水素エネルギー社会の実装とグローバル連携

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■企業講演 再エネ水素の建物・街区での利活用にむけて

再エネ水素で「ZEBまちづくり」

清水建設 専務執行役員 技術研究所長 技術戦略室長 石川 裕 氏

 建物のエネルギー消費をゼロにするゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)実現に向け、創エネ・蓄電池を統合制御するエネルギー最適制御に取り組んできた。最近では再エネ余剰電力をCO2フリー水素に換えて貯蔵する技術が検討されている。長期間・大規模貯蔵では蓄電池より優位になる可能性がある。

 建物での水素利用研究を産業技術総合研究所と共同で16年から始めた。産総研が研究を進めていた水素吸蔵合金を建物での水素利用に拡張。消防法危険物に該当しない合金、それを内蔵した水素貯蔵タンクも新たに開発し、建物近傍で安全かつコンパクトに水素の貯蔵・利用が可能となった。エネルギー最適制御により再エネ水素を利用するシステム全体効率65%を達成し、昨年度のコージェネ大賞技術開発部門理事長賞を受賞した。

 今年7月には郡山市総合地方卸売市場でのエネルギーマネジメントシステムを構築し実証を開始した。システムの安定した運転性能を検証するとともに、CO2削減量や維持管理費の定量評価を行う。

 当社が掲げる長期ビジョン「SHIMZ VISION 2030」具現化に向けて、エネルギーの需要サイドから供給サイドまでの各事業を「脱炭素バリューチェーン」の枠組みで捉えて、再エネ水素を利用したサステナブルでレジリエントな「ZEBまちづくり」の実現を目指す。

■企業講演 FCVの開発と初期市場の創出 ~水素社会を目指して~

50年度CO2排出9割減へ

トヨタ自動車 先進技術開発カンパニー 先進技術統括部 担当部長 河合 大洋 氏

 3年半前に発表した「環境チャレンジ2050」では、50年度に販売する新車のCO2排出量を10年度比で90%削減、30年度に電動車(HV、PHV、EV、FCV)販売比率50%以上の目標を掲げた。現在ハイブリッド自動車(HV)の普及は予想以上に進行。走行中ゼロエミッションが特徴のバッテリーEVとFCVも開発が進む。将来は短距離移動用はバッテリーEV、長距離移動用はFCVと共存する形になるだろう。

 当社のFCV開発は、27年前にスタートし、14年にはMIRAIの販売を開始した。CO2排出ゼロでガソリン車並みの航続距離、水素充填も3分程度という使い勝手の良さが特徴になる。発電能力を有し、非常時には電気を車から供給できる。昨年の北海道地震の停電の際には、札幌市役所所有のMIRAIが携帯電話充電サービスを行った。コストは大きな課題だが、本格普及に向けた大幅減を目指す。FCバスSORAは、来年の夏までには100台以上が走っている状況にしたい。

 水素STは各国で整備が進んでいる。昨年にはオールジャパンの水素ST整備運営会社JHyMも設立された。重要なのは業界の壁を越えた仲間づくりだ。例えば、JR東日本とはFCの車両開発や駅構内での水素利用、地方の低炭素のまちづくりに取り組んでいる。

 今後は自動車業界内だけでなく、多様な企業との連携や消費者の理解と支援が重要だと考える。

■パネルディスカッション 水素エネルギー社会の実装とグローバル連携

●パネリスト

経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギーシステム課長/水素・燃料電池戦略室長 白井 俊行 氏

東京都環境局 次世代エネルギー推進担当部長 山田 利朗 氏

宮崎 淳 氏

大田 裕之 氏

原田 英一 氏

河合 大洋 氏

●コーディネーター

東京理科大学大学院 経営学研究科 教授 橘川 武郎 氏

低コスト、規制改革不可欠 白井 氏
子どもたちへの啓発が大事 山田 氏
水素インフラの整備に注力 宮崎 氏
余剰再エネと水素の共存を 大田 氏

水素技術への理解広げ 連携して新ビジネスを

 白井 環境とエネルギーセキュリティーを共に解決し、産業競争力強化にも資する水素は、世界のエネルギー施策を一変させる究極のエネルギーになり得る。政府は17年に水素基本戦略、今年3月には水素・燃料電池戦略ロードマップを策定。例えば25年にはFCVとHVの価格差を現状の300万円から70万円に下げるなど具体的数値目標を定めた。目標達成に向けて規制改革、技術開発を推進する。グローバル連携では昨年、第1回水素閣僚会議を開催。21カ国・地域・機関の代表が集まり、今後の水素普及に向け東京宣言をまとめた。G20のエネルギー大臣会合でも水素の重要性が議題になり、各国の注目を集めた。

 山田 東京都では水素STを固定式、移動式も含め14カ所設置。来年度には7カ所の整備計画が進んでいる。整備費への補助制度も設けた。例えば整備費を5億円と想定し、国の補助2.5億円のほかに都が1.5億円上乗せする。事業者はガソリンスタンドと同程度の1億円で整備できる。FCバスの購入費補助もある。FCバスは20年までに最大70台導入予定だ。家庭用FC普及にも力を入れ、整備の機器費用の5分の1の補助を行っている。再エネ、CO2フリー水素の活用では産総研・福島再生可能エネルギー研究所からCO2フリー水素を都内に運搬してイベントで使用。五輪選手村のエリアでは、大会期間に水素関連施設を先行稼働させる予定だ。

 橘川 水素社会の実装へ向けた最大のポイントは何か。

 河合 FCシステムの低コスト化と仲間づくりが重要だ。

 原田 安価で大量のCO2フリー水素供給も急務だ。

 大田 再エネが主力電源化して量が増えるとエネルギーのポートフォリオを大きく変える必要が出てくる。CO2も高価値の物質や新サービスを生む可能性がある。

 宮崎 水素インフラの整備に注力していく。水素社会実現にはコスト削減、安全性確立、啓発が重要になる。

 山田 都民の理解を得ることが大事。市場形成前のインフラ整備先行も必要だ。

 白井 実装に向けてはコスト、規制、インフラ整備、技術が課題になる。

 橘川 国際連携と仲間づくりについて聞きたい。

 河合 車の水素の安全を含めた日米欧共通の認証、水素充填のノズルの国際標準化も目指す。基礎研究では他社や研究機関との連携も行っている。

 大田 水素市場はまだ初期段階。早期にチャンスをつかむためにグローバル連携は必然だ。FCの技術提携は中国からの申し出が多い。水素エネルギー供給システムなどはフィリピン、インドネシアも興味を持っている。日本の技術の高さはビジネスの優位性でもある。

 原田 CO2を固定して地下に埋める計画を、オーストラリアの国民および政府は将来の経済のために推進すべきだと言ってくれた。既存ビジネスと脱炭素を目指す新ビジネスをつなぐことも重要だ。

 宮崎 東欧をはじめ海外からの新ビジネスの相談が増えており、様々な可能性を広げていきたい。

 山田 自治体の国際連携では温暖化への各都市の危機感が連携の誘因の一つだ。

大量需要の創出で好循環を 原田 氏
国際連携、仲間づくり大事 河合 氏
コスト面では水素発電が鍵 橘川 氏

社会実装で需要拡大 コスト減への道開く

 橘川 水素ロードマップではコストの目標が示された。

 白井 低コスト化の実現と規制改革が課題だ。水素の調達先も議論になる。例えば低コストでの水素製造が期待できる中東等から輸送した場合のコストなど、各国と連携し分析したい。

 原田 エネルギーは大量に生産、輸送して使うと安くなり、安くなければ大量の需要が生まれない。30年代に国の目標の水素量30万トンという需要をつくれるかが鍵になるだろう。

 河合 需要に先行して社会実装していくことも大事だ。

 大田 コスト削減には技術とマスプロダクションが大事。市場の好循環をどう生むか。中国は技術より資金力で好循環を作る戦略だ。

 宮崎 FCVは100万台を超えればコスト減の基盤ができる。ロードマップの設備費5割減も、技術開発や海外連携で不可能ではない。

 橘川 コスト面では水素発電というフェーズ2が鍵になる。水素社会実装の最大の課題だ。ここが動き出すと劇的なコスト減の可能性がある。

 山田 FCV普及は消費者にとって偏りのない水素STの設置が必要だ。

 橘川 CO2フリー水素の入手、需要はどう考えるか。

 大田 国内の余剰再エネと輸入水素のエネルギーミックスがいいだろう。

 原田 オーストラリアでは、安価な再エネを使う水電解水素も、将来的には可能性がある。

 宮崎 余剰の再エネ分を地産地消で使える仕組みを自治体と連携してつくること。

 橘川 米カリフォルニア州のTri―Genはエネルギー利用効率が良いのか。

 河合 当社が協力するプロジェクトだが、バイオ燃料で水素・電力を生み90%以上の高効率で使い切れる。原料の下水汚泥は大都市に大量にある。

 橘川 国民の不安感をどうするべきか。

 山田 不安を取り除くため水素情報館「東京スイソミル」をつくった。子ども・若者への啓発が大事だ。固定観念の払拭には体験が一番だ。

 白井 「こども霞が関見学デー」では、FCゴーカート体験などで水素・FCを啓発している。水素閣僚会議では安全性確保、事故情報共有などの国際連携を話し合った。

 宮崎 水素STの安全対策をもっと発信したい。

 橘川 情報発信は基本。トラブル事例も発信すべきでは。

 河合 水素はガソリンと同じで使い方を間違えれば燃える。100%安全ではないが理解が大事。今までの水素の事故の多くが人為的ミスなのでルール順守が大事になる。

 大田 安全と安心は別物。安心してもらうには生活の中に浸透し、何も起こらないのが普通になる必要がある。地道な取り組みが求められる。

 白井 水素・FCへの関心は世界的に高まっている。一過性にせず盛り上げたい。

 山田 次世代にバトンを渡すためには水素の利活用、CO2フリー水素は必要不可欠。

 宮崎 25年の大阪・関西万博で水素エネルギー社会の到来を示したい。

 大田 未来の水素社会のため、技術開発を推進していく。

 原田 水素は必ず未来を開く。全力で取り込む。

 河合 水素社会を次世代につなぐために貢献したい。

 橘川 課題解決の鍵は水素だと感じる議論になった。

主催:日本経済新聞社

後援:経済産業省 東京都 神戸市 川崎市

一般社団法人スマートシティ・インスティテュート入会のご案内(先行予約)

 人口減少・超高齢化に伴う社会課題が深刻化するなか、Society5.0 の実現を目指したデジタル・スマートシティの実証事業などが全国各地で本格化し、その前提となる行政手続きの電子化でも先般、デジタル手続法が成立しました。こうしたなか、三菱UFJ リサーチ& コンサルティング(MURC)と日本経済新聞社は、日本のスマートシティの拡大と高度化に貢献することを目的に「一般社団法人スマートシティ・インスティテュート(Smart City Institute Japan)」を設立します。

 本法人は、(1)世界の先進的なスマートシティに関する最新情報や推進ノウハウの収集・分析・共有(2)スマートシティの構築・高度化に著しい貢献のあった自治体、企業等の表彰などを実施。海外都市や大学・調査研究機関と連携し、情報の深さと品質の高さを確保しながら、会員間の知識の共有やメリットの提供を可能にするほか、企業と自治体、企業間の情報交換やネットワーキングの場を提供します。学生向けコンテストなど、新たな人材育成も図る予定です。

法人概要

名称:一般社団法人スマートシティ・インスティテュート
主たる事務所:東京都港区虎ノ門5-11-2(MURC 本社内)
設立時期:2019 年10 月(予定)
役員等:代表理事・柳川 範之(東京大学大学院 経済学研究科教授)
理事・南雲 岳彦(MURC 常務執行役員)
理事・平田 喜裕(日本経済新聞社 専務取締役)
エグゼクティブ・アドバイザー:
村林 聡(MURC 代表取締役社長)
中村 彰二朗(オープンガバメント・コンソーシアム 代表理事)
村上 周三(建築環境・省エネルギー機構 理事長/東京大学 名誉教授)
柏木 孝夫(東京工業大学 特命教授・名誉教授)
橘川 武郎(東京理科大学大学院 経営学研究科 教授)
Daniel A. Levine(世界銀行シンガポール事務所 シニアカントリーオフィサー)
安岡 美佳(北欧研究所 代表)

主な事業内容(予定)

リサーチ事業:世界の先進的なスマートシティについて調査・分析を行い、最新情報や推進ノウハウなどを調査リポートとして発信します。

研修事業:上記の調査結果や内外の大学・調査機関などとの連携を活用して、スマートシティに関するセミナー・シンポジウムを開催します。また、海外の先進的なスマートシティを訪問するミッションツアーを実施します。

アワード事業:国内外のスマートシティについての分析・評価を行い、優れた事例や団体などを表彰します。

学生向けリサーチ・チャレンジ事業:スマートシティに関する学生向けコンテストを実施いたします。

入会(先行予約)のお申し込みや本件に関するお問い合わせ先

■ 三菱UFJ リサーチ&コンサルティング スマートシティ・インスティテュート設立準備事務局
E-mail:digital-society@murc.jp

■ 日本経済新聞社 お問い合わせフォーム https://esf.nikkei.co.jp/sci2019/

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