任せるリーダーが実践している1on1の技術

シリコンバレー企業が重視する1on1 人事考課面談と何が違う? 組織人事コンサルタント 小倉広

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■エンゲージメント(絆)により様々な効果が期待できる

 1on1により期待される効果として、最初に挙げられるのは会社と社員のエンゲージメント(絆・愛着)です。グーグル社が実施した高業績チームの秘訣を探るプロジェクト・アリストテレスで明らかになったことが一つあります。それは、高業績に最も大きく影響を与える因子が「心理的安全性:Psychological Safety」であったことです。「誰もが均等に話す機会があること」「自由に意見が言える」「否定されない」、これらの条件があることで初めてチームの業績が高まるのです。グーグル社では、心理的安全性を確保するという目的で1on1を五つの重要マネジメント施策の一つとして位置づけています。

 このように、心理的安全性が企業の業績に影響を与えることが明らかになったからでしょうか、近年、人事施策のキーワードとしてエンゲージメントが注目を集めています。エンゲージメントが高まれば、以下のように様々な副次的効果が期待できるでしょう。

 第1の副次的効果は組織の「アジリティ(俊敏さ)とスピード向上」です。昨今の「時短」により、忌み嫌われている会議ですが、削減すべきは「ムダ」な会議。報告だけの会議や出る必要のない会議は減らすべきです。しかし、1on1のような「意味のある」ミーティングは逆に生産性を高め、組織にアジリティとスピードをもたらすのです。『ヤフーの1on1』の著者である本間浩輔氏は著作の中で「1on1の実施により意思決定と実行スピードが高まった」と述べています。

 第2の副次的効果は「意欲向上」です。心理学者のエドワード・デシは動機づけには2種類あると提唱しました。一つは賞罰つまりはアメとムチによる「外発的動機づけ」。そしてもう一つが仕事自体の楽しみによる「内発的動機づけ」です。前者の効果が時間と共に低下し、必要となる賞罰がより大きくなっていくことは皆さんも想像できるのではないでしょうか。デシが提唱した「内発的動機づけ」の3条件ではメンバー一人ひとりが「有能性」を感じられる仕事を「自己選択」でき、チームの「人間関係」が良好に保たれていることが必要である、と述べられています。1on1はその三つすべてを支援する最適のツールと言えるでしょう。

 第3の効果は「スキルアップ」です。高度化、複雑化する業務のスキルアップを行うに際して有効性が確認されているのが、デビッド・コルブ教授が提唱する経験学習サイクルです。真の学習とは座学ではなく経験から学ぶことにある、という学説です。しかし、単に経験を積むだけでは学習は起きません。経験を内省し、概念化し、それをまた新たな経験に反映させる、というサイクルを回すのです。そのためのプラットフォームとして、1on1は最適な環境といえるでしょう。1on1という場における対話を通じて経験学習サイクルを回していくのです。

 第4の効果は「理念・戦略へのアラインメント(方向の調整)」です。理念や戦略など抽象水準の高い言葉は人により理解の幅が大きく異なるもの。そのズレを修正していくためには抽象的な理念や戦略と、具体的な日々の行動をすり合わせることが必要です。営業現場における顧客と営業マンとの会話内容や、製造現場における設計、生産活動の具体的事実などを1on1の場で確認することで、理念や戦略とのズレの修正が行われ、結果としてアラインメントが実現されるのです。

 第5の効果は、問題の早期発見、対処です。上司と部下が定期的に対話を行っていれば、自ずと問題の早期発見が可能となります。問題の発見が遅れれば問題が大きくなり、対処が難しくなりますが、早期発見ができれば問題を小さな芽の段階で摘み取ることができます。もちろん、予防も可能となります。もぐらたたきのように問題に対処するのではなく、小さな芽を摘み、問題の発生を予防する。1on1ではそれが実現できるのです。

 第6の効果は、リテンション(人材の維持・離職防止)です。少子高齢化の進行と日本経済の堅調な推移により、有効求人倍率はバブル期を超える1.63(2019年1月)となっています。これは、企業にとって、新しく人を採用することが難しいことを意味しています。しかし、ほとんどの企業は離職防止に力を入れていません。これは不思議な現象です。もしも、1on1導入により離職者を一人でも減らすことができたならば、その効果は数百万円~一千万円になるでしょう。代替人員を1名採用、育成するのに軽くそれくらいの金額はかかるからです。昔も今も、退職理由の第1位は圧倒的に「上司と部下の人間関係」です。適切に運営された1on1によりエンゲージメントが積み重なれば、離職防止につながるのは必然です。

 また、隠れた効能の一つとして、社員のメンタル・ヘルス(心の健康)の向上も挙げられます。これは、1on1を導入して数年の企業の人事部長からこっそりうかがった話です。「1on1を続けてみて、一番驚いたのはメンタル・ヘルスの相談や休職、退職が激減したことです」

 2015年に導入された「ストレス・チェック制度」の義務化により、企業は社員のメンタル面での対応を迫られています。1on1はその対策としても、うってつけといえるでしょう。

小倉広 著 『任せるリーダーが実践している1on1の技術』(日本経済新聞出版社、2019年)、「PART1 経営者・人事部のための全社的視点での1on1」から
小倉 広
株式会社小倉広事務所代表取締役。大学卒業後、株式会社リクルート入社。組織人事コンサルティング室課長など企画畑を中心に11年半勤務。ソースネクスト(現東証一部上場)常務取締役、コンサルティング会社代表などを経て現職。現在は、アドラー心理学と企業経営を熟知した数少ない専門家として大手上場企業を中心に数多くの企業にて講演、研修を行っている。

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キーワード:人事、管理職、プレーヤー、人事、人材、研修、働き方改革

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