郷原弁護士のコンプライアンス指南塾

インスタで再燃した不適切投稿を巡るコンプライアンス問題 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原 信郎

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

インスタのストーリー機能を利用した不適切投稿が新たな問題に

 一方、今年に入り相次いで問題となっているのが、写真や動画の共有が中心という特徴を持つSNSサービス、インスタグラム(Instagram)のストーリー機能を利用した不適切投稿である。

 ストーリー機能とは、エフェメラル(消える)サービスの一つで、投稿内容が24時間で自動的に削除される仕組みになっている。24時間限定という気安さから投稿への心理的ハードルがかなり低い。また、投稿者は共有する相手を選択でき、投稿したストーリーを誰が閲覧したか、誰がスクリーンショット(画面の保存)を取得したかなどまで確認できるため、安心感もある。つまり、非常に軽い気持ちで投稿できるという特徴がある。

 SNSのツールは利用者への投稿促進のため、外部の目を意識しなくて済むように常にアップデートされているが、インスタグラムのストーリー機能は、その最たるものの一つだといえる。

 インスタグラムにはリポスト(他人の投稿をシェアする)機能がなく、ツイッターほどの拡散力はない。この事実も、投稿への心理的ハードルを下げているが、実際には、他社のアプリなどを利用してインスタグラムの投稿を保存することはとても簡単に行われており、第三者の手によって投稿がツイッターなどへ転載・拡散されるケースは珍しくない。

 今年頭、牛丼チェーンすき家の店員が店舗内で氷を投げるなどの悪ふざけをした動画をインスタグラムのストーリーに投稿し、ツイッターへ転載されて拡散し、炎上した。これが一連の騒動の発端となり、相次いで同様の事例が発生している。

 回転すしチェーンのくら寿司(当時の社名は、くらコーポレーション)では、教育担当のアルバイトらが、調理していた魚を一度ゴミ箱に捨ててから取り出し、まな板に戻す行為を撮影した動画をインスタグラムのストーリーとして投稿したが、これがツイッターで拡散した。事件を受けてくら寿司の株価は、前日比2.3%下落した。

 同社は投稿に関係した従業員について「雇用契約を終了し、退職処分とした」と同時に、「刑事、民事での法的処置の準備」に入ったと公表(実際、5月29日には元アルバイトら少年3人が偽計業務妨害の疑いで大阪府警に書類送検された)。このような「法的に厳粛な対応」を行う理由として、以下の2点を挙げている。

1. このような状況の中、ご来店いただき温かいお言葉をかけてくださるお客様、株主様、お取引様に対し上場企業としての責任を果たし、全国で共に働く約33,000人の従業員の信用回復の為。
2. 多発する飲食店での不適切行動とその様子を撮影したSNSの投稿に対し、当社が一石を投じ、全国で起こる同様の事件の再発防止につなげ、抑止力とする為。

 また、不適切行為を受けて、携帯電話・スマートフォン・SNSに関するルールの再徹底を含む「勉強会」を、海外を含む全店舗で行うことも発表。さらに、「信頼回復に向けた取り組みについて」と題した動画も公開し、勉強会以外にも(1)本部カメラシステムでの確認の強化、(2)衛生管理の徹底、(3)スマホ持ち込み禁止の徹底、といった対策を行うとした。

 さらに、ほぼ同時期、飲食チェーン大戸屋のアルバイトが芸人のモノマネをし、下半身をお盆で隠すなどした動画が転載・拡散されて炎上した。

 大戸屋ホールディングスと事業会社の大戸屋は、謝罪を行うとともに、この従業員を退職処分としたことに加えて、「法的措置を検討中」と公表。(1)全店で、全従業員向けの勉強会を開催し、店内における服務規律の徹底、食材・店舗備品の取り扱い、並びに衛生管理ルール、SNS等インターネット投稿における社会的影響と責任について再教育、(2)スマートフォン等携帯端末のバックヤード以外の店舗内への持ち込み禁止ルールの周知徹底、(3)雇用契約書締結時の服務規定の確認強化――という3点の再発防止策も公表した。

 その後、丸一日を一斉休業として研修を実施すると発表し、1億円の特別損失を計上。実際に一部店舗を除いて休業し、昼と夜の2回、1時間の勉強会と3時間の店内清掃を実施した。

企業は「環境変化への不適応」によって発生するリスクに対する感度を高めるべき

 このような最近のインスタグラムでの「不適切投稿」による問題が、2013年頃に多発したツイッターによる「バカッター問題」と大きく異なるのは、当初のインスタグラムへの投稿は、従業員自身が意図的にネット空間へ拡散させようとしたのではなく、短時間の狭い範囲での共有という認識で行ったものだという点だ。それが、本人の意図に反して、第三者が投稿を転載し拡散することで大問題に発展したのである。ネット空間での「拡散リスク」についての従業員の認識不足が企業に大きな損害を与える結果になるところに特徴がある。

 社会へ広く拡散されることで、企業イメージに対して重大なマイナスの影響を生じさせる「不適切行為」を、仲間内での「悪ふざけ」として見ると、同様の行為は、若者の間では昔から存在していたともいえる。インスタグラムのストーリー機能を用いて動画を撮影する側の心理としては、仲間にウケることしか頭になく、それが外部に拡散されることなどまったく意識していなかったということであろう。

 不適切投稿の「予期せぬ拡散」に関与しているのが、問題投稿を掘り起こして拡散し、徹底的に叩く一定のネットユーザーの存在だ。普段からツールを使って問題になりそうなつぶやきや動画などを収集し、拡散しようと火種を探す人、火種を見つけて徹底的に叩いて炎上をあおる人、投稿者を特定して私的制裁を行う人などがネットにはいる。方法・動機は様々であるが、現状では、こうしたネットユーザーに対して有効な手を打つことは難しい。

 そして、「不適切投稿」が社会的に大きな問題となり、企業が大ダメージを受けるのは、テレビ等のマスコミで大きく取り上げられるからだ。その背景に、SNS等のネットの世界における出来事が、そのままテレビのニュースやワイドショー等で取り上げられるようになっている「テレビとネットの融合」という現象がある。

 問題の本質は、こうしたネットの世界の急速な「環境変化」に、企業が適応できていなかったことにあると考えられる。

 「不適切投稿」問題への対応で、くら寿司と大戸屋に共通するのは、(1)不適切投稿者への厳罰方針、(2)従業員教育、(3)店内へのスマホの持込み禁止だ。このうち、(2)と(3)は、同種行為の再発防止のために合理的な方法であり、これらによって、外食チェーン等で多発した不適切投稿は一応沈静化するだろう。それに対して、(1)不適切投稿を行った従業員に多額の損害賠償請求を行うといった厳罰方針は、処罰を「検討」する程度ならともかく、実際に実行することが適切と言えるのか疑問だ。投稿が世の中に広く拡散することを意図しておらず、仲間内だけの、悪ふざけの域を出ない「一回の不適切行為」を行っただけの従業員に対して、衛生面や健康面での被害という実害が生じていないのに、数千万から億単位の損害賠償債務を負担させれば、企業と従業員の関係を大きく損なうことになりかねない。

 昔であれば、仲間内の「悪ふざけ」で済んだ行為が、「環境の激変」という外部要因によって意図しない形で社会へ広く拡散するようになったという「問題の本質」を踏まえ、企業としては「環境変化への不適応」によって発生するコンプライアンス・リスクに対する感度を高め、適切な予防措置をとっていくことが重要であろう。

郷原 信郎(ごうはら のぶお)
郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年島根県松江市生まれ。1977年東京大学理学部卒業。1983年検事任官。公正取引委員会事務局審査部付検事、東京地検検事、広島地検特別刑事部長、法務省法務総合研究所研究官、長崎地検次席検事などを経て2003年から桐蔭横浜大学大学院特任教授を兼任。2004年法務省法務総合研究所総括研究官兼教官。2005年桐蔭横浜大学法科大学院教授、コンプライアンス研究センター長。2006年検事退官。2008年郷原総合法律事務所(現郷原総合コンプライアンス法律事務所)開設。2009年総務省顧問・コンプライアンス室長。2012年 関西大学特任教授。2014年関西大学客員教授。現在、公職として、国土交通省公正入札調査会議委員、横浜市コンプライアンス顧問を務めている。

キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。