水素エネルギー社会の実装とグローバル連携

安定的供給網 構築へ

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 経済成長と両立したエネルギー転換、脱炭素化への動きが急だ。この潮流を捉えて世界をリードしていくには、日本がフロントランナーである水素技術の活用が鍵となる。水素エネルギーを広く社会に組み込んで課題を解決する未来。その実現に向けてグローバルな連携が進んでいる。7月24日、日経ホールで開催された日経社会イノベーションフォーラム「水素エネルギー社会の実装とグローバル連携」で交わされた、産学官キープレーヤーの議論を採録する。

■来賓挨拶

各国との連携が不可欠

経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部長 松山 泰浩 氏

 社会の持続的な発展と脱炭素化を実現するには、水素エネルギーの活用が大きな鍵となる。日本は既に40年以上、産学官一体となって水素や燃料電池(FC)の研究・開発を進めており、世界をリードする高い技術を持っている。政府は一昨年、国として世界初の水素基本戦略を策定。2050年までにグローバルな水素社会を実現する目標を掲げる。今年3月には、コストや技術について数値目標を設定するアクションプランも策定した。

 水素戦略の推進にはグローバル連携が極めて重要だ。資源エネルギー庁ではオーストラリアの褐炭やブルネイ産天然ガスで製造する水素を日本に輸送する実験を進めており、各国の注目を集めている。昨年10月には21の国・地域と国際機関が参加する世界初の水素閣僚会議を開催し、東京宣言を取りまとめた。6月の20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)の際、水素は一大テーマだった。この波を止めることなく、取り組みを進めていく。

■基調講演 水素社会の実装とSDGsの達成

都市輸出が日本の成長の要

東京工業大学 特命教授・名誉教授 柏木 孝夫 氏

 現在多くの国が脱炭素化と電力化社会の構築を目標として掲げており、我が国も昨年7月に策定したエネルギー基本計画で明確に再生可能エネルギーの主力電源化をうたっている。この流れを貫くキーワードの一つが「持続可能な開発目標(SDGs)」。国々が衡平性を保ちながら持続可能な社会を築くことが急務だ。SDGsの達成を促す手法の一つ、環境・社会・企業統治に配慮するESG投資は、欧米では現状で約3千兆円、日本は50兆円程度でしかない。今後ESG投資が、SDGs達成に貢献する技術開発を能動的に支援していくと期待したい。

 経済産業省に水素・燃料電池戦略協議会が設置されて5年余。今年3月に同協議会で作成したロードマップでは、(1)国際的なサプライチェーンの開発(2)国内の再エネ由来水素の利用拡大(3)電力分野での利用(4)モビリティー分野での利用(5)産業プロセス・熱利用での水素活用(6)燃料電池技術の活用――を目標に設定した。特に(6)では20年までに家庭用FC「エネファーム」の市場自立化と、30年までの530万台普及を目指す。エネファームなどと再エネとのセットアップによってスマートハウスやスマートビル、スマートコミュニティーが実現。分散型の発電システムや、地産地消型の新しいエネルギーシステムが構築される。それが日本の成長戦略と地方創生につながり、世界に対する都市輸出として発展すれば、日本の成長産業の要になると考えている。

■挨拶

環境先進都市東京を目指す

東京都知事 小池 百合子 氏

 国際オリンピック委員会(IOC)が採択した行動計画「アジェンダ2020」は、持続可能性が最も大きなテーマだ。環境に配慮した大会にするため、東京都はホストシティ東京プロジェクト推進本部を立ち上げて水素エネルギー利用の推進や再生可能エネルギーの普及促進、暑さ対策に取り組んでいる。

 昨年の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の特別報告書では、気温上昇をリスクの低い1.5℃未満に抑えるために、50年頃までに二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロにすると記されている。これを受けて今年5月、都は「U20メイヤーズサミット」を開催し、50年のCO2排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」の実現を宣言。各国の自治体と連携して、脱炭素化に向けた高い目標値を掲げるようにイニシアチブをとり、G20に向けた提言を採択した。

 脱炭素化に有効な手段の一つが水素の活用だ。都は水素社会の実現を目指し、戦略目標を定めて積極的に取り組んでいる。都有地での水素ステーション(ST)の整備、ゼロエミッション自動車(ZEV)の普及などだ。FCを搭載した都営バスは現在15台が走行中だが、来年の大会時までに最大70台の導入を予定。さらに福島県などとCO2フリー水素の普及に向けた協定を締結し、国とも連携して大会時の活用を目指している。

 環境先進都市「スマートシティ東京」を目指し、水素活用で世界をリードしていきたい。

■自治体講演 水素社会の実現に向けた川崎水素戦略

臨海部を中心に水素戦略

川崎市長 福田 紀彦 氏

 川崎市の臨海部は、水素製造・燃料電池(FC)の関連企業や水素を活用する企業が多数集積するエリアだ。昨年3月には、30年後の未来を見据えた臨海部ビジョンを策定。水素エネルギー利用促進プロジェクトや低炭素型インダストリーエリア構築プロジェクトなど、10年以内に先導的に取り組む13のプロジェクトを進めている。

 2015年3月に策定した川崎水素戦略では、水素供給システムの構築、多分野にわたる水素利用の拡大、社会認知度向上を基本戦略として、産学官連携による様々なリーディングプロジェクトを実施している。具体的には、ブルネイで調達した水素をコンテナで海上輸送し、川崎臨海部で発電・利用する水素サプライチェーン構築モデル事業を来年1月から開始。臨海部の港湾施設・川崎マリエンでは、自立型水素エネルギー供給システムの実証実験を15年から実施している。また、使用済みプラスチックから水素を製造してパイプラインで輸送、大型純水素FCを活用してエネルギー利用する地産地消モデル実証実験も実施。CO2フリー水素をFCフォークリフトに供給する実証プロジェクトにも取り組む。21年開始を目指して、FCで走る鉄道車両の実用化モデル運用試験を市内で行う予定だ。

 情報共有と協議の場として川崎臨海部水素ネットワーク協議会を設置しており、多様な主体と連携し、水素社会の実現へ向けて取り組んでいる。

■企業講演 JXTGエネルギーの水素社会実現への取り組み

水素ST整備で活用広げる

JXTGエネルギー 水素事業推進部長 塩田 智夫 氏

 当社は水素エネルギーの活用分野として水素ST事業に注力している。燃料電池自動車(FCV)に不可欠な水素STの数は、今年7月現在全国に109カ所で、当社のシェアは国内最大の38%。特にガソリンスタンド一体型の水素STは、当社の全国1万3千カ所以上のサービスステーションネットワークを活用でき、最もお客様の利便性が高いので、今後も重点的に整備する。そのために水素供給設備の小型化と、それに必要な環境整備に取り組んでいる。

 水素STの普及では、建設・運営のコスト削減、戦略的なインフラ整備が課題だ。当社を含む水素事業関連企業23社は昨年2月、日本水素ステーションネットワーク(JHyM)を設立。FCVの普及と水素STの戦略的配置に努めている。

 さらに当社は昨年10月から国内では初の水素のセルフ充填を開始した。他にも安全に水素を使いこなす情報の発信・啓発を積極的に行い、国際的な活動団体である水素協議会にも参画して国際連携を図っている。また、東京都が進める晴海「選手村地区エネルギー事業」の事業者として、水素STの設置・運営も担う。今年3月には当社を含む4社の共同プロジェクトで、CO2フリー水素を低コストで製造する技術検証にも成功した。

 水素が世界のエネルギーの選択肢の一つとしてしっかりと位置づけられるよう、当社は様々な可能性を開拓していく。

■企業講演 再エネ導入を促進する水素ソリューション

再エネの主力電源化を実現

東芝エネルギーシステムズ 水素エネルギー事業統括部長 大田 裕之 氏

 水素の特徴は、年間を通じて安定供給できるエネルギー貯蔵能力と、余剰再エネを多目的利用できるエネルギー転換機能を持つ点だ。これらの機能を組み合わせることで、再エネの主力電源化の課題である「系統安定」「再エネ電力抑制の増大」を解決でき、ビジネス機会が生まれる。当社は水素の貯蔵による分散電源化と水素サプライチェーンの構築という2つの側面から、水素を多目的に活用できるソリューションを提供している。

 自立型水素エネルギー供給システム「H2One」は、自立的・長期的にエネルギーを安定供給する水素電力貯蔵と蓄電池のハイブリッドシステムだ。水素の活用で再エネだけで電力需要を賄うこともでき、自治体の建築物や駅のホーム、ホテルなど10カ所以上で導入されている。また、新しい「H2Oneマルチステーション」は、電力供給に加え、FCVやバス向けに水素充填も可能だ。

 水素サプライチェーン「Power to Gas」は、電力を水素に転換して再エネを最大限導入できる技術だ。来年には福島県で世界最大規模の水素エネルギーシステムの実証運用を予定しており、実用化すれば電力取引、抑制電力マイニング、水素製造の新たなエネルギー事業の可能性が生まれるだろう。再エネを用いてCO2を価値の高い化学品に転換して有効活用する「Power to Chemicals」も実用化に向けて開発を進めている。

■自治体講演 水素スマートシティ神戸構想の推進

神戸の水素産業育成を支援

神戸市長 久元 喜造 氏

 神戸市のエネルギー政策は、再生可能エネルギーを重視しつつエネルギー源を多様化している。地理的条件を生かして、小水力発電や下水の汚泥を使ったバイオガス、ガスを用いたエコ発電、クリーンセンターのごみ焼却熱を活用した発電などを実施している。

 水素については、現在2つの先駆的な取り組みを官民連携で進めている。1つ目は水素サプライチェーン構築実証事業で、オーストラリアの未利用褐炭を用いて水素を製造、液化して、輸送・荷揚げ・貯蔵までを一体とする供給網を目指す。市が液化水素受け入れのためのフィールド支援や公共岸壁の整備を行う。2つ目は水素エネルギー利用システム開発実証事業だ。水素と天然ガスを燃料とする1メガワット級ガスタービン発電設備で、病院など市街地の公共施設に電気と熱を供給するもので、昨年4月には水素燃料100%での熱電供給に成功した。

 神戸には戦前から息づくものづくり企業の集積がある。成長が見込まれる戦略産業として水素産業を育成するべく、勉強会の運営支援や試作品の開発支援、技術者の育成支援を行うほか、今年度から独自の助成制度も実施していく。国際シンポジウムの開催や国際会議への参加、再エネに先進的に取り組む海外都市との交流も積極的に行う。

 震災を経験した都市として、何よりも安全性を全ての前提に置いて水素スマートシティ構想に取り組んでいきたい。

■企業講演 水素社会実現に向けたイワタニの取り組み

安全・安定の供給体制に尽力

岩谷産業 中央研究所長 宮崎 淳 氏

 当社の水素事業は1941年から始まり、外販用水素の国内供給シェアは現在約70%。その半分以上を大量供給・大量輸送・大量貯蔵が可能な液化水素で供給しており、全国3カ所の液化水素プラントと10カ所の圧縮水素ガスプラントで全国広範囲にカバーしている。

 当社は国内に27カ所の水素STを展開、2020年度末には53カ所を目指す。東京・有明では、画期的な液化水素ポンプ昇圧型水素STを稼働した。ポンプで加圧して大流量の水素を供給することでFCバスへの充填が約8分で完了する。岡山南のパッケージ型水素STは主要機器を1つのコンテナに収納し、敷地面積の低減と設備コストの削減が特徴だ。コンテナを車に搭載する移動式水素STもあり、自治体などで活用されている。

 水素関連の様々な技術開発にも取り組んでいる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業で開発した簡易水素品質分析装置や水素流量マスターメーターは、簡便かつ低コストでの分析と測定を可能にした。また、水素を医療・健康分野にも応用するべく、山口大学と共同で水素炭酸水の効能評価や輸液への水素溶解技術の開発も進めている。さらに環境省の地域連携・低炭素水素技術実証事業やNEDOの褐炭由来水素サプライチェーン構築のプロジェクトに携わるなど、地域や企業と連携して安全・安定的に水素を全国に供給する体制作りに尽力している。

■企業講演 国際水素サプライチェーンの実現に向けた取り組み

液化水素で長距離大量輸送を

川崎重工業 執行役員 技術開発本部 副本部長 兼 HySTRA理事長 原田 英一 氏

 脱炭素化を目指す動きは世界で加速している。国内でも50年以降の早期にゼロエミッション社会の実現を目指す目標が示された。そのためには再エネと水素の活用は不可欠だ。民間組織ハイドロジェン・カウンシルには世界から60社が参加し、水素をエネルギーとして導入するための提言を行っている。

 当社では、オーストラリアで褐炭から水素を製造し、高度な技術で液化水素にして日本に輸送するプロジェクトを進めている。液化水素は気体の約800分の1の体積になり、液化天然ガス(LNG)とほぼ同等の長期貯蔵が可能だ。高純度で、FCV用燃料としてもそのまま使用できる。毒性もなく無臭、温室効果がないクリーンな燃料だ。

 褐炭は若い石炭で水分が多く、現地の発電にしか利用できない安価な資源。褐炭による水素製造は最も経済的な方法の一つと言われている。当社は日本の総発電量の240年分に相当する褐炭が眠るラトロブバレー地域で水素を製造。褐炭から出たCO2を海底の地下に埋めるプロジェクトも進行中だ。来年にはオーストラリアでガス化した水素を日本へ移送する実証を開始し、30年代には商用チェーンとして実用化を目指す。

 液化水素の積荷基地建設、運搬船建造も始まり、船舶用液化水素タンクは播磨工場で9割完成している。安価でCO2フリーなエネルギーの普及は関連産業の成長にもつながると考えている。

主催:日本経済新聞社

後援:経済産業省 東京都 神戸市 川崎市

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。