泉田良輔の「新・産業鳥瞰図」

PayPayが火を付けたキャッシュレス決済戦争が向かう未来(下) テクノロジーアナリスト/GFリサーチ 代表 泉田良輔

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 続いて、メルペイを見てみよう。

 メルカリの決算資料によれば、メルペイの事業方針として、現在のフェーズ1は「先行投資」と位置付けられる。ここではユーザーおよび加盟店の拡大を狙い、フェーズ2でフリマアプリの「メルカリ」とのシナジーを、そしてフェーズ3で「メルペイの収益化」に向けて、取引データの蓄積に伴う、さらなる信用の創造と個人および企業への付加価値提供を目指すとしている[26]。

 メルペイを導入する店舗では、初期費用・固定費はなく、決済手数料は決済ごとに1.5%を徴収する程度だ。メルカリ連結での業績も加味してか、「決済手数料無料競争」とは一線を引いている。

 ちなみに、楽天ペイも導入費は無料であるものの、決済手数料は3.24%と、こちらも決済手数料を無料にはしていない。

 プレーヤーごとに、店舗側が負担する決済手数料だけを見ても思惑が異なるのが見て取れるが、より多くのユーザーを獲得するという目標はどこも同じであろう。そして、そうした状況を達成した時に何をしたいのかということだ。

個人の幅広い行動データが新たな付加価値を生む

 各社の動きは見えにくいものの、最終的な目標の一つは「銀行」に似た機能を持つことだと私は考えている。独立した法人としての「銀行」を持つかどうかは別として、銀行の三大機能である「決済」「金融仲介」「信用創造」を内製化したいのだろう。

 一つ目の「決済」機能を取り込むことができれば、個人の行動(取引)とキャッシュの流れを一段と幅広くデータとして把握することで、個人の行動データについて新たな付加価値を創造できるようになる。

 ネットサービス事業者ネットにおける個人の行動は買い物、オークション、フリマやシェアリングなど、年々広がっているものの、たとえばネットサービス事業者が把握できるのはネットでの行動だけで、ユーザーが現金を持ってコンビニなどの実店舗で行う買い物の行動までは把握できない。スマホコード決済は、その抜け穴をふさぐ手段の一つであり、ネットと実店舗の行動を統合した個人の行動データを記録する道を開く。

 たとえば、メルペイという「決済」アプリで「新品」を購入すれば、「中古」ではない「新品」の購買履歴を把握することができる。その購買履歴をともに将来、ユーザーに関するデータを蓄積とともに使わなくなった商品を「中古」としてフリマであるメルカリに出品することを提案することもできよう。

 もちろん、個人の行動データをこれまで以上にきめ細かく集めたからといって、個人の消費嗜好をより適切に把握し、タイミングよく必要な商品やサービスを提供しやすくなるかというとそんな簡単な話ではないが、情報銀行によって個人データを流通させようとする動きもある。そうした将来性に期待しているのだろう。

 二つ目の「金融仲介」とは、銀行が個人から預金を受け入れ、それをもとに貸付を行う機能である。ただし、キャッシュレス決済サービスのプレーヤーは貸付のような金融サービスに進出するのではなく、モノの取引における金融仲介の効率化に期待しているのではないだろうか。

 「決済」のみを扱いたい事業者、また預金と貸付で「金融仲介」だけを得意とする金融機関はそれぞれ存在する。しかし、モノを仲立ちとして「決済」と「金融仲介」のような機能を実現できるプレーヤーは多くないであろう。この観点からはメルカリとメルペイ、Yahoo!ショッピング・ヤフオクとPayPayの組み合わせはそれぞれの「決済」や「金融仲介」といった機能だけを取り扱う競合企業に対して優位性があると言えよう。

 三つ目の「信用創造」機能は、銀行から貸し出した資金を回収して、再び貸し出すことを繰り返していくうちに、預金残高が増えていくことを指す。これと全く同じメカニズムをここまで見てきたプレーヤーが目指しているとは言わないが、モノを媒介として、連鎖的に経済効果を生み出す流れが起きると考えている。

 これは、ネットを介して個人がモノを相互利用しようとする、いわゆる「シェアリング・エコノミー」の考え方に通じるところでもあるが、誰かに所有されるモノで十分に評価されなくなっているモノが別の誰かにとっては有益であり、そのモノが貸し出されたり、引き渡されたりすることで「新品」を買うよりも安価に便益を手にできるようにすることだ。

 たとえば、メルカリでは、所有するモノを提供した側は、需要者から対価であるカネを手にすることで別の便益を求めに行くだろう。また「新品」を購入するよりも安価に便益を手にした方は、さらにそれ以外の需要機会にカネを当てることができる。そうした具合に、需要と供給の機会を次々と生み出すことが可能である。メルペイには、キャッシュレス決済によって、この流れを加速する役割が期待されていると思われる。

 こうした個人とのモノとカネのやりとりを促進させる際、事業者が一時的に自社でモノを買い付けたり貸し出したりすると自社の資産と負債の管理が必要となってくる。金融機関同様にアセット・ライアビリティー・マネジメント(ALM)が欠かせなくなるが、モノという在庫を抱えることでマッチングする機会が増えれば、事業者にとってはメリットがある。

参考情報)

[22] 『Apple Pay キャッシュレスをここまで簡単に』(アップル・ジャパン)

[23] 『アップル、ゴールドマンと開発したクレカ「アップルカード」披露』(ブルームバーグ)

[24] 『2018年度通期および第4四半期決算発表』プレゼンテーション資料p.25(ヤフー)

[25] 『店舗オーナーのみなさん スマホ決済入れました?』(PayPay)

[26] 『FY2019.6 3Q PRESENTATION MATERIAL JAN.2019-MAR.2019』(メルカリ)

泉田良輔 (いずみだ りょうすけ)
 テクノロジーアナリスト/GFリサーチ 代表。個人投資家のための金融経済メディアLongine(ロンジン)編集長、および株1(カブワン)LIMO(リーモ)の監修も務める。それ以前はフィデリティ投信・調査部にて日本のテクノロジーセクターの証券アナリスト、日本生命・国際投資部では外国株式運用のファンドマネジャーとして従事。慶応義塾大学大学院卒。著書に『銀行はこれからどうなるのか』『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』。東京工業大学大学院非常勤講師。産業技術大学院大学講師。

キーワード:経営、企画、技術、製造、経営層、営業、管理職、プレーヤー、経営、イノベーション、国際情勢

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