任せるリーダーが実践している1on1の技術

「パワハラやセクハラを生む?」 1on1の素朴な疑問19 組織人事コンサルタント 小倉広

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人事部からよく寄せられる疑問

【Q】 1on1は密室で行われるためパワハラやセクハラのリスクがあります。どのような対処法がありますか?

→  予防法としては、現場の管理職に対してハラスメント研修を実施すること、そして傾聴などの面談スキル研修を実施することが挙げられるでしょう。

 また、万が一、ハラスメントが起きてしまった時、迅速に対応できるように「1on1ホットライン」を設け、メールや電話で人事部もしくは顧問弁護士、外部コンサルタントなどに相談できる体制を構築しておくことが大切です。

 またハラスメント未満の危険な徴候を察知する意味でも、1on1実施後の上司、部下双方からの気づきや感想を記述するアンケートを取り、ログを残しておくことも有効です。

【Q】 1on1の実施場所はどこがいいでしょうか? カフェやレストランはありでしょうか?

→ 一般的には会社の会議室で行います。そのため、1on1を導入した企業では、慢性的な会議室不足、会議室難民が発生することが多いようです。その場合、多くの人はオフィスを出てカフェなどで実施するようです。しかし、社外での1on1は機密情報、個人情報の漏ろう洩えい問題や費用負担の問題(カフェ代を経費として精算しても良い、という会社はほとんどありません)などから、人事部が推奨したり許可することは難しく、暗黙の了解で行われている場合が多いようです。

 なお、予算に余裕がある会社であれば、これを機に1on1に適する従来とは異なるオープンな打ち合わせスペースを新たに設置してもいいでしょう。

【Q】 食事をしながら、飲みながら、の1on1はどうですか?

→  原則はNOです。「ながら」でできる会話はおのずと軽いものに限定されがちです。1on1を「ながら」で実施された部下は、はたして「自分が大切にされている」と実感できるでしょうか。また、アルコールが入ればなおのこと問題です。

 一方でお茶やコーヒー、お茶菓子、飴あめ、程度であればむしろ会話を促進する良き小道具となるでしょう。

【Q】 1on1で話した内容の守秘義務の徹底はどうすればいいでしょうか?

→ 1on1において守秘義務が守られることは大切なことです。上司が知り得た部下のプライベートや同僚に関する情報などを上司がぺらぺらと言いふらしてしまっては、信頼関係がぶち壊しになってしまいます。原則として、上司は1on1で知り得た情報について守秘義務を負い、部下はその前提で安心安全の場として1on1を有効活用するよう、事前の研修や人事通達などで伝えることが必要です。

 ただし、上長、経営トップや人事部が知っておくべき情報であれば、本人に許可を取った上で関係部署に展開し情報共有することが適切でしょう。

【Q】 業務時間内にやるのでしょうか? 終業後にプライベートでやるのでしょうか?

→ もちろん、業務時間内にやるべきです。プライベート時間に1on1を実施するのは違法です。

【Q】 1on1を人事部がバックアップするとしたら、どのようなことがあるでしょうか?

→ 最初に決めなければならないのは、1on1の導入を公式制度とするか、非公式の有志による草の根展開とするか、です。前者、すなわち公式制度であるならば、人事部のバックアップは多岐にわたります。しかし、後者、すなわち非公式の草の根展開であるならば、人事部の仕事は導入研修の実施、もしくはそれに加えたフォロー研修の実施程度となるでしょう。

  前者の場合、人事部は導入前のプロジェクトで主管部門となり、プロジェクトの実質的なリーダー役を担い、自社独自制度として様々なルールや体制を作ることになるでしょう。そして、導入後も効果測定やフォロー研修の実施、スーパーバイザーとして現場の悩み相談にのるなど、定型的な業務も発生してきます。

【Q】 話した内容をもとに評価を上げ下げされるのではないか?と部下側が疑心暗鬼になっています。

→ こちらも事前に上司、部下への周知が必要となります。1on1の目的はあくまでも上司と部下の関係の質の向上、エンゲージメントの向上であり、経験学習サイクルを回すこと。すなわち教育的施策であり、人事考課とは切り離されていることを明確にすることが大切です。先の守秘義務とあわせて確認しておきたいですね。

【Q】 部下の側から「上司がしゃべりすぎて話を聞いてくれない」とクレームが入りました。本人に伝えるべきでしょうか? 誰から伝えたらいいでしょうか?

→ 1on1の導入後で最も大切なのは「質」と「量」のメンテナンスです。質の維持で必要なのは定期的なフォロー研修やスーパーバイザーによる相談、助言です。その材料となるのがアンケートや実施ログ、ホットラインへの通達内容となります。このように部下サイドからの声がきちんと届けば対策は可能です。

 人事部もしくはスーパーバイザーが情報を定期的に管理し、この場合であれば「しゃべりすぎの上司」本人へ対して、柔らかめのフィードバックを伝達します。必要に応じて、本人の上長へもフィードバックすることが有効でしょう。その際、声をあげてくれた部下に対して事前に許可を得ることも重要です。

【Q】 実施状況のログを取るべきでしょうか? アンケートなどは毎回取りますか?

→ 先に挙げたように、1on1におけるトラブルを未然に防ぐ意味でも、また事後の対応をする際にもアンケートや実施状況のログは有効です。また、フォロー研修やスーパーバイザーによる助言の材料としても大いに役立ちます。その意味では、公式制度として人事部など主管部門を設定できる場合は、ログを取る方が良いでしょう。

 一方で、このログを取る場合、簡易なWEB上の入力システムを作るという手間と、毎回現場の管理者と部下が入力する手間、さらには、所管部門の人事部が定期的に内容を管理し、報告書を作成する手間がかかります。当然ながら、この手間を、現場サイドが嫌がり、やらされ感を生んでしまう、というリスクもあります。

 これらトータルでのメリット、デメリットをよく勘案し、ログを取るかどうか、公式制度として実施するかどうかを決定する必要があります。

 なお、WEB上のアンケートは簡易なものでよく、パッケージソフトやスケジュール管理などの既存のシステム、さらには無料のアプリケーションなどで導入することが可能です。

【Q】 人事考課面談、目標管理面談との違いは何でしょうか?

→ 連載第1回をご参照下さい。

【Q】 人事異動、昇進昇格、退職などへの対処法は?

→ 上司側の人事異動であれば、1on1を新部署で従来通り実施してもらえばいいだけです。しかし、1on1の最初はプライベートを含めた相互理解からスタートすることが多いため、人事異動があまりにも頻繁であると部下側は「また一からプライベートの話か……」と少し辟へき易えきしてしまうかもしれません。

 新任管理職に対しては導入研修の実施が必要です。ある程度の人数が定期的に集まる場合は集合研修を実施することで問題ありませんが、一人、二人など少人数の場合、研修開催は困難です。そんな時のために、私がお手伝いしている会社では、導入研修をビデオ撮影しておき、二人、三人とロールプレイができる人数がある程度まとまったところで、ビデオ+ロールプレイの簡易導入研修を実施しています。

 部下側の退職が決定した場合、退職日ギリギリまで1on1を変わらず継続するか、退職決定と同時に1on1を中止するか、は判断の分かれるところです。各社の人事ポリシー、経営判断で決めていただければと思います。

小倉広 著 『任せるリーダーが実践している1on1の技術』(日本経済新聞出版社、2019年)、「PART1 経営者・人事部のための全社的視点での1on1」から
小倉 広
株式会社小倉広事務所代表取締役。大学卒業後、株式会社リクルート入社。組織人事コンサルティング室課長など企画畑を中心に11年半勤務。ソースネクスト(現東証一部上場)常務取締役、コンサルティング会社代表などを経て現職。現在は、アドラー心理学と企業経営を熟知した数少ない専門家として大手上場企業を中心に数多くの企業にて講演、研修を行っている。

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キーワード:人事、管理職、プレーヤー、人事、人材、研修、働き方改革

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