SDGs入門

SDGsの読み方はなぜ「エスディージー"ズ"」なのか 日本総合研究所 村上芽、渡辺珠子

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ゴール本文を読んでみよう

 17のロゴの一覧だけを目にしていると、ロゴについている短縮された目標の表現を頭に入れてしまいがちです。

 暗記してしまうことも悪くありませんが、例えば目標2では、ロゴについているのは「飢餓をゼロに」です。日本のような先進国で平均的な生活をしていると、「飢餓」と言われてもちょっと自分の課題ではないな、と感じて飛ばして読んでしまいたくもなります。実際、日本企業で目標2を重視している企業は少ない状況です(※3)。

※3 企業活力研究所[2017]「平成28年度『CSR研究会』報告 ―社会課題(SDGs等)解決に向けた取り組みと国際機関・政府・産業界の連携のあり方―」によると、SDGsの17のゴールのうち重視する課題について企業に聞いたところ、目標2を選んだ企業は約15%という回答結果で、国内では下から2番目、海外では下から3番目でした。

 ですが、目標2の全文は、「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」です。「食料安全保障」や「栄養改善」、「持続可能な農業」というキーワードも含まれていることが分かります。

 「食料安全保障」については、日本の食料自給率は約38% (※4)。99%以上を輸入に頼っている食料もあります。「栄養改善」については、あまり知られていませんが2500グラム未満で生まれてくる赤ちゃんを「低出生体重児」と言い、日本の割合は先進国の中では多い方の10% (※5)となっており、母親のダイエット志向が乳児に与える影響が心配されています。また、低所得層では野菜不足が確認されており(※6)、片寄った栄養バランスが懸念されます。さらに、「持続可能な農業」については、農家や畜産農家、漁業家の減少や、農薬や乱獲の問題が解消されていません。

※4 カロリーベース総合食料自給率の2017年度の値。農林水産省「食料自給率とは」サイトを参照。出所:http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/011.html

※5 ユニセフ「世界子供白書2017」、表2「栄養指標」。出所:https://www.unicef.or.jp/sowc/pdf/02.pdf

※6 厚生労働省「平成26年 国民健康・栄養調査報告」第89表。出所:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/dl/h26-houkoku.pdf

 目標2を「飢餓をゼロに」とだけ理解せず、全文を読むだけで、連想する世界が大きく広がります。食品、卸売(商社)、小売、化学(肥料や農薬)、産業機械、情報通信、運輸などの産業が広く関わっています。また、農林水産業に就く人を増やす取り組み、特に漁業で問題になっているような獲りすぎによる資源減少を予防するような取り組みもSDGsにつながります。高齢者や乳幼児、貧困家庭の栄養改善につながるような取り組み(子ども食堂など)も直結するでしょう。

169のターゲットこそ宝の山

 SDGsには17の目標のもと、169のターゲット(※7)も作られています。

※7 169のターゲットの訳は、外務省仮訳[1]のまま使用しています。なお、総務省の「持続可能な開発目標(SDGs)」のページにも総務省仮訳のエクセルファイルが掲載されており、閲覧しやすくなっています。出所:http://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/kokusai/02toukatsu01_04000212.html

 17だけしかないと、たとえ全文を読んでもさすがに課題が大きすぎて、具体的にどうしてよいかまでは分かりにくいです。そこで、17の目標にそれぞれついている細目にあたる、169のターゲットを見ていけばよいのです。まさに世界の「こうなりたい」が詳しく書き込まれているターゲットこそ、企業にとって取り組みのヒントになる宝の山だと言えます。

 前項で、目標2を例にまずはゴールの全文を読んでみましたが、目標2には、全部で8つのターゲットがついています。そのうち半分の4つについて、少し細かく見ていきましょう。

2.2 5歳未満の子どもの発育阻害や消耗性疾患について国際的に合意されたターゲットを2025年までに達成するなど、2030年までにあらゆる形態の栄養不良を解消し、若年女子、妊婦・授乳婦及び高齢者の栄養ニーズへの対処を行う。

 前半の、「国際的に合意されたターゲットを」に目が行くと、「何それ?」となってちょっと止まってしまいます。注記がついているわけでもないので少々不親切ですね。ここではWHO(世界保健機関)の「国際栄養目標2025 (※8)」のことを指しています。ただ、この手の政府間の条約や、国際会議での何らかの合意について、一つひとつ追いかけていくことは困難ですし、必要というわけではありません。

※8 世界保健機関「国際栄養目標2025」。2012年に設定されました。出所:https://www.who.int/nutrition/global-target-2025/en/

 民間企業としては、ターゲットの後半に注目し、「あらゆる形態の栄養不良を解消」すること、「若年女子、妊婦・授乳婦及び高齢者」の栄養を改善するような製品・サービスが求められているのだ、と理解することが第一歩になります。

2.4 2030年までに、生産性を向上させ、生産量を増やし、生態系を維持し、気候変動や極端な気象現象、干ばつ、洪水及びその他の災害に対する適応能力を向上させ、漸進的に土地と土壌の質を改善させるような、持続可能な食料生産システムを確保し、強靭(レジリエント)な農業を実践する。

 このターゲットは、農業を強く、持続可能にしよう、と言っています。したがって、農家のみならず、食品製造、卸・小売など農業から仕入れる立場の企業や、農業機械や肥料、農薬等の農業向けビジネスを行う企業にも関係が深いです。

 ここで目指している持続可能な食料生産システムは、世界中の人が飢えることのないよう、生産量を増やしつつも、生態系を維持したり土壌の質を改善させたりする、量と質を両立させたものとなっています。さらに、農業は気象の影響を大きく受けることから、地球温暖化により今後進行してしまう気候変動に対し、適応できるようにしておこうと述べています。2030アジェンダでは気候変動を最も深刻なリスクの一つと捉えていることから、このターゲットのように、様々な箇所でその影響について触れられています。

2.5 2020年までに、国、地域及び国際レベルで適正に管理及び多様化された種子・植物バンクなども通じて、種子、栽培植物、飼育・家畜化された動物及びこれらの近縁野生種の遺伝的多様性を維持し、国際的合意に基づき、遺伝資源及びこれに関連する伝統的な知識へのアクセス及びその利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分を促進する。

 このターゲットでは、冒頭に「2020年までに」とあってアレッと思いますね。169のターゲットの中には、このように、2020年や2025年を目標年に置いているものもあります。先ほどの2.2でもそうでしたが、2020年や2025年をもともと目標年に置いていた国際的な合意(条約や議定書など)がある場合、SDGsがその合意の具体名には触れずにエッセンスを取り上げているものです。

 ここでは、2010年に生物多様性条約の締約国会議が愛知で開かれた際に決まったことから、愛知目標(※9)と言われている目標群をもとに、特に遺伝資源に焦点をあてたターゲットになりました(※10)。

※9 生物多様性条約 名古屋議定書 愛知目標の目標13や目標16が近い内容です。出所:https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/aichi_targets/index_03.html

※10 生物多様性とは(1)生態系の多様性、(2)種の多様性、(3)遺伝子の多様性の3つのレベルであり、同じ種でも、遺伝子の形が異なると、体の形や模様、生態系に多様な個性が出ます。

2.b ドーハ開発ラウンドの決議に従い、すべての農産物輸出補助金及び同等の効果を持つすべての輸出措置の並行的撤廃などを通じて、世界の農産物市場における貿易制限や歪みを是正及び防止する。

 ターゲットの番号を見てください。数字ではなくアルファベットがついています。169のターゲットの中には、「2.1、2.2」のような数字のものと、「2.a、2.b」のようなアルファベットのものがあります。前者は特にゴールの中身に関するターゲット、後者は実現方法に関するターゲットというふうに使い分けられています。この2.bは、正面から貿易政策を対象としているので、企業としての役割を見出すところがありません。

 こういうことが政策課題に挙がっており、一見すると環境や社会というよりも経済政策ど真ん中の内容のものが、「飢餓をなくそう」と覚えがちな目標2のターゲットとして存在していると理解しておきましょう。

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