新「企業と社員」関係論―人生100年時代に

エグゼクティブサーチ最前線「求められるシニア人材」 立命館大学教授 西山昭彦

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求められる人材

 市場で求められる人材について、若いころから外資系でやってきた人は、自分のキャリア、専門性、つまり売り物が明確で、また面接にも慣れているので、日本企業でやってきた人とはインパクトが違うそうだ。確かに、マーケティング専門で実績を上げ続けてきた人と、大企業でローテーションをしてきた人では、こと専門性に関しては勝負にならないかもしれない。

 それ以上に、自分の身ひとつで転職を繰り返し生きてきた外資の人と、終身雇用に守られてきた日本企業のサラリーマンでは、転職に関するノウハウや意気込みにも相当差があるに違いない。同じ土俵では勝負しにくい。

 そこで、質問を変えてみた。「外資でなく、日本の新興企業への転職で年齢を問わず成功した例はどうですか」。田畑さんは、それに答えて、好事例を挙げてくれた。

 「少し前に、フィンテック系のベンチャー企業で、リスク管理やコンプライアンスなどの守りを固められる役員を外部から採用したいという緊急性の高いニーズがあり、案件としてお手伝いしていました。クライアント企業は創業数年のベンチャー企業で、平均年齢は30歳前後、役員の平均年齢でも30代後半くらいの若い企業ですが、ビジネスを軌道に乗せていく上で、金融の世界で長年培ったリスク・コンプライアンスの経験を持つ人の採用が経営の最重要課題でした」

 「忘れもしないお盆のど真ん中の日、どうしても2ヶ月以内に採用したいというクライアントの要望を受け、すぐに案件を開始しました。そんな折に、50代中盤のドンピシャの経験を持つ方に出会いました。その方は、大手都市銀行の経営企画部から外資系金融機関に移り、管理部門のなかでもリスク管理、コンプライアンスのプロとして取締役兼COOを務めていました。自分の知見・経験をこれまでとは違った形で世の中に還元したいと漠然と思っていらっしゃった際に、偶然巡り合ったのです。その方とお話し、お人柄や好奇心の強さなどを感じるにつれて、『これだ!』という確信が私の中で生まれました」

 レポートを書きクライアントに提出したところ、最初は年齢を見てすごく戸惑っていたが、実際に会ってからは、豊富な経験、温厚な人柄やその会社のビジネスへの関心の高さを理解し、是非採用したいとなったそうだ。

 現在は執行役員として、上からも下からも頼りにされ、社長からも「彼を採用できたおかげで組織に安定感が生まれた」という声をいただくなど、想像をはるかに超える活躍をされているという。

 確かに、その分野のノウハウは新興企業に欠けていると思われる。気になる問題は、自分の子供くらいの人に囲まれ、年代差の中でどう溶け込むのかである。その点について、田畑さんが、入社3か月後のフォローアップでご本人に会った時に言われたことがある。

 「こんなにワクワクした気持ちで仕事をしたのは、大学を卒業して新入社員として銀行に入行した時以来だよ。同僚よりも少し長く生きているからか、専門分野を超えて色々と相談されることも多く、30代の同僚と、焼き肉とか食べ放題のお店で毎晩のように語り合ってるよ。毎日がとても充実していて、家に帰ってもワクワクが止まらず、思わず社内のコミュニケーションツールを開けちゃうんだ」。聞いているだけで、この転職の成功が目に浮かんでくる。

日本の30~40代へ

 中西経団連会長が「正直言って、経済界は終身雇用なんてもう守れないと思っているんです」と発言した。日本企業のサラリーマンはその時代にどう生きていけばいいのだろうか。田畑さんの答えは明快だ。

 「私たちは会社を通じて社会に貢献しています。その貢献を最大化するために、今の会社、仕事でいいのかを、一度立ち止まって自分自身に問いかけてみてほしいと思います。もしかしたら、別の場を選んだほうが、社会的インパクトは大きくなるかもしれません。転職という形でなくても、他企業への出向や海外駐在など、積極的に他流試合の機会を作っていくことはキャリア上の大きなプラスになると思います」

 「常に意識してスキルアップすることに加え、ミドルになっても新しい分野に積極的にかかわっていく気持ちを持ち続けることが重要だと思います。好奇心、チャレンジ精神を失えば、スキルの価値は下がってしまいます」

 「大企業には、ベンチャー企業にはない潤沢な資金力や組織力という財産があるので、それを使って新分野に挑戦する提案を出し、自ら実践することでスキルを高めることも良いでしょう。大企業のいわゆる本業には安定がありますが、新分野には修羅場があるかもしれません。でも、修羅場こそスキルを高める機会ですので、その機会を利用しないのはもったいないです」

 将来求められる人材になるために、一社にいてもやること、やれることがあるという。

 田畑さんは実家の経営にかかわっていれば、地位も権限もあったはずだ。多くのオーナー系の人々はその道を歩んでいる。またご両親もそれを望んでいるかもしれない。その環境に甘んじないで、あえて外資の中でプロフェッショナルとしての挑戦を続けている。今回はこれからの時代に求められる人材像について聞いたが、田畑さんの生き方自身が、日本のサラリーマンに自分を見直す契機を提供している。

西山 昭彦(にしやま・あきひこ) 立命館大学教授
一橋大学社会学部卒業後、東京ガス入社。ロンドン大学大学院留学、ハーバード大学大学院修士課程修了。中東経済研究所研究員。アーバンクラブ設立、取締役。法政大学大学院博士後期課程修了、経営学博士。東京女学館大学国際教養学部教授、一橋大学特任教授などを経て18年から立命館大学共通教育推進機構教授。人材育成、企業経営、キャリアデザインを中心に研究し、実践的人材開発の理論を構築。研修・講演は通算1000回を超える。「ビジネスリーダーの生涯キャリア研究」がライフテーマ。著書は計62冊

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