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スタートアップ人材はなぜエストニアに集まるのか

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 エストニアは人口約130万人のヨーロッパの小国ながら、約550のスタートアップ企業が集積する。スカイプ、オンラインカジノのプレイテック、海外送金のトランスファーワイズに続き、ライドシェアのボルトとユニコーンを計4社輩出している。同国でなぜスタートアップが続々誕生するのか?その背景には国内外でのIT人材確保と教育がある。

 人材確保で注目したいのはスタートアップ・ビザだ。EU域外からエストニアでの起業を希望する人や、EU域外の人材を雇用したいエストニアのスタートアップ企業に向けたビザで2017年1月に始まった。2年間で延べ1000人以上の申し込みがあり、約900人が審査に合格、エストニアへの移住権利を得た。2018年に申し込みが多かったのはロシア、インド、イラン、トルコ、ウクライナといった国々、その中で合格率が高かったのは、ロシア、トルコ、ウクライナだった。

 スタートアップ・ビザ制度は他の国にもあるが、エストニアの特徴は審査組織にある、とスタートアップ・ビザを運営するスタートアップ・エストニアのメリリン・ルック氏は指摘する。スタートアップ・ビザに申し込むと、起業のアイデアや、当該企業がスタートアップとしての資格があるかといった資格審査が行われる。この審査組織は、政府関係者が中心ではなく、テクノポール、スタートアップワイズガイズなどの著名インキュベーターや、エストニア起業家団体の計7団体で構成されている「非常にユニークなもの」(ルック氏)だ。

 「制度をはじめた当初は50件の応募を目標にしていましたが、最初の1年で300超の応募がありました」とルック氏は語る。エストニア全体のデジタル先進国としてのブランディングがスタートアップ・ビザへの注目度の高さにつながり、好循環を生んでいる。

 クォン・ロク・ン氏はスタートアップ・ビザの1期生。もともとは出身地の香港でスタートアップを経営していたが、2年半前にエストニアのスタートアップ、ジョバティカルに転職しエストニアに移住。その後、スラック上で共有されたURL、画像、ファイル等の情報を簡単に保存したり、スラック上でのやり取りをもとにした自動応答チャットボットを提供するキップワイズを起業した。

外国人人材登用のいま

 「Work in Estonia」と銘打った政府主導の就労・移住促進プログラムも人材確保に寄与している。2015年にスタートし、テクノロジー分野での高度技能人材獲得を目指している。ウェブサイトを通じ、エストニアで働きたい人と外国人人材を雇用したいエストニア企業に対する情報発信や、パンフレットやイベントを通じたPRを行う。「Work in Estoniaのウェブサイトでは現在1,000弱の求人情報がサイトに掲載されていますが、そのうちの6~7割がICT関連の仕事です」(エンタープライズ・エストニアで「Work in Estonia」を主導するレオナルド・オルテガ氏)という。

 Work in Estoniaでは移住後の支援も実施している。「Work in Estoniaの目的は、人々にとって、就労・居住する場所として、エストニアを最初の選択肢に考えてもらうことにあります。実際に住んだ後のサポートも重要だと考えています」とオルテガ氏は指摘する。エンタープライズ・エストニアでは、「インターナショナル・ハウス」という窓口を設置し、警察や税務署の担当者が交代で駐在し、移住者からの質問に迅速に答えられるようにしている。

エストニアが注目を集める理由

 外国人起業家からエストニアが注目を集める理由を、エストニアで会社を経営する起業家に聞いてみたところ、「周辺諸国よりも比較的生活費が安く、税制が簡素でオンラインで手続きできて簡便だ」(エストニアでデザイン会社を経営するアミッド・モラッドガンジェ氏)という声があった。

 また、市場自体は小さいものの、エストニアの電子政府基盤と結びついたサービスを展開できるマーケットのテクノロジー的先進性や可能性をブロックハイブの日下光氏は指摘している。エストニア国民ではない人にオンライン上での法人登記を可能にする電子国民(e-Residency)制度による国外からの新規参入可能性の拡大や、同制度向けの新たなサービス提供者の登場など、エストニア政府のテクノロジーを活用した国家戦略も魅力となっている。

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