現場発で考える新しい働き方

副業・兼業で何が問われているか 弁護士 丸尾拓養

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 働き方が変わっていく中で、副業や兼業への関心が高まっています。政府も成長戦略の柱の一つとして、副業などをしやすい環境づくりを掲げています。しかし、実際に副業などが進めば企業と労働者に何が起きるのでしょう。法的な側面から考えてみます。

 2017年3月に策定された「働き方改革実行計画」では、「柔軟な働き方がしやすい環境整備」の一つとして、「副業・兼業の推進に向けたガイドラインや改定版モデル就業規則の策定」が挙げられました。「副業や兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効である」との一文もあります。その後の高齢者雇用や社会保障に関する動きを見たとき、「第2の人生の準備」が副業・兼業に関係するものと位置付けられていることは興味深いと言えるでしょう。

副業・兼業するのは低所得と高所得者

 2017年12月には「柔軟な働き方に関する検討会」の報告がまとめられ、2018年1月には「副業・兼業の促進に関するガイドライン」と「改訂版モデル就業規則」が公表されました。次に示すように、モデル就業規則では、副業・兼業が原則自由で届出制となっており、かつ禁止または制限できるというものです。届出制で禁止というのは、法的にはやや理解が困難です。3項の書き方も実務に耐え得るとは言い難いでしょう。

(副業・兼業)
第67条  労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
(1) 労務提供上の支障がある場合
(2) 企業秘密が漏洩する場合
(3) 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
(4) 競業により、企業の利益を害する場合

 「働き方改革実行計画」では、「複数の事業所で働く方の保護等の観点や副業・兼業を普及促進させる観点から、雇用保険及び社会保険の公平な制度の在り方、労働時間管理及び健康管理の在り方、労災保険給付の在り方について、検討を進める」とありました。

 2018年7月から厚生労働省内で「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」が開催され、2019年4月16日に開催された第6回会合までに、現行制度の課題として、(1)副業・兼業先の労働時間の把握方法、(2)割増賃金、(3)健康管理などが議論されています。労基法では1週40時間、1日8時間などの労働時間の枠の規制があり、これを超過した労働には割増賃金が支払われます。36協定には上限規制が課されます。この労働時間は複数の事業場、異なる企業で働いた場合でも通算されることとなっています。このため、たとえば1日に本業と副業に従事した場合、1日8時間超となったか否かが日々把握できることが必要となります。これを労働者の自己申告に委ねていいのか(過少申告だけでなく過大申告する場合もあり得る)、企業での把握には困難があることなどが指摘されています。

 もっとも、厚生労働省が作成した資料によると、やや古いデータながら、「副業をしている者を本業の所得階層別にみると、本業の所得が299万円以下の階層で全体の約7割を占めている」、「雇用者総数に対する副業をしている者の割合を本業の所得階層別にみると、本業の所得が199万円以下の階層と1000万円以上の階層で副業をしている者の割合が比較的高い」とされています。

 ここでは、副業・兼業の推進の目的が、比較的低所得層の労働者が複数の雇用をされて所得を増加することであるようにも見えてきます。労働者人口の全体の数が増加することが期待されていますが、今後は正規雇用よりも、正規雇用以外の労働者が増えていくことが予想されます。副業・兼業の議論は、正規雇用者よりも、正規雇用者以外を対象としているのでしょう。または、現在の「正規雇用」に替わる新たな多数派の労働者(もはや「非正規雇用者」ではない)を対象とするのでしょうか。検討会の議論は、これまでと同様に正規雇用が続き、正社員が副業・兼業することを前提としているようにも見えます。しかし、働き方改革実行計画にあった「第2の人生の準備」とは、必ずしも定年後だけを意味するものではないのかもしれません。

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