SDGs入門

SDGsが目指す「持続可能な開発」はどう実現するのか 日本総合研究所 村上芽、渡辺珠子

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キーワードはサステナビリティ

 SDGsのSD、Sustainable Development(持続可能な開発)とは、急に今になって言われ始めた考え方ではありません。最初にこの言葉を使ったのは、1987年のブルントラント委員会が発表した報告書“Our Common Future”(我々共通の未来(※16))です。2015年にSDGsができた時点で、当時から28年が経っていました。

※16 国連資料のサイトに原文が掲載されています。出所:http://www.un-documents.net/wced-ocf.htm

 持続可能な開発とは、パッとは分かりにくい考え方ではないでしょうか。その最初の定義によると、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」を指します(※17)。

※17 日本語訳については外務省の用語を参照。出所:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/sogo/kaihatsu.html

 ざっくりと言うと「開発」とは、経済的に発展すること、すなわち、モノやサービスを中心とした暮らしが豊かになることです。電気や水道が通っていないよりも通っている方が、馬に乗るよりも電車やクルマで走る方が、病気になったら家で寝ているだけよりも病院や薬で治せる方が、開発されているということになります。普通、開発されていないより開発されている方がよいと考えます。ただし、どんな開発でもいいわけではない、「持続可能」でないとダメですよと言っているわけです。だから、カギになる考え方は持続可能性(サステナビリティ)です。

 持続可能性の定義で2回出てくる言葉、「欲求」とはニーズとも言い換えられます。よく、声の大きい人の意見ほど通りやすい(通ってしまう)と言いますが、何かを決めるときに「これをしたい、あれをしたい」というニーズを明確にできるほど、「じゃあそうしてみようか」という賛同者を得やすくなるのはよくあることです。

 現時点での大人世代と、子ども以下の世代を比較してみると、大人の方が明らかに意見を通しやすい社会になっています。例えば選挙で投票できる年齢が日本で20歳から18歳に引き下げられましたが、それでも18歳未満の世代は直接、投票で行動することはできません。こうなると、どうしても現在の世代のニーズ中心になんでも決まっていくことになります。

 「持続可能な」開発の場合は、現在の世代に対し、声の小さい将来の世代が欲しかったと思うこともよく検討して、「後のことも考えてお金・知恵・技術を使いましょう」と呼びかけていると言えます。

持続可能なパーム油とは何か

 例を考えてみましょう。パーム油という油があります。パーム油は、アブラヤシという熱帯で育つ植物の実から取れる油です。ヤシの実というと、ココナッツがお菓子などで身近ですが、アブラヤシは違う種類のヤシで、たくさんの油が取れることや加工しやすいという特徴があるため、非常に多くの食品や生活用品に使われています。使い道はマーガリン、パンやチョコレートなどの加工食品、洗剤、ろうそく、インク、化粧品などです。

 便利で、しかもアブラヤシは育ちが早くよく油が取れるので、生産する企業側もなるべく効率よく、大量に生産しようとします。アブラヤシの実は収穫してから24時間以内に加工しなければならないため、アブラヤシの育つすぐそばに加工工場を作らなくてはなりません。

 ここでよく問題になるのは、熱帯の森林をアブラヤシの農園(プランテーションと呼ばれる大規模な単一栽培の農園)に転用することから、絶滅の恐れのある生き物(オランウータンなど)の生息地を破壊してしまうことです。また、伝統的に森林周辺で生活していた人々の生活を奪う可能性や、農園や工場での労働環境が劣悪になりがちなことについてもしばしば批判されます。

 つまり、現在の主に産業界の利益や産地から見て外国にいる消費者の利便性が重視されすぎ、産地の人や動植物の利益が損なわれたり、将来の人間から見て「昔の人が勝手に森林を破壊しすぎた」という「後に生まれて損をした」状態が引き起こされたりする可能性が懸念されています。

世代間の公平を考える

 もう一例、町に1つだけある公園を想像してみましょう。最初にその公園ができたとき、近くに住んでいた子どもたちは大きくなって、やがてそこで遊ばなくなります。そして世代が変わるうちに、町にはだんだん子どもが少なくなっていき、逆に高齢者が増えていきます。ある時、公園をつぶし、跡地に高齢者用の集合住宅を作ろうという案が持ち上がったとします。

 さて、ここで、町では人数の少ない子どもたちや、今は公園で遊ぶことはないが、いずれ公園のある町に戻ってきて子育てをしたいと思っている人たちのために公園を残すべきでしょうか。あるいは、公園を所有している市役所は財政難なので、公園の土地を不動産開発事業者に売却するべきでしょうか。正解が1つだけあるとは限りません。

 ここで「持続可能な開発」の定義に照らし合わせてみると、「将来世代」はまずはこの公園周辺の子どもや、やがて生まれてくるであろう世代のことを指します。「現在の世代」とは、高齢者や、土地の売買に関与する市役所や不動産開発事業者などを指します。

 高齢者や、経済的利益の必要な立場の関係者のニーズを満たしつつ、公園をつぶさなくて済む方法がないかを、利害関係者(ステークホルダーとも言います)が熟考して得られた方法こそが、この町の公園に関する「持続可能な開発」であると考えられます。

 ここではおそらく、高齢者がより快適に生活するための手段として集合住宅以外の方法はないのか(例えば在宅での介護サービスを充実させる)、市の財政を改善するための方法が他にはないのか(長期戦にはなりますが、公園を魅力として町に子育て世代が戻ってくれば、社会保障費とのバランスはよくなる)が実現のためのポイントになると思われます。

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