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「コンコルド効果」が教える終戦が8月15日の理由

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「サンクコスト」が終戦の決断を遅らせる

 経済史学の牧野邦昭・摂南大准教授は「さらに戦況が悪化するにつれて『コンコルド効果』が働いた」とみる。コンコルド効果とは、回収不能になった投資費用(サンクコスト)を惜しみ、それ以上の投資が投資をしつづけることが損失につながると分かっているにも関わらず、投資がやめられないことを指すという。

 牧野氏は「企業でビッグプロジェクトが立ち上がり、途中で採算が合わない経済情勢になっても社内的にストップ出来ないようなケース」と説明する。典型例が1960年代に英仏共同で開発に着手した超音速旅客機「コンコルド」だ。開発過程で滑走路、航路、乗員数、燃費などの問題が出てきた。プロジェクトを中止し、違約金や賠償金を払った方が安く済んだにも関わらず、完成までやめることができなかった。結局「コンコルド」プロジェクトは数兆円の損失が出たという。

 継戦能力の喪失を承知していた日本軍のリーダーや、内閣や重臣のメンバーも「ここで戦争をやめては戦死者に顔向けできない」という考えから、コンコルド効果のワナにはまっていたといえるだろう。7月末のポツダム宣言を即座に受諾していれば、2度の原爆投下とソ連(現ロシア)参戦は防げたかもしれない。

 牧野氏は終戦を決めた8月10、14日の2度の御前会議にも「社会心理学の『集団極化』が作用したかもしれない」と推測する。集団意思決定で、構成員の平均より極端な方向に意見が偏る決定が起きやすい状態が集団極化だ。御前会議で原爆投下やソ連参戦などの強いショックを受けて慎重派が多くなれば、全体の結論はより慎重に傾く。だからこそ、昭和天皇の「聖断」が、よりすんなりと受け入れられたのかもしれない。その後も懸念されたクーデターは未遂に終わり、その後は日本軍の武装解除も抵抗なくスムーズに進んだ。牧野氏は「集団意思決定だからこそ、ドイツのように独裁者の死まで戦争が続くことがなく、無謀な本土決戦は避けられたのだろう」と説く。

 コンコルド効果は、現代の企業社会でもまま見られる。これを防ぐには(1)ゼロベースで考える(2)限界費用を設定する――などが有効とされる。しかし牧野氏は「経営トップはあれこれ対策を考えるよりも、コンコルド効果が人間の自然な感覚の中にあることを常に自覚しておくことが重要だ」と指摘する。役員会議で皆が合理的な判断を下したと自信を持っていても、ひょっとすると社会心理学や行動経済学が示す落とし穴にはまり込んでいるかもしれない。

(松本 治人)

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