泉田良輔の「新・産業鳥瞰図」

PayPayが火を付けたキャッシュレス決済戦争が向かう未来(中) テクノロジーアナリスト/GFリサーチ 代表 泉田良輔

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第1グループ「サービス系」はプラットフォーム戦略の一環として取り組む

 「サービス系」のサービスを手がけるのは前述のようにネットサービス事業者であり、「PayPay」がソフトバンクグループ(サービス事業者としてはヤフーが対応)、「LINE Pay」がLINE、「メルペイ」がメルカリ、「Amazon Pay」がアマゾン・ドット・コム、「楽天ペイ」が楽天だ。メルペイまでの三つのサービスに関する概要と戦略は前回説明したので、残りの二つのサービスについて概要と戦略を説明しよう。

 Amazon Payは、「アマゾン・ドット・コム」のネット決済機能を開放するサービスが出発点になっている[9]。ユーザーはメーカーなどが運営するEC(電子商取引)サイトから商品を購入する際、アマゾンのサイトに登録したアカウントでログインするとともにアマゾンのサイトに登録したクレジットカードで決済ができる。アマゾンを信頼するユーザーにとっては購買がスムースに進み、安心感があるだろう。2018年8月にはAmazon Payの拡張として「Amazon Payスマートフォン決済」機能が、Amazonショッピングアプリに追加され、スマホコード決済ができるようになった。アマゾンが持つEC事業者としての強みを生かして実店舗における決済にも取り組む戦略だ。

 楽天ペイは、「スマホひとつでクレジットカードでのお支払いができるアプリです」と説明されるように、クレジットカードなどからチャージして支払いを行うスマホコード決済サービスである[10]。楽天ペイの支払い元を楽天カードに設定して、楽天ペイで支払いをすると、利用金額の5%分の楽天ポイントが得られるなどが特徴だ。

 楽天はサービス系プレーヤーでありながら、クレジットカード、銀行、証券、保険といった幅広い金融事業を総合的に展開するユニークな存在である。楽天グループは、2019年4月から楽天カードの傘下に、楽天銀行、楽天証券、楽天インシュランスHDなどの企業をまとめて「FinTech(金融)事業」と総称すると同時に、楽天ペイメントの傘下に、楽天Edyとみんなのビットコインをまとめて「決済事業」と総称する体制へ移行した[11]。決済事業にいっそう注力するための体制変更だろう。

 PayPayを持分法適用会社にしているヤフーも2019年10月に体制変更を予定している。10月以降、ヤフーはZホールディングスへ社名変更し、持ち株会社となる。また、Zホールディングス傘下に新設のヤフー、金融中間持株会社などを置く。ヤフーもワイジェイFXを100%子会社、またワイジェイカードやジャパンネット銀行などの金融機関を連結子会社として抱えているが、10月以降はそれらを金融中間持株会社にぶら下げる体制にする[12]。

 また、LINEも野村証券と組み、「LINE証券」を設立したり、国内ではみずほフィナンシャルグループと2020年度中に新銀行「LINE Bank(仮称)」を立ち上げる構想を発表したりするなど、金融事業に力を入れる戦略が明確になっている。

 サービス系プレーヤーは、既存のコンシューマー向けEC事業(LINEはコミュニケーションサービス)とその幅広いユーザー接点を軸に、金融事業やデジタルマーケティング事業などを総合的に展開するプラットフォーム戦略を推進している。決済事業はその戦略の重要なピースなのである。

 もっとも、PayPayにしても、楽天ペイにしても新興のキャッシュレス決済サービスでありながら、クレジットカードというレガシーな決済インフラを重視している。その点については次回で触れたい。

第2グループ「通信キャリア系」は携帯電話契約者の数を背景に攻める

 第2グループの「通信キャリア系」サービスのプレーヤーは「d払い」のNTTドコモ、「au PAY」のKDDIで、それぞれが抱える数千万単位の携帯電話契約者を背景に、キャッシュレス決済サービスを展開している。ECサイトや実店舗での商品購入代金をスマホアプリに登録したクレジットカードで支払えるほか、携帯電話利用料金と一緒に支払うこともできるのが特徴だ。支払方法は制限されるが、d払い、au PAYとも携帯電話回線契約者以外が利用できるようにもしている。

 d払いは2018年4月25日にサービスの提供が開始された。2019年4月7日にはアプリダウンロード数が400万を突破したと発表している[13]。「d払い」という独立したスマホアプリを利用して決済を行う。au PAYは2019年4月9日にサービスの提供が開始され、5月13日の時点で登録者数が200万人を突破したと発表された[14]。au PAYは、「au WALLET」という電子マネーアプリ内の一つの機能である。「au WALLETプリペイドカード」という専用カードを登録して利用する。

 通信キャリア各社の契約者数を考えると通信キャリア系サービスは、潜在的なユーザー数が多いのは確かだ。しかし、携帯電話の契約者であっても決済サービスまで利用してもらうのは決して容易ではないだろう。

 もう1社の通信キャリアであるソフトバンクは直接、スマホコード決済サービスを提供していないが、持ち株会社ソフトバンクグループ、並びにヤフーと連携し、PayPayを軸にしたスマホコード決済事業を展開しているのは前回説明したとおりである。PayPayでは、通信キャリアとは別のブランドをつくることで利用者の拡大を狙っている。そもそもヤフーと密に連携してサービスを拡大してきた背景が影響しているのだろうが他の通信キャリアとは異なる戦略だ。

 ちなみに、楽天も自社で設備を持つ本格的なモバイル通信事業者になることを発表している。従来は、楽天が他通信キャリアの設備を借りる形態のモバイル通信事業者になっていたが、この4月に関連会社の楽天モバイルへ事業主体を移すとともに、楽天モバイルが2019年10月には本格的な移動体通信事業をスタートする予定だ。当初は自前設備でサービスを提供する地域が限定されるが、ローミング協定を含むKDDIとの業務提携を締結することで全国でサービスが受けられるようにすると2018年11月に発表している[15]。

 そうした意味で、サービス系と通信キャリア系の各決済サービスは、業界を超えた覇権争いに突入しているといえる。NTTドコモが今後、ヤフーでもなく楽天でもない大手のEC業者やネットサービス事業者とさらに踏み込んだ連携をするかもしれない。

補足: NTTドコモは6月27日、スマートフォンを利用した決済サービスでLINE並びにメルカリと連携すると発表した。

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