SDGs入門

SDGsが目指す「持続可能な開発」はどう実現するのか 日本総合研究所 村上芽、渡辺珠子

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立場を変えて問題を見てみる

 以上のような例を見ていくと、持続可能な開発を実現しようとすると、1つの立場からだけ物事を見ていてはダメだということが分かります。逆に、短期的―長期的という時間軸を変えてみることや、消費者―生産者、経営者―従業員などのように関係性を変えてみることでも、持続可能な開発に近づくことができるでしょう。その時、必ず考えに入れなくてはいけないのが「環境」です。大気、水、土壌、森林、生き物は、声を上げるわけではないがゆえにより注意して影響を考えなくてはなりません。

 ところで「ブルントラント」という委員会の名前と持続可能な開発と何の関係があるかというと、人名なのです。1984年に国連に設置された「環境と開発に関する世界委員会」の委員長がノルウェーのブルントラントさんという人でした。ブルントラントさんはのちにノルウェーの首相になる女性の、医師かつ政治家です。

 SDGsで目標5が「ジェンダー平等を実現しよう」となっているように、ジェンダー(社会的な男女の性の区別)の平等は、いまだに解消されていない人間社会の課題の一つです。持続可能な開発という言葉の由来に、女性が関わっているというのは覚えておきたいことです。なお、ブルントラントさんは1939年生まれ、世界保健機関(WHO)の事務局長なども歴任し、国連創設70年の記念式典でのスピーチも目を通す価値のある内容です(※18)。

※18 国際連合広報センター「国連創設70周年」ウェブサイトより。出所:http://www.unic.or.jp/activities/international_observances/un70/un_chronicle/brundtland/

SDGsは「自分ごと」として捉える

 SDGs達成に向けて、企業の役割が大きいとしても、誰が責任を持つのか? というと、それは個々の企業に問われるわけではありません。社会の代表として責任を持って進めるべきなのは国連と政府ということになります。実際、SDGsの中には、政府部門が行動しない限り到底達成しえないものも多く含まれています。

 しかし、「国連がやるものだ」と思ってしまってはいけません。企業が社会や環境に与える影響が大きいからこそ、企業を巻き込んだ目標になったのがSDGsです。もし、2030年になっても一向にSDGs達成に近づいていないことがあれば、厳しい規制を導入するなどして、問題解決を強制力をもってやらないといけない、ということになるかもしれません。規制や、それに伴う法令順守コストの増加は、企業にとって喜ばしいことではないでしょう。

 そこで大切なのが、「SDGsを国連のやっていることと捉えず、自分ごと(自社ごと)にする」ということです。

 自分ごと(自社ごと)にする進め方に入る前に、日本の企業や政府のこれまでの動きを見ておきます。

 まず、日本経済団体連合会(経団連)は、2017年11月、企業行動憲章を改定しました。企業行動憲章は、「民主導による豊かで活力ある社会を実現するためには、企業が高い倫理観と責任感を持って行動することが必要(※19)」という考えのもとで1991年に最初に制定されました。会員企業にとっては、一定の指針となる存在です。5回目となった2017年の改定では、「Society 5.0(※20)の実現を通じたSDGs(持続可能な開発目標)の達成」という表現を添え、民間セクターとしてのイノベーション創出を促しています。

※19 日本経済団体連合会 2017年11月18日お知らせ「企業行動憲章の改定について」より抜粋。出所:http://www.keidanren.or.jp/announce/2017/1108.html

※20 Society 5.0とは、内閣府「総合科学技術・イノベーション会議」により「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」と定義されています。これは、日本政府の「第5期科学技術基本計画」(2016年1月22日閣議決定)で、目指すべき未来社会の姿として提唱されました。出所:https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html

 具体的にSDGsが意識された改定は図表6の通りで、人権尊重や働き方改革、サプライチェーンを通じた行動の展開といった内容が含まれています。これらは、SDGsの登場有無にかかわらず、グローバルに事業を行う日本企業に対して近年社会からの要請が高まっていた側面と重なります(※21)。

※21 例えば国連による「ビジネスと人権指導原則」は2010年に採択されています。

「ジャパンSDGsアワード」で進む企業の取り組み

 企業だけではなく、自治体や様々な団体におけるSDGsの取り組みを推進するために、外務省の「ジャパンSDGsアクションプラットフォーム」では、「ジャパンSDGsアワード」という賞を設けました。第1回(2017年)、第2回(2018年)の受賞団体は図表7の通りです(※22)。

※22 外務省「ジャパンSDGsアワード」ウェブサイトより。出所:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/award/index.html

 どちらかというと、初期の受賞団体ほど、SDGsの登場以前からサステナビリティに対して特徴的な取り組みを展開していて、それをSDGsとともにうまく後押ししている団体が多いように思われますが、徐々に、SDGsの採択をきっかけにした新たな取り組みが目立つようになるでしょう。

 なお日本政府における司令塔は、首相官邸の「SDGs推進本部」です。日本政府は、SDGsに基づく8つの優先課題を抽出しており、図表8の通りです(※23)。SDGsというとどうしても途上国色が強いと感じてしまう場合には、これらの8つが記載されている「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」が参考になります。

※23 首相官邸 持続可能な開発目標(SDGs)推進本部「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」。出所:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/dai2/siryou1.pdf

 政府では、年度単位の「SDGsアクションプラン(※24)」を定めています。アクションプランではさらに絞り込まれた「中核となる3本柱」が定められています(図表9)。詳しいアクションプランでは、ゴールごとに関連しうる政策が一覧化されており、おおよそ網羅的に国内の関連施策や予算がまとめられています。網羅的な内容であるため、一見すると「なんだ、何でもSDGsか」という印象を受けてしまうかもしれませんが、そもそも政府が公共の利益のために必要な事業を行っていることを鑑みれば、当たり前のこととも言えそうです。

※24 首相官邸 持続可能な開発目標(SDGs)推進本部「SDGsアクションプラン2019」など。出所:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/pdf/actionplan2019.pdf

(終わり)

村上 芽、渡辺 珠子 著 『SDGs入門(日経文庫)』(日本経済新聞出版社、2019年)、「第1章 まずはSDGsを理解しよう」から
村上 芽(むらかみ・めぐむ)
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャー。京都大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)を経て2003 年に日本総合研究所入社。ESG(環境、社会、ガバナンス)投資の支援や気候変動リスクと金融などが専門。
渡辺 珠子(わたなべ・たまこ)
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト。名古屋大学大学院 国際開発研究科修了。メーカー系シンクタンクを経て2008 年日本総合研究所入社。国内外の社会的企業、インパクト投資、スタートアップ支援が専門。

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キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営、営業、技術、製造、プレーヤー、経営、ESG、SDGs

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