長島聡の「和ノベーションで行こう!」

機械制御用の独自AIで生産性向上と品質担保を両立させたい 第28回 エイシング 出澤 純一・代表取締役CEO

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 日本型のイノベーション=「和ノベーション」を実現していくには何が必要か。ドイツ系戦略コンサルティングファーム、ローランド・ベルガーの長島 聡社長が、圧倒的な熱量を持って未来に挑む担い手たちを紹介していきます。今回のゲストは機械制御用の人工知能(AI)技術を開発しているエイシング(AISing)の出澤 純一氏(代表取締役CEO)です。

AIが冬の時代に機械制御用のAI開発をスタート

長島 AIの研究にはいつごろから取り組んでおられますか?エイシングを創業された経緯についてもぜひお聞かせください。

出澤 学生のとき2005年に、当時人気があったロボット工学の研究室に入り、「ロボットのAIによる知的制御がこれから重要になる」といった話を先生にしましたら、やはり学生だったキム(金 天海:現在、エイシング 取締役CTO/Director CTO)を紹介していただき、チームを組むことになったのが始まりです。

長島 今でこそAIは第3次ブームになって注目を集めていますが、そのころは、第2次AIブームが終わったところで、AIはほとんど注目されていませんでした。

出澤 まさにAIは冬の時代でした。キムと多くの企業を訪問して私たちの研究へ協力を求めたのですが、役員・部長クラスの方々は「いまどきAI?」みたいな冷たい反応です。その状況を打開しようと、2007年にAI関連の事業で起業をしましたが、収益が出ません。紆余曲折ののち、靴下やストッキング、化粧品、コップやストロー、高級腕時計などを輸入販売する日用雑貨品の卸売り会社を始めました。

長島 初めて聞きましたが、驚きです。日用品の卸売りとAIは関係ありませんよね(笑)。

出澤 実はこの卸売り会社は最盛期に年商2億円弱を達成するほど成長して、そこからAIの研究開発費を捻出することができました。その後、私の予想より10年以上早く第3次AIブームが到来し、12年越しのAI研究についても成果が出たのを機会に、エイシングを2016年にスピンアウトで設立しています。

長島 エイシングでは、機械への組み込み用途を念頭に独自のAIアルゴリズム「DBT(ディープ・バイナリー・ツリー)」を開発されました。それにしても大胆です。AIが冬の時代に、ロボットをはじめとする機械制御にAIを活用する――。ユニークすぎる挑戦です。

出澤 機械制御に、AIの技術である機械学習を活用しようとすると多くの壁に突き当たります。機械制御用のコンピューターは記憶容量(メモリー)も小さく、あまり大量のデータを処理できません。一方、機械は高速に動作しますのでデータ処理は瞬時に行う必要があります。そうした厳しい要求を満たすことができるAIの技術が、私たちが学生だったころ世界には存在しませんでした。「それじゃぁ、自分たちが作ろう」と考えて取り組んだのですが、ある意味、無謀です。「若かった」といえばその通りですね(笑)。

長島 世界的に見るとAIは冬の時代でしたが、AIの研究者は当時も少なくはなかったと思います。ただし、機械制御にAIを活用しようとする研究者はほとんどいませんでした。その理由は何でしょうか?

出澤 一つは、AIの技術に詳しくても、機械制御や生産現場に詳しくないことでしょう。AIを活用するには、「機械学習」と総称する個々のAI技術の特徴を理解する必要があります。一方、機械制御や生産現場には機械工学や現場の課題があります。機械制御にAIを活用しようとすれば、これら両方を理解する必要があります。

長島 AIの技術に詳しい技術者なら、シミュレーションで作ったロボットをコンピューターの中で自動制御するAIプログラムを作ることは容易でしょう。しかし、実際のロボットで、その機械制御用のAIを動かすと、まったく想定していない状況になって制御が破綻するのでしょうね。

出澤 もう一つは、AIのユーザー企業が、機械制御にAIを活用する利点をいまだによく理解していないことでしょうか。ユーザー企業にいる機械技術者の多くは、既存の制御技術の制限を「将来も解決できない限界」だと思い込んでいるように感じます。技術は常に進化しているため、従来は「解決できない限界」だったことが、現在は「解決できる課題」へ変化していることは珍しくありません。弊社のAI技術でその限界が突破できることを広く知っていただく必要があると感じています。

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