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吉本だけか?「闇営業」生む組織の空気 元芸人の研究者分析 西武文理大学サービス経営学部講師 瀬沼文彰

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 吉本興業の問題が世間を騒がせてからすでに1ヶ月以上が経過した。私自身、吉本興業に3年半所属していた経験があるため、今回の一連の報道は興味深い。「反社会勢力との関わりは絶対にだめ」「数百円しかもらえない若手芸人の直の営業は、事務所が反社かどうかチェックの上許可すべき」などといくつかのメディアで論じてきたが、ここでは、私自身の専門のコミュニケーション学の視点から、吉本興業の問題点について論じることにする。特に、今回は、一連の報道から見えてきた吉本興業の組織内部の「空気」について掘り下げてみたい。なぜなら、今回の問題を「空気」という観点から考察することで、吉本興業の問題点がより明確になると思えたからである。

 芸人たちは、空気を読むプロフェッショナルである。それは、バラエティー番組やお笑いライブを見ていれば誰の目にも明らかだろう。大企業とは思えぬ一面を持っていた吉本興業だが、空気を読むプロである芸人が巧みに社内の空気を読み行動していたから、これまでうまくいっていたのではないだろうか。

空気に4つの側面

 まずは、空気とは何かについて考えてみることから始めてみよう。私たちは、職場でも日常生活でも当たり前のように、空気ということばを口にするし、空気を意識することもある。しかし、立ち止まって考えてみると空気の正体はいつもはっきりしない。

 評論家の山本七平さんは、1970年に刊行された『空気の研究』のなかで、空気を「非常に強固でほぼ絶対的な支配力をもつ『判断基準』であり、それに抵抗する者を異端として、(-中略-)社会的に葬るほどの力をもつ超能力」だと定義した。むろん、半世紀たった現代社会でも、彼の空気論は古びていない。

 私は、若者たちのコミュニケーションの研究を行っている。KYということばが流行語として登場した約10年前に、大学生を調査対象に「空気とは何か」についてフィールドワークをしたことがある。

 拾えた多種多様な回答をもとに、私は、空気には、4つの側面があると考えた。

 その1つ目は、空気は、「多数派に合わせること」である。日本の村意識独特の同調圧力や集団主義と言い換えてもよい。出る杭(くい)は打たれると言うように、マジョリティーに合わせていくことが空気を読む1つ目の側面だ。

 2つ目は、「予定調和に合わせること」である。私たちの会話は、予定調和的に進んでいくことも多い。その予定調和から外れること、特に、大きく外れてしまうと空気が読めないことになる。

 3つ目は、「その場の権力関係を読むこと」である。職場では、見えない序列もあれば、誰にでも明らかな職位があり、いずれも発言力などに差が出る。そこには、日本文化論でいうタテ社会の構造が見て取れる。そうした序列に従っていくことも空気を読むことの一面だ。

 4つ目は、「状況の定義に従うこと」である。私たちの日常は、状況によって様々な定義がある。それと同時に、他者から求められている自分や、期待されている役割もある。他者から求められている自分を演じること、それに合わせていくこと、その定義から大きく外れないように振る舞うことも空気の正体の1つである。なお、状況の定義は、ささいな出来事や言動でも刻々と変化していく。その変化を敏感に捉え、配慮していくこともまた空気を読むことに含まれる。

 これら4つの空気の側面は、あくまでも、大学生の考えた空気をまとめたものではあるものの、他の世代には当てはまらないのだろうか。

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