天下人たちのマネジメント術

キングダムに見る中国との付き合い方 渡辺義浩・早稲田大文学学術院教授に聞く(上)

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「古典中国」モデルを支える3つのポイント

 ――しかし秦は始皇帝の死後数年で滅亡しました。

 「法家のイデオロギーだけでは、統一を実現させても維持することは困難でした。漢では、昔からある制度や慣習を認めながら統一と中央集権を肯定する論理ものみ込んだ儒家が登場してきます。この思想が中国人にフィットしたため漢は前後420年も存続したのです」

 ――現代の中国人にも「譲れない一線」と言わしめる古典中国モデルの特徴は何でしょうか。

 「第1に『大一統』です。中国は分裂してはならず、統一されていなければならないという意識です。そのためにはトップができる限り強力なリーダーシップを発揮できる体制が望ましいのです」

 「第2に『華夷秩序』です。日本では中華思想の名前で知られていますが『中国人は自分をエラいと思っている』という単純なものではありません。儒教的価値観と漢字文化を持っているかどうかが基準になりました。民族や生まれではなく、文化の有無で決めるのです」

 ――現代のソフトパワーを先取りしていたのですね。

 「第3が『天子』の存在です。法家の厳罰主義は、体制に従う動機が功名心と恐怖心しか存在しないアメとムチで縛るシステムでした。人の忠誠心を引き出すのに『逆らったら怖い』ではなく『この人に従うことが正しいあり方で自分の存在する世界のしかるべき秩序である』と思わせる権威を作り出したのです」

 ――「天子」の現代版が共産党幹部や企業トップなのですね。一般の中国人もいつも自信満々といった印象を受けます。

「どんなに混乱しても参照すべきモデルを持っているという自負があるからでしょう。広大な土地と膨大な人民を統治する人の情を排除した価値観でコーティングしたのが、古典中国モデルなのです」

■始皇帝、高祖、光武帝の果たした役割

 ――古典中国モデルを作り上げたリーダーは誰でしょうか。

 「まず秦の始皇帝です。辺境にあったいわばベンチャー企業を、法家という『0か1か』のデジタル思想を駆使して独占トップに成長させました。漢の高祖(劉邦)は性急に過激な制度を強行して強い反発を受けぬようにハイブリッド型統治を進めました」

 「第3に後漢の光武帝です。現代で言えば政治学の優秀な学生でもあった光武帝は、北宋の趙匡胤と並んで功臣を粛正しなかった数少ない君主でもあります。軍縮や官僚登用制度の整備など古典中国の整備に大きく貢献しました」

(聞き手は松本治人)

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キーワード:経営層、管理職、プレーヤー、経営、営業、国際情勢

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