長島聡の「和ノベーションで行こう!」

機械制御用の独自AIで生産性向上と品質担保を両立させたい 第28回 エイシング 出澤 純一・代表取締役CEO

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独自のAIアルゴリズム「DBT」は機械学習と何が違うのか?

長島 次に御社が開発した独自のAIアルゴリズム「DBT」についてもう少し詳しく教えてください。他のAI技術に比べてどこがどのように違うのでしょうか?

出澤 簡単に言うと機械制御用のコンピューターに搭載して動作するAIネットワークに学習と予測させる機能を定義したもので、コンピューターがネットワークとつながらない状態でも、リアルタイム、かつ十分な精度で機械学習と機械学習に基づく予測などができます。DBTは「ディープ・バイナリー・ツリー」の略で日本語では「深層二分木」と呼んでいます。

長島 末端がそれぞれ二つに枝分かれする、ツリー状にデータを整理して制御に使うイメージでしょうか。

出澤 二分木の深層化もしています。普通の二分木は静的なものですが、DBTでは真っさらな状態から1レコードごとのデータをもとに「にょきにょき」と必要に応じて二分木が成長していきます。そうして成長する二分木から、深層学習の多階層ネットワークを連想したため「深層二分木」と名付けました。

長島 その深層二分木を成長させる処理が製造装置などに組み込むコンピューターで動くわけですね。AI技術としてよく聞く「深層学習(ディープラーニング)」とはかなり違います。

出澤 基本的な発想からして違います。深層学習では、人間が定義したニューラルネットワークの構造、それも固定化したものに、まとまった量のデータを一括処理させる「学習」によって、分類や回帰予測を行います。ご存じの通り、画像や音声の取り扱いが得意で、例えば、高解像度の写真を何枚も「学習」することで、写っているのが「犬か猫か」といった分類をすることができます。まとまった量のデータを一括処理することもあり、クラウドサービスとしてシステムを構築することが多いと思います。

 一方、DBTに基づいて作ったAIソフトウエアは、センサーなどからリアルタイムに取得したデータを掛け捨てで「学習」をします。専門用語でいうとオンライン学習、あるいは追加学習ができる学習器です。画像や音声のような多変量の処理は苦手ですが、少変量の機械制御には大変向いています。

 扱うデータの種類数は多くありません。センサーなどのデータを受け取る入り口も最大で100個に制限しました。この100個という数字は私が勝手に決めた値ですが、実用的なものです。自動車でも一つの制御系で100個を超えるセンサーを使う例はあまりありません。そうした個数にデータの入り口を制限することで処理速度と使用メモリー量などのバランスを取っています。

長島 一つの制御系でDBTを活用する場合、データの種類が100個もあれば高精度の学習をするために十分なデータが集められるということですね。

出澤 ちなみに、オンライン学習、追加学習のイメージですが、DBTでは1万件のデータを入力する場合も、1件目、2件目...とデータが届く都度、学習してその時点で最適な制御を行うことができます。例えば、出荷直後のきれいなタイヤを前提にスリップしないブレーキ制御システムを作ったとしましょう。運転を続けてタイヤがすり減るとそのブレーキ制御システムは十分機能しなくなり、改めてチューニングする必要があります。しかし、DBTを活用すれば、タイヤのすり減り具合に応じた補正を自律的に行うブレーキ制御システムが開発できます。

長島 要は常に学習して、その結果をリアルタイムで反映するAIのコアとなるのがDBTなのでしょう。深層学習だと、新品のきれいなタイヤを前提に作ったブレーキの制御システムは、タイヤがすり減ったら十分な機能を発揮できなくなります。あえて対応させるとしたら、1000キロ走ったときに、1000キロ走った場合のブレーキ制御システムを改めてダウンロードして更新すればよいのでしょうが、以後、2000キロ走ったとき、3000キロ走ったときなどに、ダウンロードをし続けなければなりません。

出澤 ダウンロードで更新する場合も課題があります。タイヤのすり減り方は、運転手の癖、車体重量などで大きく変わり、同じ減り方のタイヤは一つもありません。そこまで深層学習で対応しようとすれば、タイヤの摩耗状態をセンサーで測定して、すり減った状態ごとのブレーキ制御システムを多数用意するなど対応は複雑になるでしょう。しかし、DBTなら、タイヤの摩耗状態の情報は不要で、ブレーキを掛けたときの車体の動きをもとにブレーキ制御システムを自動チューニングすることができます。

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