泉田良輔の「新・産業鳥瞰図」

「サブスク」事業、米IT大手とネットフリックスの違いとは(下) テクノロジーアナリスト/GFリサーチ 代表 泉田良輔

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会員数の増加ペースは落ちついたが利益は拡大傾向

 一方、ネットフリックスの業績は会員数変調の影響を受けたようには見えない(図表2)。同社の株式市場における評価が高いもう一つの理由はサブスクモデルを採用することで収益性を持続的に拡大している点にある。サブスクモデルでは、新規獲得した会員と、契約を継続する会員の両方から収益を得られる。新規獲得会員数が伸び悩んでも、契約を継続してくれる会員数が増えればいわゆるリカーリングレベニューと呼ばれる売上高は全体として増える。

 実際、図表2からすぐわかるように、売上高は2019年Q2においても右肩上がりを続けている。また、営業利益については、四半期ごとのぶれはあるものの上昇基調にあると言える。最近では、2018年Q4に営業利益が一時的に落ち込んだが、以降は改善している。

 図表3に示すように営業利益率は営業利益と似たような傾向で変化している。2016年Q1に1桁前半の営業利益率(オペレーティング・マージン)であったのが、その後は凸凹があるものの上昇トレンドとなり、最近は10%半ばの利益率になっている。株価も利益率が上昇トレンドに入るやや前から、大きく上昇することとなった。

 現在は米国外での事業拡大を進めている最中であるために、収益性は米国内の方が高いが、米国外の収益性も改善傾向にある。米国内の利益率(会社資料ではContribution Marginという定義)が2019年Q2に37.1%で、米国外は16.3%となっている[3]。

 つまり、米国内の伸びしろは限定的に見えるが、米国外の収益性は拡大傾向にある。売上高が伸びていることも考えると、今後、米国外の展開にかかる広告や設備投資などが落ち着くにつれ、収益性をさらに拡大する余地があると言える。これがネットフリックスの将来性に対して高い評価を与え、引いては株価上昇の原動力になっているとみてもよいであろう。

成長続けるネットフリックスの次なる戦略はコンテンツ制作の強化

 サービス対象地域を世界に広げるネットフリックスの次なる戦略は、高品質のコンテンツ制作の強化と優良コンテンツの保有による企業価値のさらなる向上であろう。

 同社のオリジナルコンテンツに対する評価が次第に高まっているのは先に説明したとおりであるが、最近では、米ニューメキシコ州の制作会社Albuquerque Studiosの買収や日本のアニメ会社との包括的提携を行うほどの力の入れ方だ。米国内事業での高い収益性を背景にした潤沢なキャッシュフローを、コンテンツ制作体制の充実に向けるのは、動画配信ビジネスにおいては自然な流れであろう。

 そうした戦略を進めるうえで、どのような企業がネットフリックスの競合相手になってくるのだろうか。同社の動画配信サービスはこれまでユーザーに一番近い「川下」で存在感を増してきたが、それとは反対の「川上」であるコンテンツ制作でその地位を確立している企業がライバルになってくるはずだ。例えば、ディズニーは配信サービス事業者としてのネットフリックスに警戒心を強めてきたが、今後はコンテンツ制作においても警戒心を持つようになるに違いない。

 ディズニーは本連載の『ディズニー映画の強さ、クールジャパン戦略の脆弱さ』で示したように、バリューチェーンの川上であるコンテンツ制作から、その川下であるケーブルテレビなどへのコンテンツ配信サービスまでを押さえることで収益を拡大してきた。

 しかし、そのディズニーもネット動画配信サービスの成長を読み切れず、ネットフリックスの台頭を許したという反省があったのだろうか。自社グループの配信サービス「Disney+」「Hulu(フールー)」「ESPN+」へのコンテンツ提供を積極的に行うようになっている。同様な対ネットフリックス戦略が、ディズニーが本来強みを持つコンテンツ制作の領域で必要になるかもしれない。

 いずれにしてもネットフリックスは目が離せない企業である。これまで同社は企業価値の向上を、バリューチェーンの川下である動画配信サービスの強化を通して実現してきた。今後は企画・制作といったバリューチェーンの川上を押さえ、川上から川下まで垂直統合することによって一段と高めていくことになるだろう。

参考情報)

[1] 『About Netflix』(Netflix)

[2] 『【電子産業史】1996年:DVDの開発』(日経BP)

[3] 『Q2 Results and Q3 Forecast』(Netflix、July 17, 2019)

泉田良輔 (いずみだ りょうすけ)
 テクノロジーアナリスト/GFリサーチ 代表。個人投資家のための金融経済メディアLongine(ロンジン)編集長、および株1(カブワン)LIMO(リーモ)の監修も務める。それ以前はフィデリティ投信・調査部にて日本のテクノロジーセクターの証券アナリスト、日本生命・国際投資部では外国株式運用のファンドマネジャーとして従事。慶応義塾大学大学院卒。著書に『銀行はこれからどうなるのか』『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』。東京工業大学大学院非常勤講師。産業技術大学院大学講師。
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キーワード:経営、企画、技術、製造、経営層、営業、管理職、プレーヤー、経営、イノベーション、国際情勢

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