泉田良輔の「新・産業鳥瞰図」

PayPayが火を付けたキャッシュレス決済戦争が向かう未来(中) テクノロジーアナリスト/GFリサーチ 代表 泉田良輔

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第3グループ「銀行系」は金融機関としての信用力をもとに利用者拡大を狙う

 「銀行系」サービスはその名の通り銀行がプレーヤーになっているキャッシュレス決済サービスである。そもそも銀行は給与振り込みや公共料金の引き落とし、オンライン送金といった実績のあるキャッシュレス決済サービスを提供してきた。

 とはいえ、日々の細かな買い物の小口決済まで銀行口座を介している人は多くはないであろう。銀行口座に直結した小口のキャッシュレス決済サービスとしてはデビットカードがあるが、その利用比率は大きくない。

 一般社団法人キャッシュレス推進協議会が2019年4月に発表した「キャッシュレス・ロードマップ 2019」によれば、キャッシュレス支払額の約9割をクレジットカードが占める[16]。ややデータが古くなるが、日本銀行決済機構局が2017年5月に公開した「最近のデビットカードの動向について」という報告書では、各種カード決済手段のうちデビットカードの決済比率(金額ベース)は約2%に過ぎない[17]。

 そうした銀行業界も遅ればせながらスマホコード決済サービスへの対応に動いている。みずほフィナンシャルグループと、みずほ銀行は2019年3月、「J-Coin Pay」を開始したと発表、ゆうちょ銀行は2019年5月に「ゆうちょPay」を開始した[18][19]。さらに日本電子決済推進機構は、同年秋からオールバンクのスマホコード決済サービス「Bank Pay」を開始すると2019年4月22日に発表した[20]。いずれも銀行口座との「直結」してスマホコード決済ができるサービスだ。

 金融機関としての信用力をもとに利用者拡大につなげようとしているようだが、金融機関の口座直結のスマホコード決済サービスにどの程度の魅力を感じてもらえるかについては利用者の反応を待つ必要があろう。

 第2グループの「通信キャリア系」サービスとここまで見てきた第3グループの「銀行系」サービスの各プレーヤーには意外な共通点がある。

 いずれも通信、金融という社会活動の基盤を担う業種の企業である一方、ユーザーの購買行動へ「直接的に」かかわってこなかったところである。当然といえば当然であるが、通信も金融も社会インフラの拡張とその運用がその主たる事業であり、消費者がECサイトなどで購買行動を起こすツールとして、あるいは起こした結果として必要になるものだ。

 そうした事業特性があるなか、ユーザーと直接の接点を持つサービス系のプレーヤーに対抗できる魅力的な決済事業を確立しなければならない苦しさがある。

 通信業界では、通信サービス自体の付加価値が低下している状況を揶揄(やゆ)するとき、「土管屋」と呼ぶことがある。もちろん、事業者は「土管屋」にならないよう、金融、コンテンツ配信やECといった、ユーザーにより近く、付加価値が高いサービスへ事業を広げている。

 それと同様に、銀行は、金融の「土管屋」にならないようにすることが不可欠であり、銀行が自らスマホコード決済サービスを手がける理由もそこにある。

 もちろん、預金金利がほぼゼロという環境の中で、銀行預金口座・ゆうびん貯金口座に「直結する」というだけでは、ほとんど魅力はない。銀行系のスマホ決済サービスが使われるには、金利以外のメリットを打ち出す必要があり、サービス系のスマホコード決済では数%の還元が普通にあることを考えると、そのハードルは決して低くはないことを関係者は肝に銘じるべきだろう。

 世の中には銀行口座に給与が振り込まれると、アマゾンのギフト券にすぐチャージして買い物をする人がいる。アマゾンでは1回当たり9万円以上チャージをすれば、通常会員であれば2.0%、有料のプライム会員であれば2.5%のポイントがつく[21]。金利とポイントは一概に比較はできないが、そうしたサービスと銀行のスマホコード決済サービスは戦う必要がある。

(つづく)

参考情報)

[9] 『Amazon以外のサイトでも、Amazonみたいにお買い物しよう。』(アマゾン・ドット・コム)

[10] 『楽天ペイアプリで払える・送れる・貯められる』(楽天)

[11] 『2018年度通期及び第4四半期 スライド資料』p.47(楽天)

[12] 『2018年度通期および第4四半期決算発表』プレゼンテーション資料p.32(ヤフー)

[13] 『2018年度決算説明会』p.13(NTTドコモ)

[14] 『2019年3月期決算』p.15(KDDI)

[15] 『2018年度通期及び第4四半期 スライド資料』p.21(楽天)

[16] 『キャッシュレス・ロードマップ 2019』p.8(一般社団法人キャッシュレス推進協議会)

[17] 『最近のデビットカードの動向について』p.12(日本銀行決済機構局)

[18] 『「J-Coin Pay」アプリの提供開始について』(みずほフィナンシャルグループ、みずほ銀行)

[19] 『ゆうちょPay』(ゆうちょ銀行)

[20] 『オールバンクのスマホ決済サービス「Bank Pay」今秋よりサービス提供開始』(日本電子決済推進機構)

[21] 『Amazonギフト券チャージタイプ』(アマゾン・ジャパン)

泉田良輔 (いずみだ りょうすけ)
 テクノロジーアナリスト/GFリサーチ 代表。個人投資家のための金融経済メディアLongine(ロンジン)編集長、および株1(カブワン)LIMO(リーモ)の監修も務める。それ以前はフィデリティ投信・調査部にて日本のテクノロジーセクターの証券アナリスト、日本生命・国際投資部では外国株式運用のファンドマネジャーとして従事。慶応義塾大学大学院卒。著書に『銀行はこれからどうなるのか』『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』。東京工業大学大学院非常勤講師。産業技術大学院大学講師。

キーワード:経営、企画、技術、製造、経営層、営業、管理職、プレーヤー、経営、イノベーション、国際情勢

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