするために、市役所までバスで移動するというシチュエーションを思い浮かべてみてください。
自宅の近くに市役所の派出所があれば、その派出所までを往復すればすむので、遠くの市役所に行く場合と比べて、申請にかかる移動時間を大きく削減できることが想像できるでしょう。重要な点は、多くの市民にこのような行政サービスを提供するには、派出所をあらゆる場所に設置しなければならないということです。
エッジコンピューティングに話を戻すと、これを実現するには利用者の近くに処理サーバーを大量に設置する必要があります。これには巨大な費用と整備の時間がかかりますので、全国サービスのような用途よりも、エリアを限定したサービスでの活用が有効となるでしょう。
エッジコンピューティングのような方式を実装しやすくなったのは、5Gのネットワークが「C/U分離」という仕組みをとっていることに起因します。
通信には、2種類あります。1つ目が、どの端末がどの基地局と接続しているか、端末が通信可能な状況にあるかを識別するといった、制御を目的とした通信です。2つ目が、コンテンツをダウンロードしたり、オンラインショップで注文をだしたりといった、データを伝送することを目的とした通信です。
現状、これらは一体的に運用されていますが、5Gでは制御系の通信を「Cプレーン(コントロールプレーン)」としてくくりだし、データ伝送系の通信を「Uプレーン(ユーザープレーン)」として分離した設計となっています。これをC/U分離といい、これにより、インターネットを経由する通信と、エッジコンピューティングで処理する通信が並存する場合のネットワーク管理が容易になります。
ネットワークの柔軟性が高まる
通信はその使われ方によって、求められる要件にも多様性があります。
たとえば、クルマの自動運転を実現するために、周りの車両や標識、信号、歩行者といった情報を検知し、その解析結果をもとにハンドルやアクセル・ブレーキを制御するための通信であれば、接続が切断されてはいけません。急な歩行者の飛び出しを検知してブレーキをかけるというシーンを想像すると、通信の遅延も許されません。
一方で、電気やガスのメーターのデータを自動収集し、そのデータを集約して請求額の計算に使うための通信では、リアルタイム性は必要ないので、定期的に、比較的通信が空いている時間帯に行えばよいでしょう。通信に失敗しても再送すればよく、致命的なトラブルに至ることもありません。むしろ一回の通信あたりのコストが追求されることになるでしょう。