任せるリーダーが実践している1on1の技術

「時間取れない」「話がネタ切れ」よくある1on1の失敗と対処 組織人事コンサルタント 小倉広

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 第1回で説明したように様々な効果が期待できる1on1(ワン・オン・ワン)ですが、メリットばかりとは限りません。やり方によっては、以下のような失敗が起きがちです。事前に発生しうるリスクを予測し、対処していくことが求められます。

1. 時間が取れず実施できない

 1on1導入初期に最も多く聞かれるのがこの「時間がない」というものです。はたして、それは本当でしょうか?時間はあらゆる人に対して平等に1日24時間与えられています。時間がないのではなく、「1on1よりも優先順位が高い業務がある」もしくは「1on1の優先順位が低い」というのが正しい表現となるでしょう。ここまで明らかになれば答えは簡単です。「1on1の優先順位を高くする」、これが対策となるでしょう。

 かつて、私がお世話になったリクルート社では日々の営業活動で忙しいトップ営業マンほど新卒採用のリクルーターとして面談を数多くブッキングされていました。私もかつてトップ営業マンの一人として次々と面談を設定され、上司に対して悲鳴を上げた経験があります。「営業アポイントと面接アポイントがバッティングしています!」、すると所長は平然とこう言いました。「営業先のお客さんの方に時間を変更してもらってくれ」と。これは、「営業活動よりも採用活動を優先する」というリクルートの考え方が、全社で徹底して共有されていたからだと思います。

 同様に、1on1が「経営の最優先事項」として共有されていれば「忙しくて時間がない」という声はなくなるでしょう。「1on1を経営の最重要事項と位置づける」、経営陣が本気でそれにコミットし自ら実践する。これが唯一の解決策ではないでしょうか。

2. 話のネタが尽きてしまう

 私の経験上、このようなことは、1on1がきちんと運用されていれば、ありえないと断言できるでしょう。

 まだ1on1という名称が一般的になる以前、2010年頃から、私は自ら経営する小さなコンサルティング会社で営業部長、コンサル部長たち数名と毎週1時間の1on1を5年間継続した経験があります。当時はまだ1on1という手法の存在を私が知らなかったため、私はこのミーティングを「ティータイム面談」と名づけていました。その内容は、週1回、1時間、上司ではなく部下を主役としており、現在の1on1そのものです(詳細は2011年刊行『任せる技術』(日本経済新聞出版社)CHAPTER6「定期的にコミュニケーションする」参照)。

 その際に、話題が途切れたことは一度もありません。それでも「ネタが尽きてしまう」という声が現場から上がってくるとすれば、以下の問題と解決策が考えられるでしょう。

(1) 1on1の本来の目的が理解されておらず、単なる業務連絡や業務相談になっている

→解決策 1on1の本来の目的(エンゲージメントの向上と経験学習サイクルを回す)を徹底して共有する

(2) 上司と部下の信頼関係が築けておらず、部下が本音を話してくれない

→解決策 最初の3回程度は一切業務の話をせず相互理解の場とすることで、安心・安全や信頼関係を築く

(3) 何を話したらいいか、皆目見当がつかない

→解決策 1on1テーマシートなどを作成・共有し、慣れるまで使用してもらう

(4) やってみても成果が挙がっているように感じられない

→解決策 そもそも「成果」とは何か?の定義をきちんと共有する。私が1on1の導入をお手伝いしている企業の多くは「成果」を「エンゲージメントを高める」「経験学習サイクルを回す」の2点に絞って共有しています。そのため、例えば「売上や利益の数字がすぐに上がらない」「部下の成長が見えない」などと焦って「成果」を求めることはありません。そうではなく、「関係の質の向上」や「経験から学べているか」を「成果」の定義にするのです。ここがきちんと共有されていれば「成果が見えない」といった声は上がらずに継続できるようになるはずです

(5) いつも単なる雑談で終わってしまう

→解決策 (3)のテーマシートを活用することも有効ですが、それだけではなさそうです。おそらくは、1on1を主導する役割の上司の側に「傾聴」「質問」「勇気づけ」「フィードバック」といったスキルが不足していることが予測されます。1on1を有効に活用するためには、上司に対するスキル付与、マインド醸成、メソッド付与が必要不可欠です。1on1導入前には管理者に対する導入研修の実施が必要でしょう

 経営トップや人事部がきちんとした導入の準備をせずに「なんとなく」1on1をやってみると、このような問題が頻発してしまいます。「なんとなく」始めてしまって、「うまくいかなかった」→「やりたくない」という雰囲気になった後で巻き返すのは非常に困難です。事前にこれらの対策を練った上で導入、運用を始めることを私はお勧めしています。

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