任せるリーダーが実践している1on1の技術

「パワハラやセクハラを生む?」 1on1の素朴な疑問19 組織人事コンサルタント 小倉広

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 最終回では1on1の導入にあたり、多く寄せられる疑問とそれに対する筆者の回答例を記載します。なお、回答はあくまでも筆者の視点であり、必ずしも正しい回答であることを保証するものではありません。一つの視点として参考にしていただければ幸いです。

経営者からよく寄せられる疑問

【Q】 1on1をやることで本当に業績、効果が上がるのでしょうか? 効果測定はどのようにするのでしょうか?

→ 何をもって1on1の成果とするか、を先に定めなくてはなりません。1on1を導入しても売上、利益が上がらない。よって1on1は成果なし、と定義づけるのはあまりにも安直な判断です。売上、利益を決める変数は無限にあります。そのような最終成果ではなく、中間成果をもって1on1の成果と定義づけるのが一般的でしょう。多くの企業では、上司と部下のエンゲージメントや関係の質の向上に関する実感をアンケートで測定したり、1on1への満足度や業績向上への期待、などの主観を数値化するのが現実的なようです。

【Q】 我が社は1on1に向かないような気がします。1on1に向いている会社、向いていない会社の違いはありますか?

→ 1on1導入のお手伝いをしてきた経験から言えることは、導入が比較的スムーズか、困難かの違いはあると思います。その違いはコミュニケーションに関する企業風土に起因する場合が多いようです。特に上意下達の風土が強い業界や企業では導入に困難を伴うことが多いでしょう。しかし、最も大切なのは「現在」どのような風土であるか、ではありません。「これから」どのような風土を作りたいか、ではないでしょうか。もしも「これから」は上意下達ではなく自由闊達(じゆうかったつ)で創造的な風土を作りたい、指示待ちではなく自分で考える自立的人材を育てたい、定型反復的な業務ではなく、変革・イノベーションを起こしたい、などという「これから」の目標があるならば、1on1は力強い手法となると思います。

【Q】 ゆくゆく1on1を実施していきたいのですが、まだ当社には早いような気がします。もう少し機が熟してから実施したいと思いますがいかがでしょうか?

→ 何をもって「まだ早い」とおっしゃっているのかがわからないため、お答えが難しいですが、あえて一般論を申しあげるとするならば「卵が先か、ニワトリが先か」の問題であるように思います。1on1を導入するために話しやすい土壌を先に作るのか、話しやすい土壌を作るために1on1を導入するのか。もしも前者を検討されているのであれば、1on1以外の手法をもって「話しやすい土壌」を作ることが必要となります。はたして、どのような手法を検討されているのでしょうか? 私には1on1以上に適する手法はあまり思い浮かびません。であるならば、逆に、1on1を使って話しやすい土壌を作った方が早いように思いますが、いかがでしょうか。1on1は決して劇薬ではなくじわじわと効いてくる漢方薬のような手法です。比較的着手しやすいのではないでしょうか。

【Q】 1on1はトップ自らが実践しなくてはいけませんか? 中小企業であれば社長自らが、大企業であれば事業部長自らが実践する必要がありますか? 当社では実現が難しそうです……。

→ トップの実施は必ずしも必須ではないように思います。例えば、事業部のトップは事業部長ですが、部のトップは部長、課のトップは課長、チームのトップはチームリーダーです。対象範囲を小さく切り取れば、課長やチームリーダーの独断で1on1を実施してもいいわけです。もちろん、全社的に公式制度として人事部門のサポートがあり、トップ自らが強いコミットメントを実施するのであれば、それは大変強力なバックアップです。しかし、それは必須ではありません。課長やチームリーダーが強い意思を持って実践し、効果を実感できるのであれば小さな単位から始めてもよいですし、そのように実践されている方もたくさんいらっしゃいます。

【Q】 全社で一斉に導入する前に、社長と役員のみ、もしくは、管理部門のみでお試し的に実施してみてもいいでしょうか?

→ はい。いいと思います。小さな範囲で実施するのは、フィジビリティ・スタディにもなりますし、組織変革を進める場合の常道でもあります。大きな組織を一気に変えるのは難しいものです。そうではなく、比較的着手しやすく成果が出しやすい小さな部門で切り取って、実験的に大きな変革を実践し、成果を出す。次にその成果を宣伝材料として、社内に伝達し輪を広げていく、というのは組織変革のセオリーの一つです。その心意気で将来の全社導入を目指し、試験的に小さく切り取った範囲で実施していくのは良い方法だと思います。

【Q】 頻度は週に1度が必須でしょうか? もう少し減らしても大丈夫でしょうか。また時間は30分は必須でしょうか? 15分程度ではダメですか?

→ 適度な範囲であれば、時間の加減は問題ないと思います。この場合、「適度」な範囲とは、自ら社長として5年間実施した経験から言えば、頻度は「毎週もしくは隔週」が基本。時間は「30分から60分が基本」、時に応じてイレギュラーあり、が適切だと思います。なお『ヤフーの1on1』によれば、同社では「隔週15分でも可能、ただし、間隔が空きすぎないよう、最低でも3週間に1度は行いましょう」と推奨しているようです。

 また、1on1を経営の最重要事項として最初に位置づけ紹介したと言われているインテルの元CEOだったアンドリュー・グローブ氏は著書『HIGH OUTPUT MANAGEMENT(ハイアウトプットマネジメント) 人を育て、成果を最大にするマネジメント』(2017年刊行、日経BP社)の中で以下のように述べています。「1on1の頻度は、職務内容や部下の成熟度に応じて変えても良い」と。具体的には、変化のスピードが遅い研究開発部門では月に1回程度でもよく、変化の速いマーケティング部門の場合はもっと頻繁に行う。また、成熟したベテランでは回数を減らし、経験が少ない部下の場合は頻度を上げるなどでも良い、と述べています。

 また、同氏は、1on1の実施時間についても以下のように述べています。「実施時間が短ければ部下はやっかいな問題を持ち出さずに、簡単な問題しか持ち出さない。やっかいな問題を充分に論じるだけの時間を割くべきだ。最低1時間は設けるべきであろう」と。ちなみに、筆者が従業員20名弱のコンサルティング会社で部長陣のみを対象に行っていた1on1は、「週1回」「1時間」で実施していました。ご参考になれば幸いです。

【Q】 1on1を始めても続かないのではないでしょうか? 我が社はとても忙しく、その上、「働き方改革」などにより残業削減の圧力も強く、時間が取れないのではないかと危惧しています。

→ ごもっともの懸念です。しかし、時間はない、のではなく、誰にでも24時間平等に存在します。要は何を優先するか、という優先順位の問題です。1on1と日常業務のどちらを優先するか、だけの問題でしょう。実際に1on1を7年間実践しているヤフー社が他社と比較して「時間にたっぷりと余裕がある」企業だとは私には思えません。1on1の効果や価値を信じてどれだけ優先順位を高めるか。それをトップ自らがコミットメントし伝え続けるか否か、の問題であるように私は思います。

【Q】 1on1を実践したいと思いますが、トップダウンではやりたくありません。できれば現場から「やりたい」と声が上がるのが望ましいと思います。どうすればいいでしょうか。

→ 社内コミュニケーションの活性化や部下育成などをテーマに社内でプロジェクトチームを結成し、議論を進めてはいかがでしょうか。その際の選択肢の一つとして1on1を検討してもらうのです。導入に際しては、トップダウンではなく、プロジェクトからの提言を経営トップが承認した、という形にするわけです。

  また、導入に際しては、フィジビリティ・スタディとして特定の部門で先行実施をし、その際のデータを利用すると啓蒙活動が容易になるでしょう。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。