BizGateリポート/経営

吉本だけか?「闇営業」生む組織の空気 元芸人の研究者分析 西武文理大学サービス経営学部講師 瀬沼文彰

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

空気を読むことで成り立つ吉本興業

 4つの空気の側面は、大学に限らず、日本社会の様々な場で、複雑に絡み合いながら、強制力や圧力として私たちの行動や言動を規制したり、絡め取ったりし、他者への忖度(そんたく)や配慮を生んでいるように思えてならない。

 高度に空気を読むことのできる芸人たちはなおさらだろう。会社や先輩に対し意見を言わない従順な芸人が仮に大多数であれば、それが空気となる。たとえ、従順ではない気持ちを持っている芸人がいたとしても、身動きが取れなくなる。また、若手芸人は先輩芸人に対して、礼儀正しく、批判をしないのが役割であるなら、空気が読めれば読めるほどそれに従うほかに道はない。

 権力問題に関しても、空気の読める芸人は、力の差がはっきりしている岡本昭彦社長のパワハラ発言に対し反発しにくいだろう。また、その後の、オール巨人さんや太平サブローさんが述べた、「若手芸人が会社に対して意見をしていることが問題」とする批判についても、若手芸人たちからすれば、大御所たちの意見には、萎縮し、文句はつけにくい。さらに、こうした環境が当たり前になってくると、若手芸人たちは、何か意見を思いつく前に、権力関係のなかで、不満を言語化することやそれを頭のなかで思い浮かべることでさえも摘み取られてしまう危険性がある。その体育会系のノリは、私も吉本にいる時代に強く感じていた。

 むろん、今回、問題となった闇営業も、パワハラ体質な面も、若手の安い給料や契約書が存在しないことも、コンプライアンスがはっきりしていれば問題にならなかったはずだ。問題なのは、こうしたことが明文化されず、芸人たちが空気を読むことで、成り立っていた点にある。

日本社会は空気至上主義?

 空気から生じる問題は、吉本興業だけに特徴的な問題なのだろうか。空気を重視せざるを得ない組織は、日本社会のなかに数多く存在するはずだ。現在は、風通しをよくしようとする動きも多方から出てきているものの、実際問題、上司に意見が言いにくい、若手は意見できない、上層部が意見を拾う機会やシステムがないという組織は多い。

 日本には、社宅や社員旅行に代表される公私混同ともいえる文化があった。また、年功序列で、終身雇用が一般的であった。吉本興業ではないが、それは、まさにファミリーである。しかし、今後、ますます外国人労働者を取り込んでいかなければならないことをふまえれば、グローバルスタンダードなコンプライアンスに従った組織作りは必須で、日本式な空気至上主義には限界が見えている。

 また、時代の流れが早く、刻々と変化していく社会のなかでは、誰もが積極的に発言し、様々な問題を解決していくことが求められている。その際、新入社員だろうが若手だろうが非正規雇用者だろうが、誰もが気軽に発言できることが大切になってくるはずだ。

 拾えた意見を採用するかどうかは別としても、意見が言えない環境では、若手は、意見を考えることにも消極的になってしまう。組織だけに限らず、政治の世界でも、学校でも、家族でも、意見が言えない環境は改善されていくべきだと思う。とはいえ、日本社会では、場を空気が支配していることがまだまだ多い。では、どのように、覆っている空気を打破すればいいのだろうか。また、いまある空気はどのように壊せばいいのだろうか。

 テレビで活躍する芸人たちは、トークのプロフェッショナルで、私たちの日常生活のコミュニケーションの見本と言っても過言ではない。バラエティー番組で、芸人たちは、空気の読み方を私たちに間接的に教えてくれている。だから、芸人たちが、空気の壊し方もテレビで披露してみてはどうだろうか。その壊し方は私たちにとって有用なはずで、自分の社内の空気を壊すヒントになるはずだ。その前に、まずは、吉本興業にとって良いとは思えない「空気」を笑いの力で壊して、前進してもらいたい。

※日経BizGateの記事を無料で定期的にお届けする会員登録をおすすめします。メルマガ、印刷ページ表示、記事クリッピングなどが利用できます。登録はこちらから
瀬沼文彰(せぬま・ふみあき) 西武文理大学サービス経営学部 専任講師
日本笑い学会理事、追手門学院大学 笑学研究所客員研究員。1999年から2002年まで、吉本興業にて漫才師としてタレント活動。専門分野は、コミュニケーション学、社会学。研究テーマは、笑い・ユーモア、キャラクター、若者のコミュニケーション。単著に、『キャラ論』(2007、スタジオセロ)、『笑いの教科書』(2008、春日出版)、『ユーモア力の時代』(2018、日本地域社会研究所)など。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。