少子化する世界

イギリスでも進む晩産化、30歳未満で産んだ人数は1人へ半減 日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャー 村上 芽

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4段階で格付けされるイギリスの保育所

 イギリスでも、子育て支援策や仕事との両立支援策は推進されている。特に1997年に労働党政権が成立して以降、進展したといわれている。それまでは保守党政権だったこともあり、育児や介護は女性が担うべきであるという意識や、労使関係については労使の自主的な決定に委ねるべきであるという、どちらかというと伝統的な価値観の方が勝っていた。出生率の面では先進国のなかでは「まあまあ高い」グループにあり、低出生率に直面した危機感という側面は比較的薄い。この点は、フランスやドイツなどと違うところであろう。その後、2018年現在は保守党政権になっているが、施策の全体が極端に後退したというようにはみえない。

 子育て支援策や仕事との両立支援策については、充実はしているが、特に際立って特徴があるというほどではない。1990年代後半から仕事と子育ての両立支援を強化したことによる成果はある程度出ており、例えば0歳児のいる母親の状況でみると、1996年から2017年までの約20年で、就業率は約45%から69%に、フルタイムも22%から44%に倍増している。

 イギリスでも父親の育児休暇は制度化され、取得が推進されている。その取得状況について「ほとんどの人は2週間だけ取るにすぎない」と答えてくれた、2児の母である大学研究者は、「労働時間を調整して週4日大学に勤務し、平日のうち1日は子どものためにあて、自転車やランニングを一緒にしている」と話す。

 これだけ聞くと仕事と生活のバランスが取れている充実した状況が想像できるが、「週4日にこだわると、勤務する日は早朝から出て帰宅は20時になる。研究にはもっと本腰を入れたい半面、子どもと過ごす時間を減らす気にもなれず、満足ゆくまで両方やるのは本当に難しい」という。彼女が早出し帰宅も遅い平日の食事は夫が担当するが、朝はシリアル程度でごくごく簡単に済ませるらしい。

 育児と家事を別に扱っている様子が分かるが、イギリスではもともと食事を合理的に済ませる傾向が強いことは、仕事と子どもに時間を使いたい女性にとっては好環境なのかもしれない。

 なお、イギリスには2006年平等法に基づく平等人権委員会(Equality and Human Rights Commission)という独立機関がある。政府の予算で活動するが、イングランド、スコットランド、ウェールズの各政府に対して独立して、イギリス国内をより公平(フェア)にするという役割を担う。同委員会の最近の調査テーマとして、父親の休暇取得や妊産婦の職場における差別も挙がっており、イギリス国内においてもいまだにこれらが課題となっていることが分かる。

 子育て支援の内容よりも、イギリスで特徴的なのは、様々な事柄について点数をつけて指標化したり、評価を明示したりすることだ。先に取り上げた「社会移動性」についても、地域別に点数をつけ、どの地域がより硬直的なのか一覧できるようになっている。

 この傾向は貧困関連の分野にとどまらず、非営利活動(例えば環境や社会課題関連のNPOなど)向けの評価や成果指標づくりといったたぐいのことについて、総じてイギリスは好んで取り組む傾向がある。子育て支援の分野においても、保育の質のバラツキが懸念されたことなどにより、保育の基準を統一するために、担当省庁を教育雇用省に集中したり、乳幼児段階の子ども向けの段階別保育基準を制定したりしている。

 そうしたわけで、イギリスでは保育所(主にナーサリーと呼ばれる)を見つけたい場合でも、簡単に格付けを活用することができる。イギリス政府には、議会に直結して、教育水準局(Office for Standards in Education ,Children’s Services and Skills:Ofsted)という教育機関専門の監査組織がある。Ofstedは主に学校査察を行う機関として知られているが、保育所も監査の対象となっている。

 保育所は「Outstanding(優)」「Good(良)」「Satisfactory(可)」「Inadequate(不適)」の4段階で格付けされる。2018年8月時点で、対象となった地域に7万8900の保育所等のサービスがあり、9割以上が「優」か「良」となった*8。保育所等サービスには、保育士(チャイルドマインダー)による小規模保育も含まれている。「優」のつくナーサリーについては、特にロンドンでは入所できるまで2年待ちになることも珍しくはないようだ

*8 Ofsted [2018]“Annual Report 2017-18”. 出所:The Annual Report of Her Majesty’s Chief Inspector of Education, Children’s Services and Skills 2017/18

(終わり)

村上 芽 著 『少子化する世界(日経プレミアシリーズ)』(日本経済新聞出版社、2019年)、「第4章 イギリス・スウェーデン――「少子化」から「子育て」の質へ」から
村上 芽(むらかみ・めぐむ)
京都大学法学部卒業後、日本興業銀行(現・みずほ銀行)を経て2003年より株式会社日本総合研究所。現在、創発戦略センターシニアマネジャー。専門分野は気候変動と金融、SDGs、子どもの参加論。共著に『ビジネスパーソンのためのSDGの教科書』『投資家と企業のためのESG読本』(ともに日経BP社)、『進化する金融機関の環境リスク戦略』(金融財政事情研究会)、『地球温暖化で伸びるビジネス』(東洋経済新報社)などがある。

キーワード:経営層、管理職、プレーヤー、経営、営業、国際情勢

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